ユーチューブなどを見ながら気に入った配信者にお金などを送る投げ銭。いま、中学生や高校生などの未成年者が親のクレジットカードを勝手に使って送金するトラブルが相次いでいる。なかには、投げ銭のためのお金欲しさにパパ活してしまう女子中学生まで。「投げ銭トラブル」の危険な実態をレポート。
ファンが配信者にお金を送る「投げ銭」
「ネット上の動画に夢中になった女子高校生が、両親のクレジットカードを無断で使って、700万円も動画配信者に支払った事例が昨年起きました。コロナ禍で動画の視聴が増えるのと比例して、未成年者が配信者に大金を送る『投げ銭トラブル』が増えています」と話すのは、ネットトラブルに詳しいITジャーナリストの高橋暁子さん。
投げ銭と聞くと、路上ライブをしているミュージシャンへのおひねりなんかを思い浮かべるかもしれないが、ネット上での投げ銭とは何だろうか。
「投げ銭とは、ユーチューブなどでライブ配信される動画の配信者に対して、その動画を気に入ったファンが応援のためにお金などを送ることをいいます」(高橋暁子さん、以下同)
ライブ配信をしているのはミュージシャンだけではない。
「オンラインゲームをプレーしながら攻略法を解説するゲーム実況者やお笑い芸人、また、料理人やホステスなど、さまざまな人がいます。配信中にファンが投げ銭をすると、派手なアニメーションが画面上に出て、配信者はもちろん、視聴しているほかの人にもわかるようになっています。アニメーションが表示されればされるほど配信者の収入が増えるというわけです」
視聴者はお気に入りの配信者を見つけるとお金でギフトなどと呼ばれる架空のアイテムを購入。それを配信者に送る。ギフトは無料のものから数万円のものまでさまざま。配信者は配信を行う会社に登録していて、ギフトの金額に応じて配信会社から収入を受け取る。投げ銭で月に1千万円以上稼ぐ人もいるという。
●投げ銭のイメージ図
投げ銭の額によって、アニメーションの派手さや大きさ、表示時間などが変わる。人気の配信者だと、ひっきりなしにアニメーションが表示され続け、ついみんなやっているものだと思い込み、自分もやらなければと思ってしまうという。
投げ銭トラブル相談、約半数が未成年
急拡大している投げ銭。なぜそこまで流行しているのか。コロナ禍を機に投げ銭にはまった40代女性は言う。
「コロナで家にこもっていたときにゲーム実況を見始めました。最初は投げ銭をせずに見ていただけだったのですが、1円から投げ銭できるので、あるときやってみたんです。そうしたら小さなイラストが画面に表示されて配信者を応援している感じをとても味わえました。うれしくて、ついはまってしまって……」
誰でも簡単に始められ、気軽に楽しめる投げ銭。しかし、いつの間にか限度を超えてしまうことも。
「未成年の投げ銭トラブルが急増しています。クレジットカードに数か月で100万円以上の請求があったのを不審に思った親が中学生の娘に聞くと、以前教えたクレジットカード番号を使って1回1万円程度の投げ銭を何度も繰り返していたというケースや、大学生が学費として渡されたお金を使い込んでしまい、学費を払う直前になって親に泣きついてきたケースも。投げ銭をするお金欲しさにパパ活をしていたという中学1年生もいました」
消費者センターに寄せられた投げ銭トラブルの相談は、半数ほどが未成年に関するものだという。
ちなみに、すでに巨大な投げ銭市場がある中国では、なんと小学生が3000万円近く投げ銭をしてしまったケースも。こうした事態を受けて、中国では去年の8月から、未成年の投げ銭を禁止するなどの規制が始まっている。
一方、日本ではまだ規制がないに等しく、自己責任でトラブルを避けるしかない。どうしてこれほど投げ銭の金額がエスカレートしてしまうのだろう。
「ネット通販と同じで、投げ銭も画面上のボタンをポチッと押すだけで簡単にできてしまいます。いくら使ったかが実感としてわかりづらいのです。さらに、配信会社が投げ銭を煽るイベントを仕掛けることも。『投げ銭獲得金額のランキング上位者をCMに出します!』といったものです。
すると、自分のお気に入りをCMに出そうといっそう投げ銭し、配信者は感謝します。こうしたやりとりを通して、応援している側は『自分は配信者の特別な存在になれている』と感じ、さらに応援したい気持ちが高まっていくのです」
未成年の投げ銭トラブル防ぐには
ただ、投げ銭がここまで受け入れられたのは、投げ銭の仕組みや配信会社の仕掛けだけが理由ではないという。
「いま『推し事』という言葉が流行っているのですが、日本には昔から好きな俳優や歌手などを一途に応援する『推し』の文化があります。もともと、投げ銭が広まる土壌があったのです。例えばユーチューブでは世界中にライブ配信者がいますが、ある調査によると、2021年の年間投げ銭獲得額では、1位から9位までを日本の配信者が独占しています。ちなみに1位の『潤羽るしあ』の獲得額は2億円弱にもなります」
韓流ではひと昔前ならヨン様、現在ならBTS、さらには宝塚や歌舞伎に至るまで、好きだから応援したくてグッズをたくさん買う、推しのために遠くてもコンサートなどを見に行くといった行動は、理解できるだろう。そのオンライン版が投げ銭なのだとすれば、若い世代がついやりすぎてしまうのもうなずける。
では、どうすれば未成年の投げ銭トラブルを防げるのか。
「大人ができることとしては、スマホやクレジットカードの管理を徹底すること。クレジットカードの番号はもちろん、スマホのロック解除の番号も子どもに教えないほうが安全です。また、子どもの思いを頭ごなしに否定しないことも大切。否定されればされるほど、子どもは抜け道を探して投げ銭をしようとしますから」
トラブル回避の具体的な方法は、「高額投げ銭トラブル撃退! 7か条」を参照してもらいたい。
投げ銭も推し文化のひとつの形。大人も子どもも、節度をもって楽しく「推し」と付き合っていきたいものだ。
●高額投げ銭トラブル撃退! 7か条
(1)子のスマホの機能を制限
子どものスマホに、決済機能などを制限する「ペアレンタルコントロール」をかける。
(2)暗証番号を教えない
クレジットカードの暗証番号は絶対に教えない。誕生日など推測しやすい暗証番号は避ける。
(3)必ずログアウトする
勝手に決済できないよう、一度決済したアカウントからは必ずログアウトしておく。
(4)カードなどの明細を確認
クレジットカードの支払い明細などは毎月必ず確認するようにする。
(5)リビングでスマホを使わせる
親の見えるところでスマホを使わせる。音声も聞こえるようにしておくのがベター。
(6)サービスや課金方法を知る
子どもが使っているアプリのサービスや課金方法について、子どもと確認しておく。
(7)全面禁止せずに話し合う
親子双方が納得できるように、ルールなどについて話し合っておく。
成蹊大学客員教授・ITジャーナリスト。スマホやインターネット関連のトラブルに詳しい。著書は『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎)など多数。NHK『あさイチ』ほかメディア出演多数
《取材・文/高宮宏之》