日本における突然死の死亡者数は年間で10万人以上。すべての死亡者の約2割を占めている。
「その中でいちばん多いのが心筋梗塞などの心疾患、2番目は脳卒中、3番目は大動脈瘤破裂と大動脈解離です」とは医学博士の高沢謙二先生。年齢が上がるにつれてその割合は増加傾向にあり、他人事ではないのが現実。
病気の原因は血管にアリ!
「これらはすべて血管の病気です。血管の内側には知覚神経がないので、痛いなどの自覚症状がありません。発生直前まで何の症状もなく、症状が出たときには手遅れ……ということになりやすいのです」(高沢先生、以下同)。
血管の病気を引き起こす原因は、加齢により血管が硬くなることと、血管の中に“ゴミ”がたまってしまうこと。
「年を重ねると血管は弾力がなく、もろくなります。そして、生活習慣によって、脂肪や悪玉コレステロールを中心にしてできたゴミ=プラークが血管内にたまってくると、血液の流れが悪くなる動脈硬化につながるのです」
プラークで血管内が90%以上ふさがれると、階段を上がったときなどに胸が痛むなどの狭心症の症状が表れる。また急激な血圧の上昇などを機に、プラークが傷ついたり破れたりすると、血小板や白血球がそれを修復しようと集まってきて“血栓”となり、心筋梗塞や脳梗塞を招く。
「突然死として注意したいのはプラークが25%以下の血管。プラークが90%以上になると、詰まった箇所を補おうとして、血管が枝分かれし、迂回路ができて血流が改善する場合があります。しかし25%以下だと、身体も油断し、突然プラークが破裂するなどして、心筋梗塞や脳梗塞を招きます」
とにかく、プラークを作らせず、血管を弱らせないことが大事だ。
「そのためには、高血圧、脂質異常、糖尿病、喫煙の4つに気をつけましょう」
《リスクUPにつながる4大危険因子》
健康診断で以下の数値を超えるようなら赤信号! 1つでも当てはまればリスクは3倍。2つ当てはまるなら9倍、3つなら27倍、すべて当てはまるならなんと81倍に。
【高血圧】上の血圧(医療機関での測定)140以上
【脂質異常】LDL(悪玉)コレステロール140以上
【糖尿病】HbA1c 6.5%以上
【喫煙】リスク3倍
高血圧は、血管壁に高い圧がかかり続けることでプラークや血管が破裂しやすくなる。脂質異常は血液中に悪玉コレステロールや中性脂肪が増える病気。これらはプラークを作る元凶に。糖尿病は、血管壁をもろくし、破れやすくする。そして喫煙は血管を収縮させるので血管を痛めつけてしまう。
加えて注意したいのが、“A型行動タイプ”というもの。
「といっても血液型のことではなく、短気でまじめ、責任感が強いなどの気質をもった人のこと。ストレスを感じやすいため、血圧が上がりやすく血管にダメージを与え、突然死につながりやすいのです」
のんびりタイプの人に比べて、2倍も心疾患を起こしやすくなるのだという。
「声なき血管の声を聞いて、血管が元気になる生活を心がけましょう」
血管年齢チェック
実年齢+10歳以上の場合は、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病の疑いが。+20歳なら血管の病気のリスクが高い状態。医療機関を受診しよう。
□階段を上がると、胸が苦しくなることがある
□濃い味のものが好き
□睡眠時間が少ない or 生活が不規則だ
□1日の喫煙本数×喫煙年数が400以上になる
□電話が鳴ったらすぐに取らないと気がすまない
□血圧が高い
□運動不足だ
□インスタント食品や脂っこい食事が好き
□物忘れをよくする
□野菜をあまり食べない
□コレステロール値または血糖値が高い
□家族に心筋梗塞や脳卒中で倒れた人がいる
チェックの数であなたの血管年齢を予想
0~4個……年相応
5~8個……実年齢+10歳
9~12個……実年齢+20歳
血管年齢チェックでたくさんチェックがついたからといって、絶望しないで!
血管年齢を若返らせることは可能だと高沢先生は言う。
「年齢とともに血管が硬くなるのは自然現象ですが、生活習慣を見直せば、血管はちゃんと若返ってくれますよ」
食事内容に気を配り、適度な運動と良質な睡眠、ストレスをためないなど、健康によいとされることを大切に。
「要はチェック項目と逆の状態を目指すこと。血管に負担をかけない生活をすれば、老けない、詰まらない元気な血管になれるはずです」
のんびりマイペースなB型行動タイプを目指す
「せっかちで責任感が強く、負けず嫌い、完璧主義」などの行動パターンを“A型行動タイプ”と呼び、1959年にアメリカのフリードマンらが提唱。
「このタイプの人はストレスを感じやすく、そのたびに血管はギュッと縮み、血圧は上昇。血管はダメージを受け、血管事故を起こしやすくなります」。
逆に、のんびりマイペースな気質を“B型行動タイプ”と呼び、A型はB型に比べると、2倍も心疾患を起こしやすいという。心身共にリラックスする工夫を。
【A型行動タイプチェックリスト】
毎日、忙しい生活だ 2 1 0
時間に追われている 2 1 0
何事にも熱中しやすい 2 1 0
夢中になると気持ちが切り替えにくい 2 1 0
何事も徹底的にやらないと気がすまない 2 1 0
自分の仕事や行動に自信がある 2 1 0
緊張しやすい 2 1 0
イライラしたり怒りっぽい 2 1 0
几帳面だ 2 1 0
勝ち気なほうだ 2 1 0
気性が激しい 2 1 0
競争心が強い 2 1 0
合計点が17点以上ならA型行動タイプです。
急激な温度変化を避ける
暖かい室内から寒い屋外へ出るときや、暖かい浴室から寒い脱衣所へ行くときなど、急激な温度変化はNG。
「寒さを感じると血管はギュッと縮まり、プラークが破裂しやすい状況に。高齢になるほど血管壁はもろくなっているので、瞬間的に血圧が上がると、破れたり傷がつきやすく、とても危険です」。
外出するときは、家の中であらかじめマフラーをしてから出るようにして。
「頸動脈を温めておくんです。すると温かい血液が全身に回るので、寒い場所へ出ても、血管が縮まりにくいのです」。
手袋も同様。手の毛細血管を温めておくと、全身の急な冷えを防いでくれるのだ。
食事は腹八分目にする
「卵や肉の脂身などを避ければ血中コレステロールは下がる、と考える人がいますが、実は大きな勘違い。悪玉コレステロールを増やすのは、卵や肉といった食品ではなく、“食べすぎ”が原因です」。
コレステロールの80%は炭水化物、タンパク質、脂肪などが原料となって肝臓で作られる。つまり悪玉コレステロールが増えるのは、食事の総摂取カロリーが多すぎる=食べすぎのせい。コレステロールを含む食品だけを控えても無意味なのだ。
「遺伝的にコレステロールを多く作り出す人は医師に相談してほしいのですが、多くの人は食事の総カロリーを減らし、肥満を避けることが肝心です」
野菜をお椀2杯分食べる
「食事のときは、野菜を先に、これでもかというくらいたっぷり食べましょう」。
例えばステーキを食べた後にサラダを食べると、濃い味に舌が慣れているのでついドレッシングも多くなりがち。
最初に食べれば薄味でもおいしく食べられ、塩分摂取が少なくてすむ。お腹も満たされやすいので腹八分目も実現しやすい。
「また腸の中に先に食物繊維を入れておくと、後でステーキを食べても脂質の吸収を抑えられます。糖質の吸収もゆるやかになり、血糖値の上昇も抑えられる」。
目標は1日350g、お椀2杯分くらいの野菜をとって。
第2の心臓、ふくらはぎを動かす
心臓は全身に血液を送り出すが、吸い上げる機能はない。そのため、心臓から遠い足はどうしても血流が悪くなりがち。
「血流改善に有効なのが、第2の心臓と呼ばれるふくらはぎの筋肉。ここを動かすことで、足にたまった血液がグッと心臓へ戻っていきます。重力に逆らって血液を心臓まで戻すポンプの役割をするのです」。
ふくらはぎを積極的に動かすことで、全身の血行がよくなり、心臓は少ない圧力で血液を流せるようになる。すると血圧も低下。心筋梗塞や脳梗塞といった血管事故を防ぐことができるのだ。
血管若返り体操
(1)軽く足を開き、ラクな姿勢で立つ。
(2)両足でつま先立ちをするように、かかとの上げ下げをする。
1セット10回×朝晩2回
さらに効果UPするなら……(1)で身体の前で腕を組み、(2)でつま先立ちする際に、両肩も一緒に上げ下げすると、上半身の血行も促進。
目覚めたら布団の中で行っても→寝たままの状態で足をまっすぐ伸ばし、つま先を立てて手前に引く、次に伸ばす、を繰り返すと、つま先立ちをしたのと同じ効果が。10回行う。
(取材・文/樫野早苗)