震度4を超える地震が昨年から頻発。今年は「何もない」ことを祈るが、対策するに越したことはない。大きな備えに腰が重いなら、身近で、できることから手をつけよう。うってつけが100均グッズ。使い方次第では大きな安心へとつながる。
防災=日常の暮らしの質を上げる
「“防災準備=防災グッズを買いそろえること”と思っている人が多く、実際にはそれの、使い方がわからないというケースがよくあるんです」
と話すのは、国際災害レスキューナースの辻直美さん。いざというときに使えなくては何の意味もない。
「防災を特別なものとして考えるのではなく、日常の延長線上にあるものとしてとらえてください。普段からやっていないことは絶対にできないし、災害はいつくるかわからないからです。
日ごろから部屋をきれいに片づけておくこと。節水や節約をすること。非常食を普段使いにして、切らさず買い足すなど。“防災=暮らしの質を上げること”と思って、防災対策をしてほしいですね」
日常の延長線上であるからこそ、まずは「今あるもので何とかする!」という発想を持つことが大事。
わざわざお金をかけて防災グッズを買わなくても、100均で十分に対策できるものもあるという。
各部屋ごとの見直したいポイント、今すぐできる防災のコツを教えてもらった。
凶器が潜む【キッチン】は今すぐ対策が必須
キッチンには包丁やハサミ、食器など、落下すると凶器となるアイテムがたくさん。災害時はいちばん危険な場所になる。
「足をケガしたら逃げられないので、物が落ちてこない、飛んでこないように対策をすることがとても大事。キッチンラックの収納では、上は軽いものを、下は重いものや割れ物を置きましょう。家電の下に敷く滑り止め耐震マットや、キャスター付きラックのストッパーなどは100均にあります」
つり戸棚には、揺れを感知すると扉を開かなくする耐震ラッチや引き戸ストッパーを取り付けて。プラスチックではなく金属でしっかり補強したい場合はホームセンターなどで購入するのがオススメだ。
「食器を引き出し収納するのが安全だが、ない場合は取っ手のついたプラスチックケースに滑り止めシートを貼った“食器収納ケース”に入れるのが得策。取っ手がついているのでお皿をサッと取り出せて日常生活でも便利。特別なこだわりがないなら、日ごろから割れにくい食器を使うのも有効です」
【リビング】の床は今すぐ“ルンバ”を使える状態に
乱雑になりがちなリビングは物が多いと大ケガや、圧死のリスクが高まる場所。
「ボールペンや耳かきなどの小物も、がれきの下にあるのを気づかずに踏んでしまうとケガにつながるおそれがあります。日ごろから物を出しっぱなしにせず、使ったらすぐに元の場所に戻すという習慣をつけましょう。
床に物がいっぱいあって、『ルンバ』が使えないような状態では、地震後は外に逃げられないと思います。床には何も置かれていない状態を目指して」
大きな家具が転倒すれば凶器になる。特に薄くて背の高い本棚は倒れやすく、倒れたあとは足の踏み場もない状態になっているはず。
「わが家では、100均の転倒防止板を本棚と床の間にかませ、天井までのスペースは段ボールの中に突っ張り棒を入れるなどして、スペースを埋めるようにしています。本の下には100均の滑り止めシートを敷き、隙間がないように本をギチギチに詰めることで落下を防止。これで震度6弱の衝撃を受けても1冊も落ちてきませんでした!
リビングに限らずなるべく低い家具がオススメですが、どうしても置くなら転倒防止、ガラス飛散防止の対策を」
さらに、リビングの中で、揺れだしたら、逃げる場所を決めておくこと。そうすれば、緊急地震速報が鳴っても右往左往しなくてすむという。
【玄関】は大事な非常口物は置かないのがベスト!
玄関、階段、廊下といった避難経路に物が置いてあると逃げ遅れの原因に。
「玄関には靴も玄関マットも何も置かないようにしています。散らかった家の中から重い防災リュックを背負って出てくるのは大変なので、非常用持ち出し袋などの防災グッズは玄関のくつ箱に。コンタクトレンズや常用薬など、衛生必需品もここにも置いておくといざというときに探し回らずにすみます」
玄関は家でいちばん崩れにくい構造となっていることから、辻さんは避難場所も、防災グッズ置き場も玄関に決めているという。
防災はおもしろい!という発想を
ほかにも、100均でそろえられる防災グッズを使って家の中の安全を確保する方法はさまざま。
「寝室などの観音開きの扉にはS字フックを取っ手にかけておくことで開くのを防止することができます。ただし、服がたくさん入ったケースなどは重さがあって開き戸からすごい勢いで飛び出してくることが。私は最近、衣装ケースのある開き戸だけは、自転車用のダイヤル式の頑丈なロックに変えました」
さらに、避難時に持ち出す防災リュックの中に常備する衛生用品は、だいたいのものが100均でそろう。
「衛生グッズは一定の量をキープして、防災リュックからどんどん使ってローリングストックをしています。出して入れるときにまた中身をチェック。そうすれば防災グッズが日常で把握できます」
防災というとネガティブにとらえる人も多いけれど、辻さん流の防災対策をしておけば生活の質も向上。
「災害は怖いけど、防災はおもしろい!という気持ちで防災対策を楽しみましょう」
(取材・文/鈴木恵理子)
《PROFILE》
国際災害レスキューナース・辻 直美 ◎看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚める。看護師歴30年、災害レスキューナース歴26年。防災術の講演やセミナーでも活躍中。著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』(扶桑社)