「サプリメントは安易にとらないほうがいいです」と警告するのは、内科医でアクア・メディカル・クリニック院長の寺田武史先生だ。
薬とサプリの飲み合わせは危険
身体のためと思って飲んでいるサプリメント(以下、サプリ)がかえって身体に悪影響を及ぼすリスクがあるからだという。特に問題となっているのが病院で処方された薬とサプリの飲み合わせだ。
日本医師会では服用している医薬品とサプリの相互作用で思わぬ健康被害が発生することがあるとして、啓発用ポスターを用いて広く注意を促している。薬物性肝障害などの重篤な副作用を引き起こすケースもあるようだ。
また、アメリカでは年間約2万3千人もの人がサプリが原因と考えられる健康被害で救急外来を受診しているという報告も(『JAMA Internal Medicine』2019.1.7)。
「コロナ禍で、自分の身体は自分で守ろうと健康志向の高い人が増え、これまではサプリを飲んでいなかったけれども自己判断で飲み始めた人もいると思います。しかし、病院からもらう薬の効きめが変わったり、副作用が強くなることもあるので慎重になるべきです」(寺田先生、以下同)
処方薬との飲み合わせによって健康被害が出るだけでなく、サプリ単体でも吐き気や腹痛、下痢、また発疹やじんましんなどが見られた場合は身体が異常を訴えている緊急事態。いわゆる、薬物アレルギーを起こし、最悪の場合、命の危険を伴うこともある。
「このような症状が出たらすぐにとるのをやめて病院を受診してください」
薬やサプリは100%安全ではない。飲み方次第では毒にもなるのだ。効果的かつ安心安全に服用するために、よくある“落とし穴”を紹介する。
医師が教える「危険な飲み合わせ」の一覧
〜危険な飲み合わせ 処方薬×サプリ&漢方〜
【高血圧の薬】
・ACE阻害薬×EPA・DHA(オメガ3系脂肪酸)
オメガ3系脂肪酸は本来なら血液をサラサラにするいい油だが、薬と併用することで急激な血圧降下が起こり、めまいや立ちくらみを起こす。最悪の場合、意識を失って命の危険も。
・ACE阻害薬×セサミン(ゴマ)
ゴマに含まれる成分、セサミンには血圧低下効果があり、一緒にとると血圧が下がりすぎるおそれがある。
・降圧薬・利尿薬・強心薬×甘草・麻黄(漢方)
甘草には体内のカリウムを排泄させる作用があるため利尿薬との併用で血圧が下がりすぎる場合が。麻黄には興奮作用などがあるため、心疾患がある方は不整脈を誘発するおそれがある。
【糖尿病の薬】
・グリメピリド・メトホルミン・インスリン注射剤など×イチョウ葉エキス・アシュワガンダ・ウコン・地黄・麻黄(漢方)
イチョウ葉エキスなどはインスリンの分泌を促進し血糖降下作用があるため併用すると、低血糖を引き起こすおそれが。けいれんや動悸、意識障害が表れる危険も。
【脳卒中や心筋梗塞の薬(抗血栓薬)】
・ワルファリンカリウム×ナットウキナーゼ・ビタミンE・ビタミンK・コエンザイムQ10・甘草(漢方)
ナットウキナーゼとビタミンEは血液凝固を抑制するため併用すると出血や青あざの原因に。ビタミンK、コエンザイムQ10、甘草は血栓ができやすくなり、脳卒中などにつながるおそれが。
【更年期障害の薬・うつの薬・不眠の薬】
・SSRI・SNRIなど×セントジョーンズワート(西洋オトギリソウ)
セントジョーンズワートは薬と似た作用があり、副作用が強まる危険が。心臓の異常や手足の震え、うつ症状の悪化などあらゆる症状が表れ、最悪の場合は死に至ることもある。
【骨粗鬆症の薬】
・活性型ビタミンD3製剤×ビタミンD
これらを併用するとカルシウムの吸収がよくなりすぎて腎臓に余計な負担がかかる。
【抗生物質】
・テトラサイクリン・ニューキノロン系×カルシウム・マグネシウム・鉄・亜鉛などのミネラル
カルシウムなどのミネラルが薬の成分と結合し、体内への吸収が阻害されるため薬が効かなくなることも。
〜危険な飲み合わせ 処方薬×食べ物&飲み物〜
・薬全般×グレープフルーツなどの柑橘類
グレープフルーツに含まれるフラノクマリンという物質がさまざまな薬と相性が悪い。高血圧の薬(カルシウム拮抗薬など)では血圧を下げすぎたり、高コレステロール血症の薬(アトルバスタチン・シンバスタチン系)ではコレステロールを下げすぎてしまうほか、最悪の場合は肝機能障害や筋肉組織が溶ける「横紋筋融解症」などを引き起こす危険も。そのほか、脳卒中や心筋梗塞の薬、心臓病の薬、鎮静薬、てんかんの薬、うつの薬などさまざまな薬の作用を強めるなどの重大な副作用を招くおそれがある。薬の服用期間中は食べないほうがいい。なお、果肉だけでなく、ジュースもNG。また、グレープフルーツ以外にも文旦、はっさく、スウィーティー、メロゴールドなども要注意。
・高血圧の薬(ACE阻害薬)×MCTオイル(ココナッツやパーム種子など植物由来の油)
MCTオイルの中鎖脂肪酸に含まれるカプリル酸に血圧低下作用があるため、とりすぎると血圧が大幅に下がる危険が。ふらつきやめまいなどの症状が表れるおそれも。
・糖尿病の薬(グリメピリド・メトホルミン・インスリン注射剤など)×オリーブオイル
オリーブオイルに含まれるオレイン酸が血糖値を下げるため、服用中は使いすぎ禁物。低血糖で動悸や意識障害を引き起こす場合も。
・糖尿病の薬(グリメピリド・メトホルミン・インスリン注射剤など)×カフェインの多い飲み物
カフェインは血糖上昇作用が強いため薬の作用を妨げる。コーヒーや炭酸飲料、栄養ドリンクなど、カフェインの多い飲み物のとりすぎに要注意。
・抗血栓薬(ワルファリンカリウム)×納豆
納豆に多く含まれるビタミンKには血液凝固作用があり、併用すると薬の効果が弱まり血栓ができやすくなる。
薬やサプリ、漢方や飲み物も注意
高血圧や糖尿病、更年期障害など、身近な病気の治療薬と相性が悪いサプリがある。例えば、血液サラサラ効果で人気のEPAやDHAなどオメガ3系脂肪酸サプリやCMでおなじみのセサミンと、高血圧の薬との飲み合わせ。
併用すると血圧を下げすぎてめまいや立ちくらみを起こし、意識を失うおそれがある。特にシニア世代は低血圧になったときの症状が重く出る場合があるので、注意が必要だ。
また、見過ごしがちなのが漢方。処方薬と、市販の漢方薬や漢方成分を含む風邪薬やドリンク剤などとの飲み合わせにも気をつけたい。
さらに、薬の作用に悪影響を及ぼす食べ物や飲み物もある。その代表がグレープフルーツ。高血圧の薬と併用すると薬が効きすぎてしまって急激な血圧低下でめまいや頭痛を引き起こすことも。
飲み合わせによって、薬が効きすぎたり、効果を打ち消しあったりと、相互作用はさまざまだが、危険であることに変わりはない。どれも1時間ほど間隔をあけて飲めばリスクは下がるので、一緒に飲むことは絶対に避けたい。
「思いもよらない副作用を未然に防ぐためにも、日ごろ常用しているサプリなどがあれば、お薬手帳に記載し、かかりつけ医や薬剤師に報告しておくことをおすすめします。
なお、分子栄養学を学んでいる医師にかかれば栄養療法や採血などの検査を用いて本当にそのサプリがあなたに必要か否かを見極めてくれるので安心です。そういう視点でかかりつけ医を選ぶのもひとつの手だと思います」
サプリはピンキリ、裏をみるべし
ちなみに寺田先生によると、市販されているサプリは玉石混交。そのため、選ぶ目を持つことも重要だと訴える。
「私の患者さんには原材料や製造方法など品質にこだわった医療機関でしか買えないサプリを推奨していますが、みながみな、そういうわけにもいかないので市販品なら質のいいサプリを選んでください」
その方法とは、サプリの袋の裏面を見ること。
「サプリはあくまでも食品ですので、食品表示法に基づいて裏面に商品に関する情報が記されています。そこを見れば、粗悪品を見抜くことができます。
まずは〈原材料名〉。いちばん多く含まれているものから順に並んでいます。例えば、商品名は『マルチビタミン』でも、メーカーによって含まれている成分は大きく異なります。
マルチビタミンという名前でもいちばん最初にビタミンではなく、麦芽糖や乳糖、イノシトールといった糖分が表示されているものもあるので要注意です」
もうひとつは〈添加物〉。「原材料名より添加物のほうが多く表示されているものも。サプリの成分の多くが添加物という可能性が高いので避けたほうが無難です」
いいサプリの見極め方
(裏面の例)
名称:ビタミン類含有食品
(★1)原材料名:麦芽糖、乳糖、イノシトール、ビタミンC、結晶セルロース、ビタミンB…
(★2)添加物:ゼラチン、二酸化ケイ素、ショ糖脂肪酸エステル、着色料(カラメル、二酸化チタン)…
(★1)原材料名に並んでいる成分は?
多く含まれているものから順番に並んでいる。商品名にある栄養素の名前が最初に表示されているものは比較的品質が高いといえる。この場合はビタミン名よりも前に糖分名が書かれていて主体が糖分だとわかる。
(★2)添加物がどれくらい入っているか?
原材料名欄の/(スラッシュ)以降に表示されていたり、改行して表示されている場合もある。添加物名が多すぎないか要確認。特に増量剤や着色料、甘味料、保存料といった添加物が多いものは避けたほうが無難。
医師が教えるサプリ選び
最後に先生おすすめのサプリを教えてもらった。
「まず大前提としてサプリはすべての人に必要なわけではありませんが、強いていうなら『消化酵素』です。
近年、すべての病気は腸から始まると考えられていますが、消化酵素は腸の機能を正常に保つうえでとても大事なものです。
意外と日本人は胃酸の分泌量が少ない人が多く、栄養素が吸収されにくい体質なので消化酵素をしっかりとることで消化吸収を促すことができます。
消化酵素のサプリはほかのサプリと比べて市販品は少ないですが、例えば個人輸入型通販サイトの『アイハーブ』にある『バイオジェスト』など、通信販売で買えるものもあります。ちなみに、このサプリは食直前の内服が効果的。
もちろん、サプリでなくても消化酵素を多く含む大根おろしやパイナップルを肉などと一緒に食べるのも有効です」
本来は、薬もサプリも身体のためと思って飲んでいるもの。ただ漫然と飲むのではなく、飲み合わせや食べ合わせは問題ないか、そのサプリはそもそも安心安全なものなのか、本当に必要なのかを日ごろから意識することが自分の健康を守るうえで大事なことなのだ。
今さら聞けない! 薬&サプリのギモン
薬やサプリを服用するうえで、素朴な疑問を寺田先生に教わった。
Q.お茶やコーヒーで薬を飲むと効果はないの?
お茶やコーヒーに含まれるカフェインが薬の作用を阻害するのでNGです。
お酒も血液中の薬物濃度が上昇して薬の作用が強くなるので絶対ダメ。サプリの場合はそれほど気にすることはありませんが、薬同様、水やぬるま湯がベストです。
特に、貧血改善にヘム鉄を飲んでいる場合は緑茶や紅茶、コーヒーで飲むのはNG。それらに含まれるタンニンが成分の吸収を妨げてしまいます。
Q.錠剤の薬が飲みにくい。砕いてもいい?
そもそも薬やサプリは苦み成分が多いものもあり、飲みやすさを考慮して錠剤やカプセルにしています。砕いても効果に変わりはないので、苦さなどで飲みにくくなければ大丈夫です。
Q.サプリはいつ飲むのが効果的?
特に明記をしていないなら「食後」。
食事をすることで胃腸が活発に動き、吸収がよくなるからです。ただし、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルや消化酵素は胃酸を中和して消化が悪くなってしまうので、食前がおすすめ。