年末年始に開催される“冬の風物詩”『全国高校サッカー選手権』。高校サッカー史上最強という評価もある青森山田高校が圧倒的な強さを見せ、優勝を果たした。
大会中に“寄付願い”
決勝の相手は熊本県代表の大津高校。県勢として67年ぶりにベスト4に進出した同校だが、準決勝進出時に、悲痛なメッセージで呼びかけを行っていた。
《【保護者会からのお願い】滞在日数延長による資金不足懸念のため賛助金を緊急募集します》
このように題されたメッセージが公式ホームページにて掲載された。
《全国大会に向けて資金面でも準備してきたものの、勝ち進むことで控えの選手をはじめ、応援団の宿泊費用、選手の調整費用など必要となり、当初の予定を超える可能性が出てきてしまいました》(大津高校サッカー部公式ホームページより)
「呼びかけを行ったのは準々決勝に勝利した当日の4日。2日後の6日夜には目標額を上回る1000万円もの寄付が集まりました」(サッカーライター、以下同)
多くの援助があり無事準決勝に臨むこととなった大津高校。準決勝自体は対戦相手である東京都代表の関東第一高校の選手2名に新型コロナウイルスの陽性反応が認められ、出場を辞退したため不戦勝に。
残念ながら決勝では青森山田に0対4の大差で敗れてしまったが、無念の出場辞退となった関東第一のタオルを試合前に選手たちが掲げるなど、教育の一環でもある部活らしい、熱くさわやかな姿を見せた。
しかし、今回、なぜ大会期間中に寄付を募るという異例の事態となったのか……。まず前提として高校サッカー選手権出場校が寄付を募ること自体は珍しいことではない。
「珍しくないというよりも、よほど裕福な学校でもなければ、どの高校でも基本的に全国出場時には寄付の募集があります」
そう話すのは高校サッカー選手権に出場経験のある男性。
切実な“資金稼ぎ”
「私が出場した際は、部員の保護者に向けて寄付を募っていましたし、卒業してからも寄付を願う手紙が来ます。私が卒業した高校は毎年のように全国大会に出場しているので、そのたびにOBには寄付を求める手紙が届きます。
サッカー部OBはかなりの人数なので、その手紙代だけでもそこそこお金がかかっているんじゃないかって毎回思いますが(苦笑)」(選手権出場経験のある男性、以下同)
今回の大津高校のように大会期間中に寄付を呼びかけることは異例といえる。
「“資金”という意味では、大会期間中に“サッカー部グッズ”を販売する高校もあります。登録メンバーに入れなかった部員やサッカー部保護者会の父母たちが試合会場での販売を担当します。
グッズで多いのはタオル地のマフラーですが、売り上げが見込める“有名校”に限られる話ではあります。
今年も前々回の優勝校である静岡学園、グルグル回ってのセットプレーが世界的にもバズった高川学園などが会場で販売していました。ユニフォームを販売する高校もありますね。
ただ大津高校のような公立高校はこういった商売は、難しいのかもしれません」
寄付が求められるのはサッカー部関係者だけではない。
「サッカー部ではない在校生や卒業生にも話はきますね。教職員にも。高校によっては教職員の寄付は“暗黙の了解”になっている学校もあるみたいですね。
私立高校でも寄付の募集はありますが、公立高校よりも予算があるところが多いので集める額に差はあるでしょう」
協会からの補助金が廃止に
今回大津高校には1000万円もの金額が集まった。
「試合に出場するメンバーだけでなく、応援団の宿泊費などもあるので、準決勝・決勝と都内に滞在したことでそこそこお金はかかっているはずですが、おそらく余って強化費などに充てられますね。
高額が集まって、余ることはしばしばあります。余剰金は練習着であったり、トレーニング用具の補修や購入などに充てられます」
大津高校が資金不足となった背景には、事前の寄付金不足だけではない理由がある。
「前回大会まで選手権の出場校には、日本サッカー協会から補助金が支給されてきたのですが、今大会においては廃止されました。それも大きな理由でしょう」(前出・サッカーライター、以下同)
背景の、さらに背景もある。
「日本サッカー協会は深刻な“資金難”で、昨年末に'22年には46億円の赤字を見込んでいることを発表。また、サッカー協会の事務所である東京都文京区にある『JFAハウス』の売却が検討されていることが報じられました。
約60億円で購入した地上11階、地下3階のビルです。売却するか否かは今年の8月までに結論を出すようです。ただ強化部などサッカー協会の中枢はすでに千葉県幕張に拠点を移しており、売却はほぼ確定ではないでしょうか」
しかし、お金がない一方で……。
「ヨーロッパに日本代表の拠点となる施設を建設する計画があります。場所はドイツでグラウンドと併設のクラブハウス。建設には数億円がかかり、維持費も億単位でかかるといわれています。
今回大津高校がこのような事態になったことで、“代表に注ぐお金があるなら子どもたちに……”という声も上がりました。コロナ禍で代表の試合が中止になるなどで、これまで入ってきた興行収入が大幅に少なくなっている事情はあるのですが……」
コロナ禍は日本代表という“ドル箱”を持つサッカー協会にも影響を及ぼしているが、協会は子どもの未来をつぶすことのなきよう……。