神田沙也加さん(享年35)の死から、ひと月半が過ぎようとしている。
12月21日には、父・神田正輝と母・松田聖子が短い会見を行い「今のお気持ちは?」と問いかけたメディアの姿勢が問題視されるなどした。それを機に、そっとしておこうという声が強まったが、そこにはこのふたり、特に正輝の対応のうまさがプラスに働いている。
神田正輝の「オヤジ力」
『NHK紅白歌合戦』への出場を辞退した聖子とは対照的に、こちらは司会を務める『朝だ!生です旅サラダ』(テレビ朝日系)に休むことなく出演中。とはいえ、訃報後、初の出演となった12月25日の放送はただならぬ緊張感で始まった。
いったい何を話すのか、それとも何も話さないのか、注目されるなか、彼は向井亜紀をはじめとする共演陣を見渡して「いつも僕がみんなを守る立場で」と言ったあと、こう続けたのだ。
「今日は守られているような雰囲気がするな。ありがとうございます。僕は元気ですよ!」
これが絶妙だった。特に「元気ですよ!」のところは軽い口調にして語尾を上げ、さらに右手を横に振って大丈夫っぽさをアピール。
もちろん、それがカラ元気であることは伝わってきたが、見ている側が「本物の元気」をプレゼントしたくなるような気持ちになった。
そして、正輝のこういうところに改めて感心させられたのである。
というのも、今から7年前、彼はこの番組で共演者の窮地を救った。'09年からレギュラー出演していた三船美佳に前日、離婚報道が飛び出し、ピリピリとしたムードが漂うなか、グルメレポのひと言を拾い、こう言った。
「酢味噌に合う。スミソニアン博物館」
これに隣の勝俣州和が噴き出し、場が一気になごんだ。三船は結局、離婚問題については沈黙を貫いたが、番組はそこから通常モードに。オヤジギャグが、重苦しい空気を振り払ったわけだ。
聖子は「トーチャン」と呼んでいた
聖子が惹かれたのも、こういうところだった。郷ひろみとの関係がギクシャクするなか、映画『カリブ・愛のシンフォニー』で正輝と共演。
自分のことを「イモ」扱いしてからかってくるひと回り年上の男を、最初は失礼だと感じたが、これは気を引くための正輝の作戦だったようだ。
やがて、ふたりはメキシコロケ中の食中毒騒動で急接近。倒れた聖子を正輝がつきっきりで看病した話が有名だが、それだけではない。
大スターだから助けてもらえるという特殊な立場を指摘し「人間として自立していない」と諭したことが、聖子の心をとらえたという。つまり、父性的魅力、いわば「オヤジ力」が彼女の結婚の決め手となったのだ。
実際、当時は正輝のことを「トーチャン」と呼んでいたらしい。
結婚後、聖子は米国人俳優、ジェフ・ニコルスに不倫についての暴露本『真実の愛』を書かれるなどしたが、正輝は大人の態度でやり過ごした。
『真実の愛』には、正輝がふたりの不倫を疑いつつも「ビールか何かやりましょうよ」とジェフを気さくにもてなした話が出てくる。お互いを束縛しない関係だったからこそ、恋多き女・聖子も12年間、正輝と夫婦でいられたのだろう。
正輝は実の娘にとっても、頼りになる存在だった。彼女と元夫・村田充とのハワイ挙式にも、聖子は不参加の中、オフを取って参加していた。
「元気ですよ!」発言はまさに、俳優として人間としての年季が感じられる見事な対応だったといえる。
口は騒動も生むが、騒動を収めることもできるのだ。