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 コロナ禍で借金に苦しみ、返済できなくなる人は増えると予測されていたが、2年経過したいま、その実情は?

コロナ禍以降、借金を返せず債務整理した件数を見てみると、実際は思ったよりも増えていません。逆に微減傾向ですが、令和4年には増えてくると見られています

 そう語るのは、借金問題に詳しい弁護士の堀向良介さん(以下同)。債務整理とは、自己破産や任意整理、個人再生などで借金を解決すること。

「債務整理された方はやはり飲食関係者が多かったですね」

コロナの波が引くとき、借金地獄が押し寄せる

 なぜ予想よりも借金を整理する人が増えなかったのか。それは政府の救済制度のおかげだという。

「住宅ローンの支払い猶予が認められたり、各種補助金が出たりと、さまざまな救済制度があったからでしょう」

 でも、それで安心してはいけないと釘を刺す。

「今実施されている救済制度が終了したら、おそらく借金で立ち行かなくなる方は増加するでしょう」

 コロナ禍以外で借金を抱える人はどんなタイプが多いのか。浪費家やギャンブラーなど、自制心がないタイプが主かと思いきや、「普通の人」が泥沼にハマるケースもある。

病気で多額の治療費が必要になった、転職して収入が激減、夫婦名義で住宅ローンを借りていたが、離婚して一括返済を迫られた、などの理由で債務整理が発生しています

 また、借金というと収入のない人や低所得者に多い印象だが「それは違う」と堀向さん。

「大きな借金ができるのは、ある程度安定した収入のある人。ごく普通の会社員や自営業の家庭も、一歩踏み違えば 火の車に

身近な詐欺犯罪から、借金苦に陥る主婦も

 近年急増しているのは、SNSやマッチングアプリを使った詐欺犯罪。「このアプリでポイントを買ったらアイドルに会える」などとだまされ、高額な支払いに応じてしまうケースもある。また、専業主婦の使い込みがきっかけで、夫婦が自己破産の危機に追い込まれてしまうことも。

夫から渡される生活費が不足した主婦が、夫のクレジットカードを無断利用。リボ払いにしたら金利手数料が膨らみ、あっという間に大きな借金になるケースもあります

 クレジットカードの「リボ払い」には落とし穴がある。借入金利が18%程度と高く、借りている時間だけ利息が加算される。毎月の返済額を少なくできるが、最終的な支払額が膨らみやすく、借金地獄の温床になっているのだ

「クレジットカードがリボ払いになっていると危険。カードを作成したときに意図せずリボ払いになっていることがあります」

 またカード会社のキャンペーンに応募した際に、応募条件として一時的にリボ払いに変更し、そのまま忘れていることも。

 カードの明細やカード会社の管理画面で確認してみてほしい。

覚えておきたい借金解決法

「少額でも借金を作ったら、早めに早めに措置をとったほうがいい」と掘向さん。専門家に相談して解決できる合法な解決法は主に5つだ。

■自己破産
 裁判所に申し立て、借金をゼロにしてもらう。無職または生活保護受給者でも申請できる。

<メリット>
・多額の借金でもゼロにできる

<デメリット>
・家や車などを失う可能性が高い
・7〜10年は新たな借り入れやクレカ作成ができない
・官報に名前が載る
・手続きが終わるまで、警備員や生命保険募集人など特定の職業につけない

■任意整理
 借金したカード会社と交渉。将来の利息負担ゼロを目指し、長期にわたり借金を返済する。

<メリット>
・家や車などの財産を失わずにすむ
・一部の借金だけ整理することもできる

<デメリット>
・借金をコツコツ返し続ける必要がある
・再度滞納した場合は、一括返済を迫られる
・完済から5〜10年は新たな借り入れやクレカ作成ができない

■個人再生
​ 裁判所に申し立て、借金の大幅減額を認めてもらう。一定の収入がある人が申請できる。

<メリット>
・借金が最大10分の1まで軽減される
・家や車などの財産を失わずにすむ

<デメリット>
・安定した収入がないと認められにくい
・完済から5〜10年は新たな借り入れやクレカ作成ができない

■過払い金請求
 グレーゾーン金利(過去に法の抜け穴をついた違法な金利)で払いすぎた利息を取り戻す。

<メリット>
・払いすぎたお金を取り返せる

<デメリット>
・対象となる借金がない場合、利用できない

■消滅時効
 最後の借り入れまたは返済から一定期間が経過した場合、借金をゼロにできる。

<メリット>
・時効の対象となる借金をゼロにできる

<デメリット>
・対象となる借金がない場合、利用できない
・一定期間がたっていても、その間に支払いに応じる意思表示をしてしまった場合、時効が利用できない

知らないとコワい借金解決の落とし穴

 自己破産などの債務整理は借金をゼロもしくは減額にできる。また弁護士事務所に依頼することで、家族に秘密の手続きもできる。しかし当然ながらデメリットも。

「債務整理を行うと、5〜10年ほど『個人信用情報』というもの、いわゆる“ブラックリスト”に記録が残り、クレジットカードや住宅ローンなどを利用できません。また自己破産や個人再生は『官報』に名前が載るので、他人にバレてしまうリスクも(※官報:国が発行する新聞のようなもの)」(堀向さん、以下同)

●借金解決!と見せかけた違法な手段に要注意

 借金が解決するように見えて、実は違法な取引に当たる手法もある。近年増えているのが、給与ファクタリング。「あなたの給与を換金します」といううたい文句なので、一見借金とは無関係そうだが……。

給与ファクタリングは正式な貸金業者が行わないと違法。ですが現状は、その多くは闇金業者です。給与を受け取る権利を買い取り、あなたにお金を渡します。それを『貸付金』だと言い張って、法外な金利とともに督促してきます」

 違法なので返済する義務はないが、消費者の無知につけ込んでしつこく督促・恫喝し、お金を巻き上げる業者も。被害にあってしまったら、警察へ通報するほか手段はない。

●借金をしたら少額でも返済は困難と心得て

 そもそも借金をしたなら、よほどの収入増がない限り『借金を返すお金もない』と受け止め、早めに対処を。

「なぜなら多くの人は、利息の支払いを延々と続けるだけになるから。借金が数十万円程度でも、無収入なら自己破産の選択を考えたほうがいい

 借金額が少ないからと思わず、まずは弁護士など専門家に相談するべき。

 では借金に苦しまないために、これからできることは?

「シンプルですが、収入の範囲内で生活すること。まずは毎月の収支バランスが整っているか見直しましょう。クレジットカードは一括払いにし、支払いを先延ばしにしないように」

 先の話だが、もし自分が借金を抱えたまま亡くなった場合、借金も遺族へ移ってしまう。将来パートナーや子どもに借金を残さないよう、できることから始めてみよう。

借金をゼロにしたAさんのケース

 ごく普通の40代女性、実は過去に自己破産を経験。今もクレジットカードは使えず、不便は感じるがーー。

●副業を始めるため、複数のカードで500万の借金

 大手メーカーの営業として多忙な生活を送っていたAさん。

「忙しい生活を抜け出したくて、友人の紹介で副業の小売りビジネスをスタート。ところが事業がうまくいかず、数年で在庫は山積み、借金は500万円に。クレジットカード6枚のキャッシング枠やリボ払いをすべて使い、利息が膨れ上がっていました」

●自己破産の代償は大きい、しかし今はホッとした思いも

「当時は自力で借金を返済するつもりだったのですが、弁護士に相談したら『この金額は無理ですよ』とキッパリ言われ、そこで初めて『もう破産するしかない』という現実に気づきました。半年かけて約30万円の弁護士費用のみを支払い、裁判所に申し立てて自己破産が認められました」

 今はまだクレジットカードが使えず、ローンも組めない。それでも借金地獄から抜け出せて、第2の人生のスタートが切れたと、ホッとしている。

「今思えば、自力で返すのは無理でしたね……」

堀向良介さん
 弁護士法人アドバンス・パートナー弁護士(第一東京弁護士会所属)。借金問題に関する豊富な経験を持ち、11000件以上の取り扱い実績を有する債務整理部門を統括する。早稲田大学法科大学院修了。

(取材・文/金指歩)