「幼少期から問題児やったけど、あんなことをするなんて……。でも、結果的に誰も傷つけなくて、よかった」
と、容疑者の小学校の同級生は胸をなでおろしていた。
1月8日午後9時ごろ、東京・渋谷区のビル1階にある焼肉店で物騒な籠城事件が起きた。住所・職業不詳の荒木秋冬(あきと、28)容疑者が見せかけの爆弾を所持して男性店長(49)を人質に立てこもったのだ。店長は《爆弾を起動した。警察に連絡しろ。騒ぐな》というメモを容疑者から渡されて、すぐさま110番通報。近所の飲食店店主によると、
「ちょうど店仕舞いをしようとしていたら、パトカーや消防車がたくさんきて、驚きましたよ。警察官が規制線を張っていて火事かなと思っていたんですが、自宅でテレビを見て“立てこもりだ”とようやくわかりました」(近所の飲食店店主)
110番通報から約3時間後、警視庁は隙を見て店長を救出。さらに捜査員が閃光弾を投げ入れて突入し、荒木容疑者を監禁容疑の現行犯で逮捕した。
捕まる前に焼肉が食べたかった
容疑者は昨年10月に起きた京王線内の刺傷事件に触発されたなどと供述。また、2週間前に故郷の長崎県を出て、東京では路上生活をしていたという。警察の取り調べに対して容疑者は、
「生きている意味を見いだせず、警察に捕まって死刑になればいいと思った。場所はどこでもよかったが、捕まる前に焼肉が食べたかったから」
などと告白している。
容疑者は、長崎県南島原市で生まれた。この街は有明海に面していて、ほとんどの住民が半農半漁で生計を立てている。容疑者の父親は植木職人兼板前、母親は介護士だったという。近所の住民はこう話す。
「父親は先妻との間に息子がいた。そこへ容疑者の母親が嫁いで、長女、次女、そして秋冬容疑者が生まれた。だけど、彼が小学校へ入る前に、両親は離婚。母親は長女、次女、容疑者と3人を連れて、父親の実家を出て、同じ町内の家賃月2万円の一戸建ての借家へ移り住んだとよ」
お賽銭を盗んどったし
母親の女手ひとつで育った容疑者。冒頭の小学校の同級生によると、
「お母さんと2人のお姉ちゃんはやさしい人なのに、彼だけは小学校時代からヤンチャで問題児だった。神社のお賽銭を盗んどったし、家出をしてその神社で寝泊まりしていたことも。ほかの子をいじめとったし、イタズラも度が過ぎとったから、友達もいなかったと思う。ばってん、明るい子やったけん」
中学校に上がると、剣道部に所属したのだが、
「すぐに辞めて、帰宅部になった。勉強はからきしダメやったしね」(中学校の同級生)
県立高校に進むと、今度はラグビー部へ。しかし、それよりも情熱を注いだのが、バイクだった。
「毎日、ブンブン乗り回してウルさかった。近所の同級生は“割とおとなしかばってん、なんば考えとるかわからん不気味さがあった”というとったよ」(近所の主婦)
容疑者が高校を卒業するころになると、家庭環境に変化が。長女と次女が次々と結婚して家を出ていき、母と息子の二人暮らしになったという。
「秋冬が卒業して塗装業に就いたのをきっかけに、南島原市内の借家から母親の実家近くの一軒家に引っ越したんじゃないかな」(前出・中学校の同級生)
容疑者はその後、故郷を飛び出して東京へ。
「捜査関係者によると、容疑者の母親は“定職に就かず引きこもりになって、突然いなくなった”と話しているそうです」(全国紙社会部記者)
“死刑になりたい”と供述した容疑者。ヤンチャでも明るかった少年が辿り着いたのは、底なしの深い闇だったーー。