2022年の政治の展望はどうなるのでしょうか。それを占う際、7月10日投開票が見込まれる参議院議員選挙は外せません。
総理がいつでも解散できる衆議院は任期4年のため、2025年までに好きなところで選挙をすれば良い。参議院は今年の選挙が終われば、次は3年後の2025年。
つまり、岸田文雄総理にとっては、今年の参議院選で勝てば、国政選挙を気にせず政策に専念できる“黄金の3年”を手中にできるのです。
勝った場合は、岸田政権の安定化は目に見えています。負けた場合、とりわけ新型コロナへの対応の失敗で議席が激減したとなると、責任論から総裁選が不可避となるでしょう。先にも述べたように国政選挙はしばらくないため、自民党にとっては「総選挙で勝てるか」をあまり意識せずに総理を選ぶことができます。
その際、さながら「明治の元勲」のように存在感を強めるのは、総理を計8年約8か月務め、先ごろ自民党の最大派閥である「清和政策研究会」会長となった安倍晋三氏、安倍政権を支えてきた、第二派閥「志公会」の会長であり、かつ総理経験者でもある麻生太郎氏でしょう。
この安倍麻生ラインが推すのは、志公会と並ぶ第二派閥「平成研究会」会長で昨年11月に自民党幹事長に就任した茂木敏充氏です。
昨年12月22日、都内鳥料理店に、黒塗りの車が次々に乗り付けました。ホスト役の茂木氏が、安倍氏と麻生氏を満面の笑顔で出迎えました。鴨鍋に舌鼓を打つ光景は、茂木氏が俄然、ポスト岸田の本命に浮上した事実を意味しています。誰あろう、この三人組こそ先の総裁選で岸田候補を推した三派閥の長なのです。
この三派を合計すると自民党議員の半数以上を占めています。
決戦投票まで睨んだ“深謀”
奇しくも同じ12月22日、菅義偉前総理大臣、森山裕前国会対策委員長、石破茂元幹事長、武田良太前総務大臣、二階俊博前幹事長の名代の林幹雄前幹事長代理らが一堂に会しました。この“反執行部”の面々は河野太郎氏を推すことで乾坤一擲(けんこんいってき)、主客逆転を狙っています。
しかし河野氏は、「発信力が強い」などと評されますが、裏を返せば党内基盤が弱く人気頼みといえます。国政選挙が遠い状況では「選挙の顔」としての求心力が低下するため、ポスト岸田の総裁選に出馬したとしても苦しい戦いを強いられるでしょう。
無論安倍、麻生氏は、岸田政権を支える姿勢は揺るぎません。しかし、参院選で不覚を取った有事の際には、“元勲”2名にとっては英語が堪能でアメリカ政府にも受けが良く、従順な茂木氏が後継総理としてもっとも座りが良いのです。
また「茂木総理」が実現すれば、両派閥の父ともいえる田中角栄氏と福田赳夫氏以来、鍔迫り合いを繰り広げてきた平成研と清和会が、恩讐のかなたに手を携える象徴ともなるのです。
一方、岸田総理は出身派閥「宏池会」の政権を継続させるべく、同派閥のホープである林芳正外務大臣を後継に推すはずです。
しかし安倍氏の深謀は“茂木推し”にとどまりません。保守派の格好の受け皿となる高市早苗政調会長も総裁選に擁立し、茂木氏との決戦投票まで進めることを目論むはずです。
そうすれば、安倍氏にとって相性の悪い林氏あるいは河野氏に1回目の投票で2位を奪われ、進出を許した決選投票で茂木氏が逆転されるという最悪のシナリオを阻止することができます(自民党総裁選は1回目の投票で過半数の票を獲得する候補者がいなかった場合は、1位、2位による決選投票で勝者を選ぶ)。
権力の中枢である主流派内では、既に次を睨んだ熾烈な鞘当てが繰り広げられているのです。
参議院選挙はこれほどまでに恐ろしい
岸田官邸は、政局の流動化を回避すべく、今日も頭を痛めています。
参議院の総定数248議席の、過半数は125です。参院選の最低ノルマは、“非改選を含めた”自公で過半数の維持で事足ります。非改選議席は68だから、現下の戦局からして、57議席は穏当な数字といえるでしょう。しかし総理は徹頭徹尾勝敗ラインについては明言を避けています。明言イコール責任の発生ですのでそれを回避しており、これは歴代総理のセオリーです。
2月4日開幕の北京五輪に例えれば、総選挙は勢いで突破できる直滑降、参院選はフルマラソンのクロスカントリーです。
衆議院総選挙は、解散権は総理にあり、これは「伝家の宝刀」と呼ばれます。戦局を見計らって解散時期を自由に選ぶことができます。
対して参議院は「通常」選挙と言うだけあって、投票日というゴールを設定して戦いに臨みます。つまり、その間に潮目が変わるリスクがあるのです。ゴール目前にアクシデントが発生すると、もろにその影響をこうむります。
事実、1998年の参院選では、当時の橋本龍太郎総理は減税への発言がブレて自民党は惨敗。橋本氏は敗北の責任を取って退陣しました。2004年選挙は当時の小泉純一郎総理が自らの年金加入歴について「人生色々、会社も色々」と発言したことがきっかけで自民党は失速。
2007年は“絆創膏大臣”赤城徳彦氏など度重なる閣僚の不祥事で大敗。参議院第一党を民主党に明け渡し、安倍晋三総理は投票後1か月半で退陣。2010年、民主党菅直人総理は、消費税率上げに言及し敗北、参議院で少数与党となり政権は下降線に転じました。
参院選が鬼門であることは岸田総理も痛いほど知っているはずです。
不祥事対応、コロナ対策がカギ
今年の干支は「壬寅(みずのえとら)」。これには、厳しい冬を乗り越えて、芽を吹き始め、新しい成長の礎となるというイメージがあるそうです。岸田総理にとって昨年衆院選後の臨時国会はいわば“試運転”でした。
1月17日からいよいよ“本番”となる第208回通常国会が召集されました。参院選の投票日を7月10日に設定すれば、公示日は6月23日。国会会期末の6月15日とは目と鼻の先です。
従って、150日間の国会論戦の一挙手一投足が、有権者の審判に直結します。総理は与野党が真っ向から対立するような法案は出さず、無風の国会を演出する腹積もりのようです。のっけから、審議が注目を浴びそうな感染症法、検疫法、予防接種法の一括改正、スリランカ人女性の死亡による入管難民法改正案の提出が見送られてしまいました。
焦点は、政権にダメージを与えるような不祥事が飛び出た時です。野党が参院選で勝つには、舌鋒鋭く予算委員会で指弾するしかありません。総理は答弁、事後対応含め、どう致命傷を回避するか。しかし、菅義偉前総理のたどった道を見てもわかる通り、新型コロナの感染拡大だけは為す術がないのではないでしょうか。
岸田総理は壬寅のイメージ通り、厳しい冬を乗り越え、安定政権の芽吹きを呼び込むことができるのでしょうか。