小さい子どもを抱えて深夜まで働いている家庭は少なくない。
だが、さまざまな事情から子どもを見てくれる身内や友人がいない場合、親たちは夜間保育所を利用するしかない。年末年始であってもだ。
働き方の多様化で需要増
夜間保育所とは保護者が夜間に働く必要がある場合や、なんらかの事情で家庭での保育ができない場合に、夕方から夜間にかけて子どもを預かる役割を担う保育施設のこと。
国の認可を受けた夜間保育所と認可外の夜間保育施設があり、中には深夜まで、また24時間の運営をしている保育施設もある。
厚生労働省によると認可夜間保育所は全国で79施設(2019年4月1日現在)。働き方の多様化でニーズはあるものの認可夜間保育所の数は圧倒的に少ない。
百貨店で働く佐藤幸恵さん(30代・仮名)は舞台関係の会社に勤務する30代の夫と4歳と2歳の子どもの4人暮らし。
2人ともこの大みそか、元日は仕事だった。普段利用している夜間保育所が冬休みになったため、この年末年始は認可外の夜間保育所を一時利用した。
「夫も私も1年でいちばん忙しい時期。最近は休みの申請もしやすくなってきましたが年末年始はなんだかんだ働かざるをえなくて……。
実家は遠方にあり、新年は親戚付き合いもあるので応援に来てもらうこともできない」
2021年12月31日と2022年1月1日の午前10時〜午後10時まで利用。子どもたちは園で昼食と夕食を食べ、夜に佐藤さんが迎えに来るまでの時間を過ごした。
「大みそかには先生と紅白を見て、元日は画用紙に“年賀状”を描いてくれました。お友達もできて、楽しく過ごせたようでホッとしています」
では、ほかの夜間保育施設も年末年始は似た状況なのだろうか。全国夜間保育園連盟会長の酒井義秀さんに聞いた。
「年末年始でも大きく保育内容を変えることはありません。食事や散歩、お昼寝などいつもと同じことを生活の中で繰り返し行うことで次に何をするか見通せ、子どもたちは安心して過ごせます。
食事や午睡時間などは家庭ごとの生活リズムに合わせて保育所で過ごすことが大切と考えています。ただ、保育所内の環境として正月にまつわる制作物や鏡餅など季節に合わせた物を飾るなどし、お正月らしい環境を整えています」
酒井さんによるとコロナ禍で保育園の利用時間はだいぶ事情が変わってきたという。
「認可夜間保育所は、基本的に年末年始は閉めております。コロナ禍でのこの2年間は長時間保育での延長保育利用者は減少傾向にあります」(酒井さん、以下同)
コロナ禍で仕事の形態が変化したこと、緊急事態宣言下で休業する飲食店なども多かったことが理由として考えられる。一方、利用者の職業も変化がみられるという。
「最近の夜間保育利用者はキャリア型に変わってきています。マスコミや警察、消防、官公庁の公務員、医師などです。普段は夜遅くまで働いているので利用しますが年末年始は休みが確保されていると考えられます」
夜間保育所への偏見
だが、夜間保育所に対する『大変な家庭の子』や『貧困家庭』などの利用者が多いと偏ったイメージはいまも払拭されていないという。
保育の量的な拡大、保育士の確保と保育の質の改善などを目的にした子ども・子育て支援新制度が2015年改正されたのだが、今なお現場とのすり合わせも続いている。
「深夜や年末年始など働かざるをえない社会では保護者の負担が大きい認可外保育施設に預けざるをえないこともあります。
ですが国としても子育て家庭の自助に頼るのではなく、公助として社会に必要な制度・環境を整えられ、すべての子どもに保育ができるような社会をつくってほしいと願っています」
24時間社会。いつでも誰かが働いている。
そんな中においても子どもたちを第一に親子に真摯に寄り添う保育士たち。『第2のわが家』で子どもたちは育まれる。
運営者からみた“年末年始”
きょうだいみたいな絆 自宅のような夜間保育園
キッズタウンうきま夜間保育園(東京・北区)
東京・北区の「キッズタウンうきま夜間保育園」。今年で15年の認可夜間保育園だ。
「この年末年始も数名の園児をお預かりしました。年末年始を意識しているのは大人だけ、子どもたちにとっては普通の日。ただ、園の様子もいつもとはちょっと違うので寂しい思いをさせないよう心がけています」
そう話すのは同園園長の小林美樹さん。12月31日の大みそかは7人。元日と2日には1人が登園してきたという。
「年末は家庭では大掃除をしますよね。そこで園でも子どもたちと一緒に大掃除をしました」(小林さん)
年末年始の少人数だからこそできること。子どもたちの中には年末登園常連のきょうだいがいる。両親は蕎麦店を営んでおり、この日は1年でいちばん忙しい日だ。
「子どもたちも大みそかの両親の仕事のことは理解しており、園での過ごし方を自分たちで提案するようになってきました。
昨年も大みそかの数日前から“紅白も見よう”とか“あの番組も見ようね”とか、自分たちの過ごし方を考えているようでした。
普段から心がけていることですが、自宅で過ごすのとなるべく変わらない時間を過ごさせてあげたいと考えているんです」
食事も正月だからと特別なものを出すのではなく、いつもと変わらないものを提供。
同園での年末年始以外の時期の過ごし方も尋ねてみた。
「夜間保育園の保育時間は午前11時〜午後10時が通常。この時間帯の前後は延長料金がかかります。11時にそろって外遊びをし、昼食。お昼寝などを経て、子どもたちは夕食も食べて帰ります。
午後7時~8時がお迎えのピーク、午後11時まで待つ子も。寝ている子もいれば起きている子もいます。各家庭での生活リズムを守り、子どもにはどんな対応をすればいいか保護者と相談しながら保育しています」
親と子に寄り添う夜間保育
子どもたちにとっては自宅よりも長く過ごす場所。そのため、なるべく家庭のように過ごせることを目指す。
「夜間保育というと“夜遊ばせているの?”と誤解されることもあります。ですが子どもたちの生活が夜に偏らないよう、生活リズムを守るためにはどうしたらいいのかを念頭に置き保育をしています」
夕食後は時間を決めてテレビを見たり、パズルやゲーム、本を読み聞かせたりしてゆっくりするという。
異なる年齢の園児が一緒に過ごせるのも夜間保育園のよさ。年上の子が下の子の面倒を見るなど、ひとりっ子の家庭の保護者からは貴重な時間だと喜ばれることも。
さらに同園は昼の保育園も併設しており、夜間の3~5歳のクラスの園児は日中、昼の同年齢のクラスに合流。夕方、帰ってくる。
「合奏や大人数での遊びなど夜間の少人数ではなかなか経験できないこともあります。子どもたちは日中経験したことを今度は夜間保育でも披露してくれるんです」
例えば昼のクラスでクリスマス会をした夜間の園児たちは、今度はさらに小さな子どもたちを招いて『クリスマス会ごっこ』する。
「“夜間のクリスマス会をする”と子どもたちが企画して、保育室を一緒に飾り付け、年上の子たちが年下の子に歌や合奏を披露、子どもたちがお話の読み聞かせをすることもありました」
家族やきょうだいのような強い絆で結ばれているのだ。
「私たちは決して親御さんの代わりにはなれません。親にとっても子どもにとってもお互いがいちばん。子どもたちは本当は寂しさを抱えていたとしても、子どもたちはそれを見せないように頑張っているのかもしれません。
だから私たちは親御さんのお迎えまでを安心して一緒に待っていられる人であるといいな、と思っています」
夜間保育を利用する家庭は決して多くはない。だが必要としている人がいる。今日も夜間保育園は親と子に寄り添ってくれている。
家族のニーズに寄り添う都会の駆け込み寺
ラブクローバー(東京・世田谷区)
東京・世田谷区のラブクローバー。運営は24時間365日。月決めの園児だけでなく、急な一時保育でも0歳から12歳までを受け入れる。
「この年末年始は12月31日まで予約があり、新年は急な予約にも対応できるよう待機していました。冬休みになる夜間保育園も多いのでうちで預かることも。
ただ24時間フルで開けているわけではなく、予約が入ったところに職員を配置。急な要請でも受け入れができるのが私たちの強み」
そう説明するのは同園代表の富澤志保さん。
以前は元日から泊まりの預かりもあったというが、コロナ禍で予約は流動的になった。
「緊急事態宣言下で働き方の変化もあり、保護者も年末年始を休める方が増えた印象があり、ここ2年はゆったりとしたお正月を過ごしていますね」(富澤さん、以下同)
3年間預けっぱなしの親
同園でも年末年始には特別行事をすることはせず、お正月飾りを作って飾るなどいたってシンプル。
「節目の日でも親と離れて保育園で過ごす子どもたちのメンタルをまずは考えています。食事も年越しそばはアレルギーの問題がありますし、餅はのどに詰まらせるリスクが高いので普段と変わらないものを提供します」
利用者は年末年始に興行を行うイベント関係者が多く、正月休みのある一般の会社、飲食店、医療関係の従業員世帯の利用は少ないそう。
「認可外で少人数なので個別に対応し、より保護者の気持ちに寄り添う保育ができるのも私たちの特徴です。例えば食事も子どもたちに何が食べたいか尋ねたり、家庭内の声かけのようなコミュニケーションをとることもあります」
富澤さんはある親子との正月について明かしてくれた。
「数年前、ここに3年間ずっと預けっぱなしにされていた子がいました……」
ときどき帰宅はするもののほぼ、同園で過ごしていた。
「行政も介入し、何度も話し合いを続けていました。親御さんと連絡が取れないわけでもないし、保育料も振り込んでいる。ですが、育児放棄に近い状況でした。
預かる先がなかったらこの子は放置されていたのかな、と思うと……。私含め職員はみんなその子が寂しくないように愛をもって接していました」
当然、その子はクリスマスも正月も同園で過ごした。
「帰宅し、親と過ごしていないのでさまざまな経験が乏しかった。そこでお正月にその子を特別に遊びに連れていったこともあります。あの子にとっての子ども時代のクリスマスやお正月はここでの思い出かもしれません」
その後、親戚に引き取られ、同園を退所したという。
年末年始に限らず、出産時に上の子の一時保育を頼まれることや、親の出張やさまざまな理由で昼間はほかの保育園に行き、夜は同園に泊まる子どももいるという。
「翌日はうちの園からほかの保育園に送ることも多いです。迎えに行くこともあります。習い事の送迎もやりますよ。
都市部に住んでいると頼る人が夫と自分のほかにおらず、友達にもなかなか頼みにくいことも。そんなとき、私たちが臨機応変に対応させていただくことも多いです」
困ったときの駆け込み寺的な存在。さらには仕事が理由で預けるだけでなく、もっと個人的な事情での一時保育も利用してほしいと願う。こうした利用はまだまだ日本ではハードルが高いのだ。
「ご夫婦で食事に行ったり、ママ友とのランチなど個人的な用事で一時保育を利用してもいいと思うんです。親御さんにもたまの息抜きは必要です。
両親が時間をとって仲がよく、両親に気持ちに余裕があって元気でいることが子育てには大切な部分でもあると思います。そのために利用してもらいたいと思っています」
夜間保育所の年末年始。そこには家族とはまた違った愛にあふれる“もうひとつの自宅”の姿があった。