「年金だけで1人で生活していけるだろうか」という不安を抱く人は多いかもしれない。しかし、月に7万円の年金でも満足しながら生活しているのが牧師ミツコさん。食卓には9~10品のおかずを並べて健康管理をしつつ、教会への献金を欠かさない充実の「おひとりさま」暮らしを追った。
お金がない状況を自分なりに楽しむ
「子どものころから貧乏には慣れています。牧師だった父は家にお金がなくても、もっと困っている人にお金を分け与えようと考える人だったので。夫も同じようなタイプでした」と、現在74歳のミツコさん。「必要があれば神様が必要な分だけ与えてくださる」と考えて生きてきた。
ミツコさんは長年、牧師の夫と2人で、教会を運営してきたが5年前に夫を亡くした。70歳からは公営住宅でひとり暮らしをしている。
「いまは月約7万円分の年金が主な収入。これは、国民年金、厚生年金、夫の遺族年金を合わせた金額です。ひとりで7万円のお金を使えるので、昔に比べて『私ってお金持ちよね』と感じて生活しているんですよ」(ミツコさん、以下同)
夫が主任牧師として新しく教会を立ち上げたとき、3年ほど無給だったこともあった。その時代と比べれば今は豊かだという。お金がないことを嫌だと思うことはなく、その状況を楽しむクセがついている。
「例えば、花は好きですがたまに1本しか買いません。でも時々しか買えないからこそ、1回の感動が大きいし、ものすごくうれしい。お金がなくても幸せは感じられるのだと思えるようになりました」
家計管理に時間をかけない
ミツコさんの家計管理の方法はいたってシンプルだ。家計簿はつけずに買い物時のレシートを手元に残し、臨時の出費はメモしておく。
「今日使いすぎたな、と思ったら2~3日は締めるようにし、メリハリをつけます」
毎月、食費と雑費で約4万円の出費に抑えている。普段の買い物にはクレジットカードや電子マネーを活用し、ポイントをためて有効利用する。また、収入が少ないので公営住宅の家賃や健康保険料、介護保険料は減額されている。
ひとりの食卓はというと、1日3食の食事を自分で作るようにしている。
「病気にかからないことがいちばんの節約なので、食事はおろそかにできません。それに生活費の中で工夫次第で最も節約できるのが食費です」
食材は安売り店ではなく、品質がよくて信頼できるスーパーや生協で購入。材料費が少し高くても、自炊なら外食したりお惣菜を買うよりも節約になるためだ。
また、食事では節約を意識しつつ、健康面も考えて次の3つに気を配っている。
1つ目は野菜や大豆をとること。味噌汁は具だくさんにして、蒸し大豆や納豆、手作りのぬか漬けも欠かさない。
2つ目は、栄養バランスを整えるため、1食で9~10品を少量ずつ食べること。「副菜を多めに作り、数日かけて食べれば、簡単に品数を増やせて経済的です」
3つ目は、2食続けて同じメニューにしないこと。「例えば、昼食がビーフシチュー、夕食がのり巻きなら、翌日の昼に残りのビーフシチューとのり巻きを食べます。同じメニューが続くと飽きるし栄養も偏るので、少し配慮するだけで全然違いますね」
シルバー人材の仕事で不足を補う
生活は年金の7万円で成り立つが、ミツコさんは毎月、教会への「献金」をしている。
「クリスチャンにとって献金は、生活費よりも優先すべきものです。毎月の献金は、私の中で絶対に譲れないこと。牧師を引退しても働く必要があるだろうと、以前から覚悟をしていました」
引退後、2015年から地元の自治体が運営するシルバー人材センターに登録。
「自分に何ができるかを考えたところ、4人の子どもたちを育てながら担ってきた家事ならできるのではと思いました。
いまは掃除や料理のため、3軒のお宅に火曜日と木曜日、金曜日にそれぞれ通っています。いずれも子育てをしながら共働きをしているご家庭。若いころの自分と同じような状況のママたちのサポートができるのはうれしいですね」
時給は1時間約千円。週3日働いて月に2万~3万円の収入に。そこから献金や美容院に行ったりするときの臨時出費を出している。
「身体を動かして働くと若さも元気も保てるので、私は仕事があること、働かせていただけることはとてもありがたいことだと思っています。出かける用事があることで生活リズムも整います。働かせていただける限り、この先も続けたいですね」
お金をかけずに楽しむおうち時間
「夫を亡くしたときは寂しい気持ちもありましたが、子どもと暮らすことは考えませんでした。子育ての最大の目的は自立。娘たちには『18歳までは面倒をみるけど、あとは自分でどうにかして』と言ってきたので、私が自立しないわけにはいきません。自分のことには責任を持ちたい」
子どもから金銭的な援助はしてもらっていない。
「いまの生活は、好きなときにご飯を食べたり、昼寝をしたりできて、自由を満喫しています」
ひとり暮らしでも少しの工夫で生活に彩りを添えれば、心が安らぐ。子どもや孫と撮った写真は、しまい込まないで玄関に飾っている。遊びに来た孫が昔の写真を見て喜ぶ姿を見ることが、ミツコさんの楽しみだ。
ただ、病気になるとお金がかかるし、家族に迷惑がかかるので普段から健康でいることを意識している。
「死ぬのは怖くはありませんが、介護で迷惑をかけるのは避けたいですね。朝起きたら30分ほど、筋トレやストレッチをします。テレビや本で紹介された健康法はどんどん取り入れています」
なるべく“笑顔になること”も心がけている。台所や机の上に小さな鏡を置いて、常に自分の表情をチェック。
「笑顔で過ごせば免疫力が上がると聞いて実践中。気持ちも上向きになれます」
牧師の活動から、介護や福祉の現場を知っているので老後への過度な不安はない。
「老人ホームや病院にいる親族、教会員を訪ねることも多いんです。私もひとり暮らしが難しくなったら、老人ホームのお世話になるつもり」
人との交流を大切に毎日過ごす
「万が一のために貯めているのは、自分のお葬式代にする少額のお金だけ。クリスチャンのお葬式は質素なのでお金もかかりません。それよりも、生きている間に人との交流に、お金を使いたいから」
ミツコさんは、人に手料理をごちそうするのが好きだ。特に、お世話になった人を自宅に招くときは心を込めた手料理でおもてなしをする。
「食材費は少しかかってしまいますが、こういうときはケチケチしません。来月節約すればどうにかなるもの。また少額ですが、娘たちがうちに来てくれたときには駐車場代として千円を渡しています」
それも亡くなったクリスチャンの叔母の「気は心」という教えから。
「人のためにお金を使うと不思議と臨時収入があるものなんです。よいお金の使い方をすれば、心も豊かになる。人にもお金にも感謝する気持ちは忘れたくないですね」
1か月の収支
●収入
国民年金などの年金約7万円
●支出
住居費 約6000円
社会保険料など 約4000円
水道光熱費 約8000円
通信費 約1万円
食費、雑費、その他 約4万円
計 約7万円
※シルバー人材センターの仕事の収入は、教会への献金、臨時出費(美容院代)などに充てている
〈取材・文/松澤ゆかり〉