「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
三田寛子と夫の中村芝翫(当時は橋之助)

第68回 三田寛子

「妻であることが仕事」な人たちがいます。夫が出世して“賢夫人”という称号を得る妻のことで、大リーガーやオリンピック選手などのアスリート、政治家、歌舞伎俳優の妻が代表的です。

 夫の社会的なポジションが上がれば「いい奥さん」と褒められる一方で、なにか不祥事があれば「オンナが至らない」とか「さげまん」と理不尽な責められ方をされてしまうわけですが、企業などで女性の昇進が難しい日本において、優秀な男性の妻になることは一番簡単な“出世”の手段ともいえるわけです。ですから、この手の妻業にあこがれる人はいるのではないでしょうか。

心底呆れた中村芝翫の申し開き

 歌舞伎俳優・八代目中村芝翫の妻で、女優・三田寛子は言うまでもなく、「妻であることが仕事」であるうちの1人です。2016年に夫と3人の息子、計4人の男たちが名跡を襲名しましたが、これは長い歌舞伎の歴史の中でもまれに見る慶事だそうです。「妻であることが仕事」の人は、夫や子どもの社会的ポジションがすなわち自分の立ち位置ですから、三田サンは梨園一の賢夫人という称号を手にしたのでした。

八代目中村芝翫(右から2番目)を襲名。妻の三田寛子は3人の息子をもうけた

 しかし、「好事魔多し」といいましょうが、こういう時ほど悪いことが起きるものなのかもしれません。芝翫襲名直前の2016年に、夫は京都の芸妓さんと、さらに2021年の1月にファンの女性との不倫を『週刊文春』に報じられています。これだけでは終わらず、昨年の末、『NEWSポストセブン』に、公演先の京都で知人男性を交えて女性と会食し、夜更けに女性の部屋を訪れていたことが報じられたのでした。

 度重なる不倫疑惑もさることながら、私が心底呆れたのは、芝翫の申し開きなのでした。

『ポストセブン』に直撃された芝翫は、女性の部屋を訪れた理由を「薬をちょっと頂戴してね、胃薬を。ほんのちょっと、胃が悪かったから」と釈明しています。さらにスポニチアネックスの取材に対し、女性の部屋には「薬をいっぱい持っている別の男性がいた」ので、その男性に薬をもらうために訪れたと不倫を否定しています。

 薬をもらうなら、ほんの数分の接触で済むでしょう。50代で分別ざかりの芝翫が、こんなヤバいことを平気で言ってのけるのは、逆に言うと、三田寛子を始めたとした周囲が手を尽くして芝翫を守ってきた、もしくは尻ぬぐいをしてあげてきたことの表れなのではないでしょうか。

「できた妻」がいるのに家庭を顧みない夫の心理

 実際、三田サンの頑張りはすさまじいのです。2016年10月16日放送『走る!三田寛子400日 中村芝翫襲名の裏側』(BSフジ)を見ると、お手伝いさんのいない家ですべての家事をこなしながら、食事もせず、睡眠時間も削って、夫と3人の子どもの襲名準備のために走り回り、さらにタレントとして自分の仕事もこなしていることがわかります。嫁と姑というのは一般的にわかりあえない関係と言われていますが、お姑さんにも「ホントにできたお嫁さん」と断言させるほどの信頼を勝ち得ています。ここまでの妻の献身を目の当たりにすれば、夫も感謝して芸道に励んでくれると思いきや、話題になるのは不倫のことばかり。

 美しき良妻賢母が家にいながら、なぜ夫は妻や家庭を顧みないのか不思議に思う人もいるでしょうが、私は“完璧な妻”たちのある話を思い出したのでした。

 みなさんは、アルコール依存症の妻というと、どんな女性を想像するでしょうか。私は自己主張をしない、流されやすい人なのではないかと勝手に思い込んでいました。

 しかし、実際はそうでもないそうなのです。精神科医・斎藤学氏の『家族依存症』(新潮文庫)によると、アルコール依存症の妻たちは「スキのない身なりをした美人が多い」そうなのです。それだけでなく、高学歴で高収入、実務能力にもたけたデキる女であることが多いそうです。

 彼女たちは夫がアルコール依存症であることが世間サマにバレないように、心を砕きます。そして決して夫を責めず、「飲みすぎるには理由がある」「飲まなければいい人」と夫をかばうそうです。夫がアルコールで酩酊して会社に行けない場合は、「風邪をひいたので休みます」と夫の代わりに会社に嘘の連絡をし、夫が酔いつぶれている姿を見せると、子どもが精神的なショックを受けてしまうかもしれないので、夫を自分で寝床まで運ぶなど、完璧に“尻ぬぐい”をしてしまいます。

 それは「夫と子どものため」であり、よかれと思っての行動なわけですが、夫は「妻がいるから安心してアルコールに溺れられる、何かあっても妻が何とかしてくれる」状態になってしまっているため、アルコール依存症を治そうという気持ちにならないのだそうです。

 芝翫はアルコール依存症ではありませんが、上記のアルコールを不倫に置き換えても意味が通じるのではないでしょうか。

夫の不倫を謝罪。雨の中、集まった報道陣に深々と頭を下げた(2016年9月)

 2016年、襲名直前に不倫が報じられた際、一番ダメージを受けたのは三田サンのはずなのに、彼女は報道陣に向かって「私も至らない点もありますので、反省しております」とコメントし、“神対応”と称賛されました。芝翫本人よりできた妻である三田サンに注目が集まるうちに、不倫はうやむやになった。三田サンが不倫報道を受けて、報道陣にむかってキレたり、梨園妻としての仕事をボイコットするようなタイプだったら、芝翫もある程度気を使うかもしれません。しかし、彼女はそんな無責任な人ではない。成駒屋という家を一番に考える三田サンの献身が、皮肉にも仇になっているのではないでしょうか。

 日本では「女性が尽くしたり、へりくだれば、夫婦はうまくいく」という考え方がいまだに強いようですが、カップルで大事なのは、バランスだと私は思っています。妻にだけ極端に負担がかかったり、夫が大出世して社会的地位に格差が生じたときに「妻のおかげだ」と感謝できるといいのですが、実際は「あいつならどうせやってくれるだろう」と妻をナメたり、浮気を始めたりする話はよく聞きます。

 完璧に夫の尻ぬぐいをしてしまう妻は、次第に子どもの人生を支配するようになると前出・斎藤医師は述べています。やはり、リターンのない「夫のため」はほどほどにしたほうがいいのではないでしょうか。

頑張りすぎてしまう完璧妻はどうすべきか?

 それでは、いつのまにか頑張りすぎてしまう完璧妻はどうしたらいいのでしょうか。臨床心理士の信田さよ子氏は『夫婦の関係を見て子は育つ』(梧桐書院)において、「私」を主語にして話す、アイメッセージを紹介しています。たとえば「夫が話を聞いてくれない」というのではなく、「私はさみしい(その理由は夫が話を聞いてくれないから)」と、自分がどう感じているかを絶えず意識する習慣をつけることを進めています。

 以下は私の勝手な解釈ですが、「夫が話を聞いてくれない」と思うと、デキる妻たちは「話を聞かせよう」と頑張ってしまうでしょうが、他人はそう簡単に変えられません。そうすると、デキる妻たちは夫に話を聞いてもらうために、夫の機嫌を取るようになってしまうのではないでしょうか。これでは、また“やりすぎ”が始まってしまいます。しかし、「私はさみしい」と自分の気持ちを自覚できたなら、解消する手段は無数に見つけることができるでしょう。

 1月7日放送の『ひるおび!』(TBS系)に出演した三田サンはお正月の過ごし方を聞かれて、「お正月は実母のお墓の前で心の大掃除をしまして。これから自分を大切に、三男も成人しましたので、これからは小欲知足の精神で、一生懸命勉強してお仕事がんばりますので、今年も『ひるおび!』よろしくお願いいたします」とコメントしたのでした。

 すわ離婚か! とみる人もいるでしょうが、私はそうは思いません。自分を主語にすることで、三田サンはますます強くなり、成駒屋になくてはならない人になるでしょう。3人のお子さんたちも三田サンの味方ではないでしょうか。前時代の価値観で、浮気ばっかりしている芝翫のほうがヤバいぞ! と言いたい気持ちになるのでした。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」