2016年の大手所属事務所からの独立以降、テレビで姿を見かけることがめっきり少なくなった女優・のん(28)。ファンを中心に表舞台への復帰を待望する声が根強くあるが、実はNHKの番組にはよく出演している。
のんがNHKでよく起用されている理由
一昨年の3月、東日本大震災の時期には『あさイチ』や『ニュース7』といった人気番組に3日連続で登場。最近では朗読やナレーションという役回りでEテレへの起用が相次いでいる。この正月にも、気がついた人は少ないだろうが、Eテレの朝の子ども向け番組『へんテナ』に出演していた。NHKにはけっこう出ているのだ。
当時の所属事務所とのトラブルや「洗脳」と一部で報じられたことなどをスポンサーが気にするためか、民放ではまだのんを使いにくいようだが、その点、NHKにはスポンサーがいない。のんがNHKによく出演しているのはそれが大きな理由だろう。だが、ほかにもNHK特有のワケがあるという。
「それは彼女が大手事務所を辞めて独立した、いわば独立系女優だからです。大手事務所に所属していると、広告スポンサーなどとの関係で社会的な問題について自分の考えを発言することは会社から制限されますが、個人事務所なら発言しやすい。NHKでの起用はそのことが関係していると思います」(芸能事務所関係者)
のんは女優業のほかにも「創作あーちすと・のん」として、限られた資源のリサイクルや地球温暖化といった、SDGs(持続可能な開発目標)につながる社会問題を積極的に発信していることを知っているだろうか。
「SDGsを実践している人」として、国の機関から「SDGs People」の第1号に選ばれているほど。去年行われた新聞社主催の国際シンポジウムでは「のんさんと学ぶSDGs」と題したオンラインセミナーを開いたり、専門家と対談したりもしている。
実はSDGsは、いままさに、公共放送としてのNHKが最も伝えたいことなのだ。2015年に国連の会議で採択されたSDGsは「誰もが安心して暮らし続けられること」を目指した目標。
わが国でも2030年までに実現すべく、国が音頭をとって進めている。当然、総務省からNHKにも、番組などのコンテンツを通してSDGsを広めるよう要請がきているはずだ。
「NHKが大上段に構えて『みなさん、環境問題を考えましょう』と言っても、視聴者には上から目線のように感じられて、なかなか伝わりません。でも、タレントが言うことで、視聴者に受け入れやすくなります。自分の言葉でSDGsを発信しているのんをNHKが起用したくなるのもうなずけます」(前出・芸能事務所関係者)
また、のんはツイッターやインスタ、YouTubeといったSNSも積極的に使っている。視聴者層が高齢化したNHKはいま、「視聴者の若返り」を一大目標にかかげているという。
番組にのんを起用すれば、彼女が自分のインスタで番組を告知し、それがSNSを通じて若い世代に広がっていく。SNSとの親和性が高いことも彼女の起用を後押ししているのだ。
このことは、のんと同様に、大手事務所を独立した女優の水原希子(31)にも言える。インスタグラムのフォロワー数は約633万人(22年1月現在)。
日本のインスタグラマーでは渡辺直美、ローラに続く第3位と抜群の発信力を持つ水原は、アメリカ人の父と韓国人の母を持つアメリカ生まれの日本育ち。国籍はアメリカで、英語、韓国語、日本語を話すトライリンガルだ。SDGsの柱のひとつである「多様性」にまさにふさわしい。
発信力の高い水原希子
また、彼女自身もSDGsに早くから関心を示していることもあり、SDGsへの貢献を誓うNHKへの起用が近ごろ続いている。
例えば、ジェンダーレス社会の実現を目指すSDGsの一環として始められた「#生理の話ってしにくい」というNHKのキャンペーンでは、『ハロー! 生理』という特番のMCに起用された。
さらに、地球環境問題の研究者を描いたドラマ(『コズミックフロント 地球科学者の先駆け 猿橋勝子』)でも彼女が主人公役を演じた。
大手事務所を独立してSDGsの考えを若い世代に発信し続けているのんや水原希子は、NHKにとって、自分たちの大事なメッセージを代弁してくれる存在として起用したい女優なのだろう。
その一方で、やはり独立系女優である満島ひかり(36)がNHK『江戸川乱歩短編集シリーズ』などに起用され続けているのは、別の理由が推測される。
自分の考えを自分で表現する満島ひかり
彼女もまた所属していた事務所を独立して個人事務所を立ち上げたが、一時期はマネージャーがおらず、原稿チェックや写真チェックなども自分で行い、出版社の編集者に直接メールを送っていたという。
「本人から直接、メールの返信があったときは驚きました。しかも原稿も写真も細かくチェックしてありました。また、これは取材時の話ですが、こちらが事前に用意していた撮影のコンセプトを彼女から拒否されたのです。
そして、こうしたほうがもっとよくなるからやってみたいと別の提案を受けました。実際にやってみると、彼女のアイデアのほうがしっくりきたのにも驚きました。
若い女性タレントから提案されること自体とても珍しいことですが、作品へのこだわりの強さを感じましたし、自分の意見をしっかり口にできる人だなと思いました」(雑誌編集者)
周りに流されず、自分の考えを自分の言葉で表現、発信できる個性が満島ひかりにはある。そこで、思い出されるのが樹木希林さん(享年75)だ。
女優として数多くの映画・ドラマに出演した彼女だが、女優以外としての出演はNHKが最も多いのではないか(『温故希林』、『NHKスペシャル 樹木希林を生きる』など)。彼女もまた、自分の考えを貫き通す女優だった。樹木希林と満島ひかりにはどこか共通点を感じる。
ちなみに、このふたりは樹木希林が亡くなる半年前、小泉今日子(55)が進行するNHKの音楽&トーク番組『マイ・ラスト・ソング』で共演もしている。
小泉今日子もまた独立系女優のひとり。小泉は2018年1月に所属事務所から独立。そして直後の同年3月に満島も独立している。そう考えると、番組出演の際に大先輩ふたりから何らかの刺激を受けたのかもしれない。
期待される唯我独尊の平手友梨奈
また、強い個性という意味では、独立がささやかれている元欅坂46の平手友梨奈(20)も、同じ系統に連なる。気難しい性格で、マネジメント側がお手上げ状態といわれる彼女。
しかし、それすらも「自分がある証拠」、「個性的」と支持を続けるファンは多い。彼女の欅坂46脱退後の初のドラマ主演作品はNHKだった(昨年12月放送の『風の向こうへ駆け抜けろ』)。
自分の考えを持った「強烈な個性」。NHKはここでも、彼女たちの個性、何者にもなびかない強い独立心に何かを託そうとしたのではないか。
自分たちが発信したいメッセージを自らの言葉で伝えている影響力。
自分たちでは届けられない層にリーチする発信力。
そして、大きなもの(権力)から影響を受けない独立心。
NHKに足りないもの、NHKがほしいと思っているものを持っているのが、彼女たち「独立系女優」と言えるのかもしれない。