杉本智代容疑者本人のフェイスブックより

 これも一種のリモートワークというのか。昨年5月、都内の時計店で『カルティエ』など計1234万円相当の高級腕時計が盗まれた。警視庁が逮捕したのは、子育て中の母親。SNSで実行犯を勧誘し、成功報酬を受け取っていた“BTS好き”ママの地元での評判は──。

子どもが4人、生活費に困っての犯行

「逮捕されたって本当ですか? そんなことをする女性じゃありませんよ。まさか、を通り越してエーーッ! ってびっくりしちゃう。ご両親や旦那さん、お子さんの気持ちを考えると、なんか私、泣きそうですよ」

 と容疑者と旧知の女性は涙目で話す。

 東京・吉祥寺の時計店で有名ブランド『カルティエ』『オメガ』などの高級ビンテージ腕時計24点(販売価格計約1234万円)を盗んだとして、警視庁捜査3課は1月12日、窃盗と建造物侵入教唆の疑いで岐阜県多治見市の職業不詳・杉本智代容疑者(39)を逮捕した。

 事件があったのは昨年5月18日午前0時半ごろ。男が裏口の窓ガラスを割って閉店後の店内に侵入し、ガラス製ショーケースをバールでたたき割って時計をごっそり奪った。犯行の様子は防犯カメラに映っており、警視庁は同9月、実行犯として栃木県塩谷郡の無職・中田秀平被告(当時26歳、起訴ずみ)を逮捕。

 杉本容疑者は犯罪グループから指示を受け、実行犯を勧誘する“泥棒リクルーター”として共謀したとみて調べを進めている。

「実行犯の取り調べや通信記録から杉本容疑者が浮上した。ツイッターで『在宅』『高収入』といったキーワードで副業を探すうちに窃盗や詐欺の犯罪グループにたどり着き、いわゆる“闇バイト”と知りながら犯罪実行犯をやはりツイッターで募集する役割を担ったようだ。

 1か月そこそこで計20〜30人を犯罪グループに紹介し、勧誘交渉が成立するたびに数万円の成功報酬を受け取っていたとみられる。今後の捜査の焦点は、グループの上層部にどこまで迫れるかだ」(全国紙社会部記者)

 杉本容疑者は、

「コロナ禍で夫の仕事がなくなり、自分も携帯ショップのアルバイトができなくなった。子どもが4人いるので生活費に困り、悪いことだと思いながらやった」

 などと容疑を認めているという。

 犯行現場から西へ直線距離でおよそ226km。陶磁器やタイルなど美濃焼の産地として知られる人口約11万人の中都市・多治見から、杉本容疑者はツイッターでこんなメッセージをつぶやいた。

《稼げるバイトあります》
《泥棒の仕事あります》

 手軽さゆえに罪の意識が薄まったのだろうか。言うまでもなく「泥棒」は仕事でもバイトでもないのだが、接触してきた人物に対し、仕事内容は盗みや特殊詐欺の実行犯だと説明して同意を取りつけていたという。

 しかし、どれほど実感が薄かろうと犯罪の事実は変わらない。窃盗被害に遭った東京・吉祥寺の『江口時計店』オーナーの江口大介さんが事件からの日々を振り返る。

1本250万円の時計も盗まれた

窃盗犯にガラス上部を割られ、陳列していた時計はごっそり盗まれた(江口時計店提供)

「窓ガラスやショーケースの修理などに時間がかかり、事件後約2週間は営業できませんでした。盗まれたなかには1本250万円の時計もあります。

 警察が押収している商品もまだ戻ってきていませんし、ビンテージ品ということもあってか保険会社がなかなか商品価値を認定してくれず、盗難保険金もいまだに下りていないんです」

 同店は時計マニアもうなる品ぞろえで知られ、海外ブランドの高級ビンテージ時計も多い。犯行当夜、警備会社からの連絡で飛び起きた江口オーナーは、駆けつけた店で惨状を目の当たりにし、ショック、怒り、呆然といった心情がごちゃ混ぜになったそう。

 実行犯に続き、リクルーター役が逮捕されたことについては、

「犯罪グループの中ではそんなに立場が上の人間ではないだろうし、特に思うことはありません。それよりも時計を返してほしいです」(江口オーナー)

 と言うばかりだった。

 杉本容疑者は多治見市に生まれ育った。

 自営業の両親にかわいがられたひとり娘で、幼少期からおしゃべりだったという。

「よく手を引かれながら、さかんにお母さんに話しかけていた姿が印象に残っています。言いたいことは全部言わないと気がすまないみたいでした。お友達が多く、男の子と遊ぶような活発さもありましたね」

 と当時を知る女性は話す。

 地元の中学校に進むと、前向きな性格でムードメーカー的な存在に。近所にもきちんと挨拶できる少女になった。

「勉強よりスポーツというタイプ。部活動のバレーボールに打ち込み、非行には走らなかった。どちらかといえば気の強い性格だった」(同級生)

 高校卒業後、美容師の専門学校に進学。しかし、美容師の道は選ばなかった。

明るい性格から携帯ショップ店員に

 知人の女性が打ち明ける。

「シャンプーをしたり薬剤を使うので“手が荒れる”と嫌がったんです。彼女は携帯ショップで働き始めました。接客業に向いているので、よい選択だったと思います」

 おしゃべりだけれども健康的で礼儀正しい少女はおしゃれに目覚め、髪の色を明るくした。25歳となる'07年に今の夫と結婚し、子宝に恵まれて4児の母に。ふたたび実家近くで暮らすようになった。

 近所の女性は言う。

「いつも大きな声で挨拶してくれる元気なお母さんです。事件を起こすような人とは思えませんでした」

 かつて自分がそうしてもらったように、子どもの手を引いて幼稚園のバスまで送り迎えをきちんとしていたという。

 一方、4児の子育ては大変だったようで、こんな声も……。

「大変なのはわかるんだけど、朝から晩まで大声で子どもを怒鳴りつけるもんだから近所迷惑。言葉遣いもどんどん乱暴になり、ストレス解消のためか外見も派手になっていった。まったく周囲が見えていない」

 と近所の住民。実家はお金持ちで家賃も払わず暮らせているはずだという。

 忙しく子育てする杉本容疑者にとっての癒しは、韓国出身の人気男性アイドルグループ『BTS(防弾少年団)』だった。SNSでカバー画像にしているほか、

《BTS(ハートマーク)》
《jimin→本命です(ハートマーク)》

 と宣言するほどメロメロになっている。ジミンは人気の高いメンバーだ。

 生活苦は事実なのか。実家の両親に尋ねると、玄関先でそろって困惑の表情を浮かべながら、

「娘とは世帯が別々なので生活に困っていたかどうかわからないんです。まったくわからない。ごめんなさい」

 と、父親が手を横に振った。