「バカ……」
髪を短く切りそろえたボーイッシュな少女が、おどける恋人を見て、思わず呟く。
当時15歳だった深津絵里が出演したJR東海のCM『クリスマス・エクスプレス』編のワンシーン。彼女が再び同社のCMに出演したことで話題となった。
「1月16日に放送されたTBS日曜劇場『DCU』第1話の放送枠で突然、深津さんが登場するCMが流れたのでビックリしました。かつてJRのCMに出たのは約33年前のことです。NHKの朝ドラには出演していますが、『DCU』に出ていないし、なんでこの枠なんでしょう。CMを見て“えっ、深津絵里!?”って一瞬、目を疑いました」(テレビ誌ライター)
深津絵里は“年をとらない”
放送中のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』では、約13年ぶりの連ドラ出演になる。今年1月に49歳となった深津だが、演じているのは18歳の役だ。
「ラジオ英語講座をテーマに、3世代にわたってドラマが繰り広げられます。最初は上白石萌音さんが出演し、今はその娘役を演じる深津さんが主演の“るい”編が放送されています。18歳役の深津さんですが、まったく違和感はありません。彼女は年をとらないんでしょうか……」(同・テレビ誌ライター)
雪のように透明感のある白い肌と、老いを感じさせない可愛らしい容姿の深津だが、デビュー当初は違っていた。
「'88年公開の『1999年の夏休み』という青春映画で、深津さんは短髪で男の子役を演じているんです。映画の登場人物は4人の男の子だけなのですが、実は全員、女の子が演じていました。今でこそ“大女優”の深津さんですが、デビュー当時の初々しい姿は新鮮ですよ」(スポーツ紙記者)
'97年には、ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系)に出演。'10年の映画『悪人』では、モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞するなど、女優として着実に存在感を示してきた。
朝ドラの熱演も好評だが、そんな深津の魅力はどこにあるのか。『みんなの朝ドラ』(講談社)などの著書がある木俣冬さんは、
「深津さんというと、私は舞台での演技がとても印象に残っています。人間の中にある混沌とした感情を、本当に巧みに表現されるんです。萩尾望都が原作の舞台『半神』では、身体がつながって生まれてきた結合性双生児役を演じたのですが、離れたくても離れられない苦悩を。坂口安吾の小説を下敷きにした『贋作・桜の森の満開の下』では、すごく無邪気に残酷なことをする美しいお姫様役を演じるなど、“善”と“悪”、“光”と“闇”で切り分けられない“感情”を見事に演じるのです」
その演技は、朝ドラでも発揮されているという。
「つらい体験をしながらも、新天地で明るさを取り戻していく“るい”ですが、ときに“憂い”が顔をのぞかせます。母親を嫌いで憎んでいるのか、大好きで寂しい気持ちなのか。ひとりの人間としての心の揺れを本当に繊細に表現されており、見ているほうも気持ちが震えます」(木俣さん)
そうだ 大阪、行こう
ただ、ここ数年は仕事も抑えぎみだった。そこにはこんなワケがあるようだ。さる芸能プロの幹部が明かす。
「'15年に書道家で母親の諭美子さんが、がんで亡くなったのです。いまや大女優ですから、仕事は深津さん自身が引き受けるかどうかを決めるそう。お母さんの死をなかなか受け入れられず、仕事のオファーを断っていたのかもしれませんね」
それが昨年からの朝ドラ出演に続き、今年は新たなCMへの出演も。再び女優・深津絵里が動き始めたのだ。
新CMではOL役を演じた深津だが、出演にはどのような経緯があったのか。JR東海の広報室に聞いた。
「深津さんには'88年にもご出演いただきましたが、当時のCMには“東海道新幹線は人と人を結びつけるもの”というメッセージが込められておりました。これは放映から30年以上たった現在も変わっていません。東海道新幹線はこれからもみなさまの“会う”を支え続けていきたいという思いを伝えるには、深津さんが最適と考えました」
─日曜劇場の枠で放映したのはなぜ?
「今回のテーマをお伝えするためには、60秒のCMをできるだけ多くの方に、同じ瞬間に見ていただきたく、日曜劇場にて放映しました。しかし、“まん延防止等重点措置”が沿線自治体に適用され、急を要さない都道府県間の移動を極力控えるよう促されたことを踏まえ、CMの放映は停止することとしました」
放映直後に新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、残念な結果となったが、深津には“新幹線”にまつわる知られざるエピソードがある。
「数年前のことですが、ある雑誌の対談に深っちゃんがゲストで呼ばれたときのことです。対談は撮影もあって長時間にわたって行われたみたいですが、そこで食べ物の話が出たようで。確か……大阪にあるうどん屋さんだったと思います。そのうどん屋さんには深っちゃんも行ったことがあったみたいで“おいしいよね!”と、すごく盛り上がったんですって。すると“じゃあ、今から行っちゃう?”って誰かが言い出したそうなんです」(深津の知人)
そうだ 大阪、行こう。きっと深津の頭にも、このキャッチフレーズが浮かんだはず。
「さすがに深っちゃんは断るだろうな……と思ったら“行く、行く!”ってめちゃくちゃ乗り気で。彼女も一緒に新幹線に飛び乗って、日帰りで大阪まで、うどんを食べるためだけに行ったんです(笑)」(同・知人)
私生活については、ほとんど知られていない深津だが、“食”への興味は強い。
「旅行も好きですが、どこに行って何を食べようかって考えるぐらい、食べることは好きみたい。グリーンランドではアザラシの肉も食べたって。作家の池波正太郎さんの本に出てくるお店なんかも興味を持って行っているそうですよ」(女性誌編集者)
過去の雑誌インタビューで、愛してやまないものを問われた深津はこう語っている。
《いかに毎日、自分が食べたいと思うものを食べるかということですかね。起きて、食べて、働いて、食べて、寝る。本当に単純なんです、私》
こんな飾らない自然体な姿も、彼女の魅力なのだ。