今年のスギ花粉の飛散は2月上旬から本格化するという。飛散量の予測は、九州や北陸、関東甲信、東北では例年並み、中国、近畿、東海では例年より少ない見込みだ。
スギ花粉による花粉症者
「日本は特に花粉症に悩まされる方が多い国。そのなかでも、最も患者数が多いのがスギ花粉で、年々そのアレルギーの人が増えてきています」
そう話すのは花粉症治療の第一人者である日本医科大学大学院の大久保公裕先生(以下、大久保先生)。
スギの花粉症が増えつづける要因のひとつは、戦後の高度経済成長期にスギの苗が大量に植林され、それが花粉を多く飛散させる樹齢に成長しているから。さらに地球温暖化がスギ花粉の飛散量増加に影響しているともいわれる。
そんなスギ花粉が最も飛散する時期は年明けの1~3月。なにかと忙しいこの季節に、花粉症によるストレスはできるだけ避けたい。
しかし薬を飲んでもなかなか症状が治まらない、飲み続けたからかあまり効果がない、という例も多い。
一方では薬の効果は感じるが、眠気やのどの渇き、頭がボーッとするといった副作用がひどいという話も。
「そんな悩みを一気に解決するいくつかの最新治療法があります」(大久保先生)
保険適用のレーザー照射が増加
近年広く普及してきているのが「レーザー治療」。鼻粘膜をレーザーで焼き、アレルギー物質に反応しにくい状態にするものだ。
レーザーというと大げさな手術のように聞こえるかもしれないが、20~30分で施術は完了し入院も不要。また保険適用の治療なので、費用は3割負担の場合、1万円前後だ。安心して受けられる範囲内であり受診者が増えているという。
「一度で永久に花粉症が完治する、というものではありませんが、主に鼻づまりや鼻水の症状に悩まされる方に有効。治療を受けた患者さんの約8割が効果を実感しています」
施術前に、麻酔薬をガーゼにしみ込ませたものを鼻の中に入れる局所表面麻酔を行うため、施術中の痛みはほぼ感じない。
レーザーの照射はだいだい10分前後で、その後問題がなければ、そのまま仕事や学校に向かえる手軽さがありがたい。個人差はあるが、効果は約1年ほどで、必要であれば次のシーズンに再度レーザー治療を受けることもできる。
「治療後、数日の間は鼻水が多く出ますが、1か月ほどで効果を実感する例がほとんど。
飲み薬や点鼻薬の効果があまりない場合はもちろん、忙しくて継続通院などが難しいビジネスマンや、鼻づまりで困っているスポーツマン、この時期、特に集中を切らしたくない受験生などにもおすすめの治療法です」
【レーザー治療法とは?】
・日帰り手術で20~30分で帰宅できる
・保険適用で費用は1万円前後
・局所麻酔で痛みはほぼ感じない
〈こんな人におすすめ〉仕事が忙しいビジネスマン集中力を切らしたくない受験生鼻づまりで悩むスポーツマンなど
基本的にスギ花粉症の場合は、花粉が飛散し始める前のタイミング(10~12月ごろ)にレーザー治療を行うことがベスト。
すでに花粉症の症状が出ている状態だと効果が半減してしまうので、治療のタイミングは医師と相談し早めに予約をしておくのがよいだろう。
また病院によって使用する照射機は異なり、CO2レーザー、半導体レーザーなどそれぞれの特徴があり、レーザーと似た方法で「凝固療法」といわれるものもある。
「当院では数種類の治療機器を用意し、患者さんに合った方法を医師が判断して治療を行っています」
体質そのものを改善「舌下免疫療法」
より新しい治療法が、「舌下免疫療法」。症状の緩和だけでなく、根本的なアレルギー体質を改善する根治療法といわれる。スギ花粉症に有効で、アレルギー物質を少量含んだエキスや錠剤を舌下に処方して徐々に吸収させ、少しずつ症状を緩和させていく。
「2014年から始まった最新の治療法で、現在では国内で10万人ほどの患者さんが利用しています」
患者の体質そのものを改善していくもので、多少時間は必要になるが花粉症からの完治が見込める。治療を始めておよそ3か月程度で効果が表れ、完治までには最低でも3年ほどは必要。
その期間中は錠剤が手放せないのでやや根気がいる。一方、その効果も大きく目のかゆみや皮膚のかゆみなどすべてのアレルギー反応が改善される。
ただしアナフィラキシーショックといわれる強いアレルギー反応の可能性がある。しかし注射でアレルギー物質を投与する以前の方法と比べ、舌下免疫療法でのアナフィラキシーショックは圧倒的に減少している。
【舌下免疫療法とは?】
・アレルギー物質を少量含んだエキスや錠剤を体内に吸収させ抗体をつくる
・保険適用で1か月1000~3000円程度
・くしゃみ・鼻水だけでなく目や皮膚のかゆみも改善
〈こんな人におすすめ〉根本的にアレルギーを治したい人アレルギー検査でスギ花粉症と診断されている人市販薬で効果がみられない人
「薬で症状を抑えるのとは違って、体質などによって効果に個人差が大きいため、医師と相談しながら治療を続けていくことが大切です」
一昨年から使われるようになった最新の治療法もある。
それは抗IgE抗体オマリズマブ(ゾレアR)を皮下注射する方法。ただこれは重症・最重症のスギ花粉症患者向けで、現在は、1週間以上の既存治療を試しても効果が認められなかった場合のみ適用されている。
その持続期間も長期にわたり、結果的に薬の投与頻度が少なくてすむという利点もある。
ほかの治療法に比べ、薬剤費だけで1か月約4000~7000円と費用は比較的高くなるが、今まで何を試しても効果がなく苦しんできた患者にとっては待ちに待った治療法として注目度が高い。
花粉症を発症すると、単に鼻づまりやくしゃみなどの症状に苦しめられるだけでなく、外出する気力が失せたり、集中力が続かなくなったりと精神的なストレスも大きい。毎年春になると、暖かくなる喜びよりも、花粉症の心配をしてしまう、という人にこそぜひ医療機関で自分に合った治療法を見つけてほしい。