「まず“あら、私?”って思いました」
2月4日に公開となった『鈴木さん』で、いとうあさこが映画初主演を飾っている。
美しい家族をつくることこそ、国家元帥“カミサマ”への忠誠。その国では、45歳を迎えるまでに結婚していなければ住民資格を失い、兵役に就くか、国を去らねばならない。44歳未婚の主人公・ヨシコ役のオファーは、佐々木想監督から直々に。
「台本を読んだときには“超リアルじゃん”って思いました。最近は多様性とかいろんなことが言われますが、根付いているものってどうしてもあると思うんです。感覚とか、人の見方とか、もちろん世代でも。
少子化のため“45歳で独身なら兵役か国を出る”は大げさかもしれないけど知らない感覚じゃないな、と」
本読みでは“どの程度の熱量で読むべきなのか?”など、不慣れな映画の現場に戸惑うこともあったというが、
「初主演だとか、あまり気負わないようにしようとは思いました。ひとりで作るわけではないし、プレッシャーを感じても仕方がない、というか。むしろ、大ベテランの方に囲まれていることのほうがプレッシャーだったかも(笑)」
どこの現場のどんな仕事であろうと、一生懸命やるだけだと明るく笑う。
“人は自然と出会う”の経験値が落ち度!?
もし、ヨシコの住む国に身を置き、45歳を未婚で迎えそうになったらどう行動する?
「私、絶対に国を出ます。それでいいなら、全然。ヨシコの場合は、グループホームのおばあちゃんたちへの情があるから。それさえなければ、ヨシコも迷わず国を出ると思いますけどね」
急いで婚活を始める、という選択肢はない?
「そのパターンもあるか! 私の中で、もうその発想が生まれてなかった(笑)」
自身の結婚について、どのように考えているかを尋ねると、
「“今が凪なだけで、わからない”という言い方を私はよくします。でも、そう言うと“結婚を諦めたんだね”って言われるんですけど、ちょっと違う。まあ結果、ありますよ。このままひとりで棺桶はあるけど、諦めた、諦めないではなくて。本当に“今”ないってだけで。時間さえあれば、大久保(佳代子)さんの家に行って、犬を撫でながら飲む日々です(笑)」
20歳から40歳までは、付き合っている人がいたと振り返る。中には、10年一緒に暮らした男性も。
「みんなで飲むはずが全員来られず、2人で飲んでいたらなし崩し的に……みたいなのばっかりだったから(笑)。“合コンで”みたいな経験が1回もなく、常にウチに転がり込んできていたので“人は自然と出会う”という経験値で生きてきちゃったことが、落ち度なのかもしれない(笑)。努力して出会う経験をしていれば、今も出会いを探していたのかな?」
元彼がほぼ働かず、借金の返済もいとうがしていた話は有名だが、
「働けるほうが働けばいいし、お金があるほうが払えばいいと思っていて。若いころは飲食の好みが合って楽しい、が満たされていればよかった。あと、みんなうまいんだよね。1回も“お金を貸してくれ”って言わないから(笑)。
でも、借金の返済日は来る。平穏なふたりの生活を守るためのお金だから、私は“防衛費”って呼んでました。だから、1回も返してもらおうとは思わなかった。恋愛はコリゴリか? そんなことないですよ。みんな楽しかったなって思ってます」
では今、どんな人であれば一緒に時間を過ごしてみようと思えそう?
「そんな、おこがましいというか。卑下した響きに聞こえてほしくはないのですが、自分みたいな人間がいくつも他人様に条件を出すって何だろう、というか。こっちが言うことじゃないですから。とはいえ“俺、ニート”みたいな人に50代になった今、惹かれるとはとても思えないですけどね(笑)」
“生きじまい”を初めて考えたのは11年前
いとうといえば、終活を始めていることでも話題に。出棺時には尾崎紀世彦の『また逢う日まで』を流すと決め、番組企画で遺影もすでに撮っている。
「そもそもは、映画『エンディングノート』( '11年)を岡江久美子さんにすすめられて見たことかな? 初めて生きじまいについて考えて。人はいつ死ぬかわからないという意識は、そのころから強いかも。
それに、昔の遺影って旅行のときの写真を切り抜くから画素数がひどかったじゃないですか。だから、今の自分を残していって、死ななければポートレートでいいなと思っていて」
ロケで、親友の大久保とお墓を見に行ったことも。
「“近くにおいしいおそば屋さんがあったら、みんな来てくれるかな?”と、南葉山に。すごく高くて、手が出ませんでしたけどね(笑)」
50代を迎えても身体を張ったロケに挑み続ける姿勢はとても尊いが、今後をどう考えているのだろう?
「昔からずーっと、“今後どうなる”みたいなのはなくて。ここ数年は“生きる”を目標にしています(笑)。生きるってすごく楽しいけど、難しいし、しんどいことだと思うので。夢は、近所の子どもたちが笑う変なおばさん、かな?
死ぬ間際、集まってきた子どもたちに“みんなに言っておきたいことがある。来週の水曜に……”で旅立つ(笑)。“えっ、水曜に何?”“あさこばーさん!”って大騒ぎになるんだけど、“でもどうせあの人のことだから、水曜には何もないんだよ”ってみんなが笑い、寿司を食べる。そんな葬式だったら素敵だなって思いますね。でも、臨終間際にそんなに頭が回るなら、まだまだ生きそうな気がしますけど(笑)」
もう次の女の元へ行った!?
撮影は'18年秋。映画作品の多くは、撮影後1年くらいで公開を迎えるが……。
「その後全然音沙汰がなかったのに、東京国際映画祭(TOKYOプレミア2020部門出品)に監督・キャストが突然、登壇することになって。そこで佐々木監督は次回作の構想を話されていて。それを私は“もう次の女のところに行ったのね”くらいの気持ちで聞いていて。だから、もう『鈴木さん』は世に出ないんだなと思ったんですけど(笑)、やっと公開が迎えられてとてもうれしいです!」
『鈴木さん』
K2、池袋シネマ・ロサほかにてロードショー中
配給:Incline
(C)映画「鈴木さん」製作委員会