元女子受刑者の最上六花さんの体験をもとに描かれたコミックエッセイが『女子刑務所はこわいよ』(竹書房)。嫉妬や集団いじめ、狭い雑居房での集団生活、壮絶な過去を持つ受刑者……と、塀の中の真実はすさまじい。
最上さんは勤務していた会社の指示で行ったことではあったが有印私文書偽造と詐欺幇助の罪で2回収監されている。
逮捕から出所するまでの、知られざる女子刑務所の実態を聞いた。
逮捕後は、取り調べを受け、刑が決まり、刑務所への収監となるが、その過程も過酷だ。
逮捕されたときの気持ち
顧客に詐欺を働くための書類を作っていた最上さん。自分がやっていることは犯罪だという認識があったものの、会社からの要請を断れずに続けてしまったという。
「上司が『そろそろヤバい』と言っていて、警察沙汰になる覚悟はありました。そして朝の7時に自宅の前に覆面パトカーが来て、連行されたのです。そのときは拘置所がいっぱいだったので、留置所で取り調べが続きましたが、外にまったく出られないのが最初はつらかったです。
検察官は重箱の隅をつつくような質問ばかりで、意地悪で怖い。ただ、誕生日にポケットマネーでケーキを買ってきてくれた刑事さんもいて、温かさに触れることもありました」
自主的にやったことではないので、執行猶予がつくと思っていたが、実刑判決を受けてしまう。
「求刑は3年6か月でした。ショックでしたが、とにかく早く出所できるようにまじめに頑張るしかないと気持ちを奮い立たせました」
刑が決まってから、西日本の刑務所に収監されることになったが、移動には公共交通機関を使うという。
「手錠をはめられたまま新幹線に乗り、周りの人からジロジロ見られました。トイレに行くときは片方だけ手錠をはずされ、刑事さんが前で待っているという状態です。私語も禁止で、スマホを見たり、読書をすることもできませんでした」
収監直後に行われること
刑務所に着いて最初に行われるのが着替えだ。着ていたもの、スマホなどの持ち物を預け、裸になって、官衣に着替える。
「官衣はもちろん、下着も靴下もお古を渡されます。黄色くなった汚い下着に、つぎはぎの靴下はつらかったですが、その後は刑務作業で貯めたお金で購入することができました。ちなみに私が3年の刑期で貯められたお金は5万円でした」
刑務所に入った最初の3日間は、慣れるために独居房で過ごすという。
「テレビもない部屋で、正座させられて何もできないのが苦痛で仕方なかったです。その後、雑居房に移り、集団生活がスタートしました。最初は話し相手ができたことと、テレビがあるのがうれしかったですが、そんな喜びもつかの間。
私のいた雑居房は6人部屋に8人が入っていたので狭いんです。新入りはトイレの横で眠らされるので、臭いが気になって、最初はなかなか眠れませんでした。布団を敷く向き、たたんで置く場所、部屋で座る位置も向きも決められていて、勝手に寝転んだりもできません」
入浴は週2回で、並ぶ、洗う、湯船につかるの流れ作業だという。
「お風呂につかれるのは長くて2分。ゆっくりお風呂に入れるのがどんなに幸せだったかに気づきました」
雑居房ではテレビが見られ、読書もできるという。
「本は買うこともでき、小説や漫画のほか、『週刊女性』もありました。読み終わった本を受刑者同士で交換したりもします。おいしそうな料理やステキなホテルの紹介記事を見て、『出所したらここに行きたい!』と思いを巡らせることが、つらい毎日を乗り切る希望につながっていました」
刑務作業以外の時間は、受刑者同士でおしゃべりすることもできるが、トラブルになることも多いという。
刑務所内の人間関係
早く仮釈放されることを願って頑張る人と、それをねたむ人がいて、気が抜けない日々が続くそう。
「模範囚になって仮釈放を目指そうとしても、なかなか出られない人たちに目をつけられると、嫌がらせをされることもあります。ケンカをすると連帯責任で懲罰房に行かされて、また刑期が延びることに……。
早く仮釈放されるためには、刑務官に気に入られることが大事なので、刑務官に取り入ろうとする人も多いです」
周りの人に自分の罪状や刑期を話さないよう、弁護士や刑事から事前に言い含められたものの、なかなかそれを守ることはできない。
「仲よくなるとつい身の上話をしてしまいますし、それがすぐにみんなに広まるので、みんながどんな罪で服役しているのかは、暗黙の了解でした。
家族からの虐待や、夫からのDVの末の犯行も多くて、思わず同情してしまう人も少なくありません。一方で、子どもを殺した人には、みんな冷たかったですね」
慰問コンサートを実施
刑務所内では、娯楽も用意されている。
「刑務所では年に3回ほど慰問コンサートが行われます。私がいた刑務所には、八代亜紀さんが来てくれました。すごくきれいでいい匂いがして、『舟唄』を聴いたらみんな号泣。
地元の子どもたちやおじいちゃん、おばあちゃんたちのステージもあり、自分の子どもや親を思って、やっぱりみんな泣いてしまいます。演目を見て、泣きそうなときはみんなタオルやハンカチを持っていきました」
クラブ活動もあるという。
「囲碁、習字、俳句、歌唱クラブなどがありましたが、各部に人数枠があり、入部審査もあります。部活をすると仮釈放が早くなるという噂もあり、入部を希望する人は多かったです。好きな歌を歌えるカラオケ大会や運動会もありました」
女性が刑務所に入る罪状で多いのは、窃盗と覚せい剤だ。
再犯率が高い犯罪
最上さんの刑務所では、周囲の受刑者の8割が覚せい剤だったという。
「覚せい剤を打った人は、3年くらいの刑期では、その快感を忘れられないそうで、依存性の高さに驚きました。刑務所内で、針や砂糖を見ると、『覚せい剤を思い出して、またやりたくなる』と言ってましたから。
だから、せっかく出所してもまたすぐに戻ってきてしまうんです。でも、最初に自ら覚せい剤に手を出した人は少なくて、恋人から知らないうちに服用させられていたことがきっかけ、というケースも多いのがやるせなかったですね」
なかには、刑務所に入りたくて、万引きなどの犯罪を繰り返す人もいる。
「高齢の受刑者は、出所しても仕事もなく、年金もなく、頼れる家族もおらず、行き場がない人も多かったです。刑務所に入れば、寝るところがあり、食事も出て、お風呂にも入れます。介護用のおむつは無料ですし、お金のない高齢者は、『刑務所は天国だ』と話していたくらいです。だから、つかまるために万引きを繰り返し、また刑務所にやってくるのです」
LGBTの受刑者の扱い
見かけは女性だが心は男性だったり、その逆だったりするLGBTの受刑者。LGBTでも雑居房に入れられるのだろうか。
「LGBTの人は独居房でした。入浴も単独です。過去にLGBTの人が雑居房に入って、過ちが起こったことがあるという話も聞きました」
男性がいない女子刑務所では、“女性に人気の女性”といった受刑者も。
「女子刑務所では、宝塚の男役のような端正な顔立ちの人がやはり人気でした。受刑者だけでなく、カッコいい女性刑務官に恋するケースもありました。具体的に何かができる環境ではありませんが、みんなで『カッコいいよね』などと言い合ってましたね」
職業訓練と教育
刑務所内では、受刑者が出所後に仕事を見つけられるよう、職業訓練も行われる。
「美容師やネイリスト、ホームヘルパー、パソコンなどのスキルを身につけることができますが、誰でも受けられるわけではありません。年齢制限があり、優等生の受刑者は受講しやすいシステムでした」
出所間近になると、社会復帰へ向けた指導を受けるため、特別な寮に移されるという。
「日常生活の体験、生活に必要な知識、保護観察や更生保護施設について学びます。ここでは刑務作業もなく、自由に生活できますが、問題を起こすと仮釈放が取り消しになり、刑務所に逆戻りなので、そこは気をつけました。朝昼晩とみんなで交代で自炊をするのも楽しかったです」
出所するまで受刑者の多くが毎日欠かさずに行っていることがある。
「ノートに日付を書いて、毎日、それをぬりつぶして、『あと何日で出られる』と数えることです。そのノートがみんなの希望になっていました」
最上さんは無事に出所した現在も、不安が押し寄せてくることがあるという。
「警官やパトカーを見ると、悪いことをしていなくてもドキドキして不安になりますし、刑務所にいる夢を見て飛び起きることもあります。後の人生にいろんな形で影響がありますから、刑務所には絶対入らないほうがいい。軽い気持ちで罪を犯すのはやめて! とみなさんにはお伝えしたいです」
(取材・文/紀和静)