長引くコロナ禍のもと、実はマンション需要は増加している。不動産経済研究所が発表している『首都圏・近畿圏マンション市場予測』によると、2021年の首都圏新築マンションの供給戸数は3万2500戸で、前年比19・4%の増加見込みだ。2022年も3万4000戸の供給が見込まれており、マンション市場は活況が続いている。
「2021年の統計はまだ出ていないのですが、売主・事業主別の供給戸数ランキングは野村不動産、プレサンスコーポレーション、住友不動産のトップ3が今年も日本一を争うことになりそうです」
そう教えてくれたのは、住宅評論家の櫻井幸雄さん。全国の住宅事情に精通し、『買って得する都心の1LDK』(毎日新聞出版)などの著書も多い、住宅評論の第一人者だ。
不動産会社の「日本一」といえば、1978年から28年連続でマンション供給戸数日本一を記録した大京をご存じだろうか。
エントランスに鎮座する雄々しいライオン像が有名なライオンズマンションの販売元と聞けば、ピンとくる方も多いはずだ。しかし近年、都心を中心に新築のライオンズマンションをあまり見かけなくなった気が……。
新築ライオンズマンションを見かけない
「2020年のマンション供給専有面積ランキングでは大京は19位。とにかく“日本一”にこだわっていたバブル期に比べると、当然供給戸数自体が減っているので、新築のライオンズマンションを目にする機会も少なくなっているのでしょうね。
ただし、これは大京が落ちぶれたということではなく、長い歴史のなかでの経営方針の変化によるものだと分析しています」(同・櫻井さん)
新築マンションの最盛期だった1994年には、全国で18万戸の新築マンションが供給されていた。
そんななか日本一の供給戸数を死守するべく、大京は自社でつくったマンションだけでなく、ほかの不動産会社のマンションを買い取ってライオンズマンションの看板で販売するといったケースもあったと櫻井さんは付け加える。
その結果、絶対王者を守り抜きはしたものの、マンション自体の品質においては高水準を保つことが難しくなっていったという。
「高品質のマンションを提供できなければ、いくら供給戸数が日本一でもライオンズマンションの魅力は下がってしまいます。
そこで、改めて質のよいマンションをしっかりと供給していこうという動きもあり、10数年前に日本一の座を降りて以降、大京は新築マンションの分譲数を絞りながら、これまで以上に質の高い物件にこだわるようになりました。
同時に、数多く売り出したマンションの管理業務にも、力を注いでいます」(櫻井さん)
当時の状況について、大京をグループ会社にもつオリックス株式会社の広報担当者にも話を聞いた。
「当時の経営方針については詳しく回答できませんが、大京がマンションの供給戸数で日本一を目指していたことは間違いありません。
その後もお客さまの幅広いニーズに対応するため、商品や立地などにおいて、より質の高いマンションを供給してまいりました。
また、10年ほど前からは、住宅などの社会インフラを長持ちさせることで地域活性化や環境負荷の軽減を目指すストック事業とマンション供給の両輪経営を社の方針として掲げております」(オリックス株式会社不動産広報チーム・亀田有子さん)
供給戸数こそ減少したものの、近年も首都圏・地方を問わず新築ライオンズマンションのヒット作は数多く生まれている。
こだわり抜いた質のいいマンション
広報の亀田さんによると、現在のライオンズマンションは断熱や省エネ性能に優れ、太陽光発電などによって“創エネ”もできる「ZEH(ゼッチ)」と呼ばれる基準を満たした環境性能のよい物件開発を進めているという。
「質のよいマンションというのは、基本構造がしっかりしているのは当然ですが、住み心地をよくする細やかな工夫も多いです。
環境への配慮はもちろん、管理費を下げつつ修繕をしやすくしたりという工夫も必要。
そういった観点でも、近年のライオンズマンションは質にこだわった物件が増えています。
私が10年以上、独自に調査を続けているマンション人気指数のデータでも、広島県のライオンズ広島リバーゲートや、福岡県のライオンズミレス西新など、特に地方のライオンズマンションのヒット作が目立っていますね」(櫻井さん)
首都圏ではどうしても土地の値段が高くなってしまい、マンションの売値が上がってしまう。分譲マンションの価格を抑えるためには建物の質を下げざるをえず、居住性が落ちてしまうことも考えられる。
そういったところで無理にマンションをつくらず、地価が高騰していない郊外で看板となる新築マンションをつくる不動産会社も多くなっていると櫻井さんは分析する。
「マーケットの状況や都心部の価格高騰という局面において、郊外ではより好立地にて供給ができたため、結果的にヒットといわれるライオンズマンションが多く生まれています。
もちろん、地方に特化して供給をしているわけではなく、神奈川県のライオンズ横濱瀬谷ステーションスクエアや、石川県のザ・レジデンス金沢など、好評をいただいている物件は全国にあります」(亀田さん)
不動産経済研究所の調べでは、1973年にマンション供給戸数ランキング上位に入った20社のうち、6割超の事業者はマンション事業から撤退しているという。
このように変化の著しい不動産業界において、顧客のニーズに合わせて生き残りを図るライオンズマンションの努力は並大抵のものではないだろう。
「かつての財閥系の大手不動産会社はもちろん、タカラレーベンや日本エスコンといった不動産会社も積極的に物件を増やしているのが現在の不動産業界です。
そんななか、大京は顧客満足度を高める施策や社員教育にも力を入れていますね。
特に昔の不動産会社の営業マンといえば、すごくギラギラして強引なセールスをするといったイメージを持たれている方も多いかもしれませんが、現在の大京の社員さんは紳士的な方が多い印象です。そこも大京の強みといえるかもしれません」(櫻井さん)
ライオン像の進化
昭和から令和へ、時代に合わせて進化を続けてきた大京。その象徴ともいえる、エントランスに置かれたライオン像にも小さな進化が見られるという。
「かつてはそれぞれの地域によってオリジナルデザインのライオン像が置かれていました。沖縄にはライオンの代わりにシーサー像が置かれた物件もあり、表情やポーズなどの違いを比べるのも楽しいですよ。ただし、現在はライオン像のデザインは全国で統一されています」(櫻井さん)
それまで地域・支店の裁量に任されていたライオン像は、2011年に設置ルールを見直し、沖縄を除く全国でデザインを統一。
それ以降は親子のライオン像が新築のライオンズマンションに設置されている。
「家族を愛し、守るライオンのように、大切な人との住まいを守り続けるという思いがライオン像には込められています。
マンションにお住まいの方だけでなく、道行く方にも“愛されるライオンズマンション”という思いが届くよう、2011年からはデザインが統一されることになりました。
なかには季節のイベントに合わせて住人の方に飾りつけをされるライオン像もあるようで、今もライオンズマンションの象徴として愛されています」(亀田さん)
新時代のマンションディベロッパーとして進化を続けるライオンズマンション。その歴史を見守り続けてきたライオン像を、あなたの街でもぜひ探してみては。
(取材・文/吉信 武)