「ネットで売っている“売り子”さんを見て、そのアカウントを参考にして、販売するようになりました」
そう話すのは、都内在住のAさん。女子大生。彼女が売っている物は─。
日本で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認された2020年1月ごろには“マスク不足”が騒動になった。ネット上などで高値で売買されたこともあったが、それは一時的なもので、程なく適正価格で販売されるに至っている。しかし、現在ツイッター上で、商品としての“適正価格以上”でのマスクの売買が始まっている。
《#使用済みマスク売ります》
このようなハッシュタグ(SNS上で“#○○”の形にした文章を投稿することで、キーワードの投稿を瞬時に検索、また同じ関心を持ったユーザー同士で話題を共有できる機能)が現在、ツイッターで散見される。検索すると、以下のようなツイートが多数ヒットする。
《お金に困っているので使用済みのマスク売ります 1000円(送料込み)》
冒頭のAさんもその1人だ。
ブルセラと変わらない需要と共有
「このような時代、そりゃこうなるよなというのがひとまずの印象ですね」
そう話すのは、貧困などの社会問題に詳しいノンフィクションライターの中村淳彦氏。
「地方の高卒女性ですと手取り月収が11万円など、今、女性の賃金がすごく低い。そういう人たちはこういうことをやらざるをえない。1990年代にブルセラブームで“下着を買う”という人たちが急激に増えました。買っていたのは現在60代前半くらいの人たち。その層がブルセラ市場を切り開き、現在に至っています。
2010年代にも、男性向け成年雑誌が“下着の付録つき”が人気企画でした。いつの時代も“物”が欲しい人は一定層いて需要があります。その一方でお金がない女性がいる。需要があり、そこに供給が生まれる、という話かと思います」(中村氏)
また、若者の生きづらさを長年取材してきたジャーナリストの渋井哲也氏は、
「コロナ前もマスクを売っている人はいました。しかし、コロナ禍になって増えましたね。基本的に“マスク単品”だけ売る人はほとんどいません。おそらくマスクは“ほかの商品”の窓口的な意味合いの物になっていると思います。“自分が身に着けていた物”を売る商売は昔からありました。その時代から見てきていますが、マスクだけが欲しいというのは考えられませんね。売る側も数百円のマスクだけを売っていても利益的には薄いですし」
マスクの他に使用済み下着も
確かにマスク売りの女性はみな、下着や靴下、使用済みの口紅なども売っている。
「このような売買をする人たちにとって、“商材”が1つ増えたという状況。それまで下着などを売っていた女性たちがマスクを売るようになった。マスクが“よい”のは、元値が安く、使い捨てする物であること。それが拍車をかけているのではないでしょうか」(中村氏)
ブルセラブーム時代からこういった女性たちへの取材経験の多い渋井氏。販売する女性の人間像とは。
「まずは本当に貧困になっているパターン。あとは“寂しさ”。要するに、こういったやりとりでもいいから相手をしてほしいという人もいます。ツイッターだけでもたくさん同じ商売をしている人がいるなかで、“私を見つけてくれた”という確認になる。“女として見てくれた”“人として見てくれた”という自分の存在確認になっているケースです」(渋井氏)
実際にツイッターでマスクを販売するAさんに、“その他”の商品についても聞いた。
「マスク以外には、使用済みの衣類や下着が中心です。売り子を始めたきっかけは、コロナでアルバイトが削られ、お金に困ったためです」(Aさん、以下同)
月の売り上げはいかほどか。
「マスクは売り始めたばかりですが、今月はマスクだけですと6500円ほどです。ほかの物と合わせると平均して月に1万円から1万5000円くらい。多い月だと2万円ほどになります。それぞれの値段は、使用感や買い手の求める条件にもよりますが、下着セットで4000円、ショーツ単品の場合は3000円です。マスクは1枚1000円、靴下は1500円くらいでお取引しています」
気持ち悪いけどお金になる
別の女性にも話を聞いた。
「パート先の同僚とお金がないという話になり、同僚にこういった物をネットで売っていると聞き、すすめられるような形で始めました」
そう話すのは東海地方に住むBさん。30代の主婦だ。
「自分が女子高生時代にも制服が売れるという話は聞いたことがありましたが、やり始めたころは抵抗が多少ありました。売っている立場で言うのも悪いですが、こんなのを欲しがる人はどうしても気持ち悪いと思ったので。ただ、毎月少なくとも数万円になるのであれば……」(Bさん)
ある種の“性”の売買といえる商売だ。
「購入者の男性は、女性が要求している金額よりもさらに高く払ってくる場合もあります。それによって距離を近づけて、最終的にそれ以上の関係性を……という目論見を持っているわけです」(渋井氏)
Aさんも、
「冷やかしや音信不通はよくあります。最近は着用している写真だけ何枚も求められ、その後に音信不通になるパターンが多いです」
需要と供給─。凄惨な事件などが起こることのなきよう……。