新型コロナとの〝闘い〟は2年が過ぎているが…

 新型コロナとの“闘い”も2年が過ぎ、ウイルスについてわかってきたこともあるが、まことしやかに囁かれる“噂”も減らない。世の中で囁かれる説に感染症専門医が答えます!

 オミクロン株が猛威を振るう中、新規感染者数は連日にわたって最多更新。まん延防止等重点措置が適用された都道府県は、1月29日の時点で34にものぼる。

 勢いが止まらないのは新型コロナにまつわる噂話も同じ。感染拡大に伴い、ホントかウソかわからない情報がネットを飛び交っているが、はたして真相は? さまざまなワクチンの研究や臨床試験に取り組み、昨年はクリニックで100人以上の新型コロナ患者を診察・治療した、奥田研爾先生に聞いた。

重症者数が少ないのはワクチン効果?

 オミクロン株の重症化率は0・15%で、デルタ株重症化率の約5分の1だという。頼みの綱のワクチンについては、2回接種を終えた日本人は1月26日時点で全人口の79%以上。

 オミクロン株の重症化率が低いのは、ワクチンのおかげという説もあるが、これは本当?

「ワクチンによる重症化予防効果も考えられますが、もっとも大きな理由は、ウイルスが増殖する身体の部位の違いです。

 デルタ株は主に肺でウイルスが増殖するため、呼吸困難など重篤な症状になる割合が高くなりました。いっぽうオミクロン株は、主に肺よりも上部の、のどや鼻などの上気道でウイルスが増殖します。そのため、のどの痛みや鼻水などの比較的軽い症状ですむわけです」(奥田先生、以下同)

「感染して免疫を獲得する」は得策?

 軽症ですむのなら実際に感染したほうが、ワクチンよりも確実な抗体が得られる気も……。とはいえ、わざと感染するメリットとデメリット、どちらが大きい?

「故意に感染するのは、明らかに無謀な行為。新型コロナが流行し始めた当初、ノルウェーとスウェーデンでこれに近い政策がとられました。あえて感染予防を強化せず、自然免疫の獲得を目指したんです。その結果、死亡者が増加。すぐに政策転換が図られました。

 いまのところ重症化率が低いとされるオミクロン株ですが、新たな変異株の出現などで状況が変化する可能性も。感染予防には、やはりワクチンが有効です」

すでに感染した人はワクチン接種は必要ない?

 もはや、誰がいつどこでオミクロン株に感染してもおかしくない状況の現在。だが、万が一感染した場合は抗体が得られるはず。それでもワクチンの追加接種は必要なのだろうか。

「新型コロナ感染者のほうが、ワクチン接種者よりも強い抗体が得られることは確かです。ただし、この抗体がずっと続くわけではありません。実際に私のクリニックにも、2回感染した患者さんがいらっしゃいます。株が変異するごとに、再感染が増えるおそれも。複数回の感染を防ぐためにも、やはりワクチン接種は必要です」

ワクチンで流産や不妊の心配は

 オミクロン株感染者の半数以上を占めるのが、20代以下から30代までの若い世代。この世代は特に、ワクチン接種率も低い。その原因のひとつが、ワクチンに対する根強い不信感だ。

 厚生労働省のホームページでは「妊娠中の時期を問わず接種をすすめる」としているが、流産や不妊の噂が気になるという女性は少なくない。

「現時点では、新型コロナワクチンによって流産や不妊の危険性が高まるという報告はありません。接種が始まってまだ2年足らずで不明なこともありますが、可能性は極めて低いと考えられます。

 一方、妊婦が新型コロナに感染すると重篤化のリスクが高まるため、やはりワクチン接種は大切。妊娠中でどうしても接種が心配な方は、妊娠4か月まで待つのもひとつの手です。この時期以降は服薬による胎児への影響も少なくなるとされているため、安心材料のひとつとなるでしょう」

国産ワクチンは今年中に普及するのか

 医療従事者や高齢者を対象に、3回目接種が始まった。しかし大都市を中心に、ワクチンが在庫不足に。横浜市にある奥田先生のクリニックでも、希望者に接種できない状況が続いているという。

 そこで期待されるのが国産ワクチン。国内では5社が開発を進めており、そのなかで治験がもっとも早く進んでいる塩野義製薬は、2021年中の実用化を目指していた。しかし、年が明けても承認のニュースはまったく聞こえてこない─。

「厚労省どうにかしてくれ! と言いたいです。そもそもワクチン承認のハードルはとても高く、通常では1万人ほどの被験者を集める必要があります。半数にワクチンを接種し、半数は未接種という状況で治験を実施し、有意差を確認するわけです。

 ところが現在は、国民の8割以上がすでにファイザーとモデルナのワクチンを1回以上接種ずみという状況。国内の製薬会社は、十分な数の被験者を確保することすらできません。緊急事態なのですから、厚労省がこんなときこそワクチン承認の要件緩和などの対策をとるべきです」

 アメリカでは、新型コロナのワクチン開発にあたって、チリ、メキシコ、ペルーなどと連携。各国に治験協力を依頼し、それと引き換えにワクチンを供給するなどして共同開発してきた。

「日本でも、このような柔軟な政策が必要。このままでは、今年中の国産ワクチン承認すら危ぶまれます」

後遺症で、円形脱毛症が増えている?

国立国際医療センターの調査では、後遺症が現れるのは感染者の約1割。女性によく見られる症状のひとつが頭髪の脱毛

 感染者の増加にともない、後遺症に悩む人たちも増えている。国立国際医療センターの調査では、後遺症が現れるのは感染者の約1割。女性によく見られる症状のひとつが頭髪の脱毛で、およそ男性の3倍。この結果を裏付けるように、国内の某育毛剤メーカーでは、コロナ禍以前と比べて女性用育毛剤の売り上げが70%増という結果に。

「感染後の後遺症に、血管の機能の低下が挙げられます。頭皮の血流が滞り、一時的に円形脱毛症になる可能性もありえますね。もし症状が現れたとしても、現在はフロージン液やリンデロン液などさまざまな外用治療薬があります。早い段階で医師に相談するとよいでしょう」

新型コロナ後遺症で、男性器が縮小する?

 にわかに信じがたい説だが、世界的医学誌『ランセット』にも、後遺症として「精巣・陰茎サイズの縮小」の報告例が。新型コロナと男性器、いったいどんな関連があるのだろう。

「円形脱毛症と同じで、血流が関係していると思われます。後遺症で陰茎内の血流が低下し、勃起不全のような状態を起こしている可能性がありますね。ただし、縮小とはあくまでも勃起状態でのサイズのこと。陰茎そのものが小さくなることはありません。勃起機能の衰えは一時的なものにすぎないので、あまり気にしないように」

日本人が持つ“ファクターX”は緑茶だった?

 新型コロナが流行し始めた当初から、日本人の重症化率・死亡率の低さは世界中で注目されてきた。“ファクターX”とされるのは、日本人だけが持つ免疫細胞なのか、食生活なのか─。これまで「BCG接種」説や「過去のコロナウイルス感染歴」説などさまざまな仮説が立てられてきたが、ここにきて「緑茶」説が急浮上した。

「緑茶に含まれる成分、カテキンのパワーについては、私自身も実験ずみ。抗ウイルス作用、抗菌作用があることははっきりしています」

 緑茶は1度に大量に飲むよりも、少しの量を数十分おきにこまめに摂取するほうが、ウイルス対策には効果的とのこと。これはオミクロン対策の先鋒となりうる?

「ファクターXは1つではないと私は思っています。日本人の6割が持つ白血球型、HLA-A24も影響しているかもしれません。さまざまな要因が重なっていると考えられます」

 まことしやかに囁かれる、根拠のない噂に一喜一憂せず、科学的事実をもとにオミクロン株の波を乗り越えたい。

奥田研爾(おくだ・けんじ)
横浜市立大学名誉教授、元横浜市立大学副学長。ワクチン研究所を併設した奥田内科院長。'12年には元日本エイズ学会理事など。著書に『この「感染症」が人類を滅ぼす』(幻冬舎)、『感染症専門医が教える 新型コロナウイルス終息へのシナリオ』(主婦の友社)など多数。