近代的なオフィスビルが立ち並ぶ日本経済の中心地に不自然に開けた空間がある。平将門の首を祀る『将門塚』だ。
「将門公は古くから災いをもたらす存在とされ、人々は彼に畏怖の念を抱いてきました。強大な力をもっていた菅原道真、崇徳天皇と並んで『日本三大怨霊』と呼ばれています」(オカルトライター)
『日本三大怨霊』の首塚
平将門は平安時代中期に活躍した武将。民衆からの人気があり、篤い信望を受けていたと伝えられている。数々の戦いに勝利し、「新皇」を自称。関東地方で新国家の独立を宣言した。当然、朝敵となり939年、藤原秀郷と平貞盛によって討伐された。
その後、将門の首は京都に送られ、さらし首になった。「3日後。無念の死を遂げた将門の首は目を見開くと白い光を放ち、東の方角に飛び去り、現在の首塚がある付近に落ちた。すると辺りは夜のように真っ暗になり、大地は大きな音を立て揺れ動いたといわれています」(前出・オカルトライター)
恐怖におののいた住民たちが、塚を築いて埋葬したことが『首塚』の由来となっている。その後も疫病や大地震など天変地異が起き、将門の怨霊の祟りだと恐れられた。
大正、昭和になってからも首塚を取り壊そうとすると事故が相次ぎ、亡くなった人もいた。周囲の会社では首塚に背を向けた形で席を配置すると祟られるなど、将門の祟りは今も信じられている。
一方で、その強大な力から「パワースポット」としても注目されており、戦で勝ち続けてきたことから『勝負ごとの神様』として御利益にあやかろうとする参拝客も多い。
首塚を訪れる人は何を願っているのだろうか。
「不遇の人生を送ったけれど人々から愛されていた武将だと聞いています。そのパワーに私もあやかりたいと思って仕事の合間にたまに来ます。いつも仕事がうまくいくようにお祈りしています」(男性)
「週1回は来ています。仕事でもっと飛躍したいと願っており、参拝しています。営業の仕事をしておりますがコロナの関係でリモートが続きうまくいっていません。早く収束して仕事も元に戻るよう、と今日は祈願してきました」(52歳・男性)
「近くにオフィスがあるので通りかかったときにはできるだけお参りしています。祈願していることがあるので成就するように祈っています」(57歳・男性)
「お参りすると気持ちが引き締まります。今日は午前中の会議がうまくいったお礼と、これから引っ越し先の内見に行くのでうまくいくよう見守ってください、とお祈りしてきました」(26歳・男性)
土地柄なのか、近くで働いている男性会社員の姿が多く、日ごろから参拝に訪れている人たちも多かった。
出張や旅行で東京に来た際に訪ねる人たちの姿もあった。
「将門公にゆかりのある筑波から出張で来ました。早くコロナが落ち着きますように、とお願いをしてきました」(40代・男性)
新しい出発に向けて背中を押してもらうために訪れる人もいた。
「実は最近、仕事を辞めました。再就職に向けて元気をもらえるようにお願いをしてきました」(49歳・女性)
暗くなってからも参拝者が途切れることはなかった。不思議な噂がある場所、怖くはないのだろうか。
「工事中に事故が起きたとか祟りとか怖いイメージを持っていました。でも来てみたら全然そんなことなくて。今日は自分の幸せと健康を祈ってきました」(25歳・女性)
同時に5つ願う女性
パワースポットとしてもその力を実感していると明かす人も多く、そのうちの1人の女性に話を聞いた。
「同時に5つくらいお願いをしています。1つ叶ったらそのお礼を伝え、また1つお願い事をお伝えしています。
ここはほかのパワースポットとは違います。縁結び、縁切り、絶対にダメだと思っていた仕事がうまくいったり、人脈が欲しいと願ったら叶ったり、不可能だと思っていたことが実現しました。
例えば縁結び。知り合いの女性が恋愛で悩んでおり、相手の男性がこの人でいいか、大丈夫なら1週間で返事をください、とお祈りしました。すると1週間後、連絡がきて、交際することになったのです。
また、夫の不倫で悩んでいた女性が、夫と愛人との縁が切れるように祈ったらその関係は切れたそうです。仕事で迷っているときはよいほうに導いてくれるんです」
1回のお願いより、複数回来たほうがいいと言う。
「最初は3か月間、毎日通いました。今は無理のない範囲で来ることを伝え、通っています。お願い事は具体的に伝えるといいですよ」(同・女性)
近くの会社に勤め、日常的に参拝している人も多かった。願い事をするだけではなく、暮らしのなかに首塚が息づいているのだ。
「心のよりどころ、ですかね。ここに来ると仕事がうまくいくような気がしているんです。業務でマネジメントをしておりますが、自分のことだけではなくチームのメンバーの仕事もうまくいくようにお祈りしています。
それに困っていることがあったら支えてくれているような気がしているんです。お参りするようになって気持ちが変わりました。
祖父や父からも土地の神様は大事にしてお参りしなさいと言われて育ちました。ここも大切にしていきたいです」(40歳・男性)
怨霊だけど、最強の味方
いざ訪ねてみようと思ったときに気になるのは参拝の仕方。祈祷師のじぇいじぇいさんに聞いてみると──。
「僧侶の方による碑ではありますがお墓とも、お寺とも神社ともまた違う場所。明確には作法は決まっていません。まずは礼をし、その後で手を合わせ、将門公に思いを馳せ、心の中で語りかけたり、お願い事をするといいでしょう」
心霊スポットや怖い場所、と言う人もいるが……。
「将門公に限らず、失礼なことをすれば怒られるのは当然のことです。心霊スポットなどと言われているようですが、逆に最強の怨霊よりも強い悪霊がここにいられますか? 怨霊と言われているからそうイメージ付けされていますがもともとは義侠心にあふれ情け深いところもある御方のようですよ」(じぇいじぇいさん、以下同)
実は最強の味方にもなってくれる心強い存在なのだ。
「神様は人々が信仰することでより力をつけていきます。首塚がすごい力を持っているということはそれだけ多くの人々の思いが首塚に集まっているということなのです」
生前、将門はどんな日本を夢見ていたのだろうか──。
未来を創る私たちにその思いを託しているからこそ、祈る願いに耳を傾けてくれるのかもしれない。