「通常、不当解雇を訴える訴訟で会社側が支払う金銭補償は月給の6か月から1年分が多い中、裁判官は会社側の非を認め解雇無効を前提に、定年までの約8年間の給与を補償させました。定年退職までの給与が出ることは、まずないそうで結果的には和解といえども実質的には原告の勝訴といえます」(司法関係者)
社長のセクハラを調査しただけで解雇された、と製薬会社・龍角散の元法務部長・福田由紀さん(50代・仮名)が厚生労働記者会で会見してから約2年半ーー。
昨年12月1日に行われた非公開の場において両者は和解。原告の定年退職までの給与を支払う金銭補償で合意退職という形で幕を閉じた。
「ハグはしたけどセクハラではない」と主張
ことの発端は、'18年12月の同社の忘年会。15人ほどが参加したその席で、藤井隆太社長(61)が、派遣社員の相田幸子さん(40代・仮名)に抱きつくなどのセクハラを行ったとされることだった。
現場に同席していた執行役員で原告・由紀さんの姉の福田亜紀子さん(50代・仮名)がセクハラを問題視し、法務部長を務めていた妹の由紀さんに相談。
由紀さんが社内調査を行ったところ、社長は“(由紀さんと亜紀子さんが)セクハラを捏造した”とし、由紀さんは自宅待機を命じられたのち、解雇が言い渡されたのだ。
「'19年6月に由紀さんが提訴会見をしてから裁判はほぼ非公開で行われてきました。公開となったのは3回だけで、'21年9月の藤井社長の証人尋問が公開の法廷で行われました。
その中で藤井社長は相田さんに抱きついたことに関しては“ハグはしたけどセクハラではない”と主張。“首筋が色っぽい”と言ったことに関しては、言ったかもしれないと認めつつも“首筋が出ている服装は好ましくないという意味を込めて言いました”“(ハグを)嫌がっていたら逃げます”などと独自の理論を展開。身体を触ったがセクハラではないと繰り返し、傍聴席から笑いが漏れた場面もありました」(同・司法関係者)
2回目の尋問は同年11月、セクハラを受けたとされる相田さんが証人として出廷した。
「相田さんも藤井社長と同じくハグをされたことや手を何度も触られたことは認めながらも“セクハラだとは思っていません! 福田姉妹に発言を強要された!”などと言い、法廷にいる藤井社長に“セクハラ騒動に巻き込んでしまい申し訳ありません!”と謝罪する場面もありました。
当初、相田さんは由紀さんにセクハラをされた、と自ら話していたんです。相田さんは忘年会当時の'18年12月は派遣社員でした。それが騒動があった翌月、正社員になっています。
中途採用や社内人事が行われる時期でもなく不自然な形に見えたので“会社側に買収されたのでは”と勘ぐる声が社内でも多くありました。相田さんのセクハラに関する証言には首をかしげる部分が多く、裁判長が問い詰める場面もありました」(同・司法関係者)
裁判長からの質問に相田さんは……
ーーあなたは社長に対して申し訳ないと言いながら、社長がしてもいないセクハラをしたと(福田さんに)言ったことは不法行為、名誉毀損、犯罪だと思いませんでしたか?
「福田姉妹が怖く、保身のために嘘を言ってしまいました」
ーーそれは社長を困らせることになるのに、なぜそんなことを言ったのですか?
「保身のためで自分の弱さです」
ーーあなたは保身のため嘘を言えと言われたら言うような方なんですか?
裁判長の質問に相田さんが言葉を詰まらせる場面だった。“福田姉妹が怖くて”という相田さんの証言が腑に落ちないのには理由がある。
「会社側は福田姉妹が社内で権力を持ちすぎているという主張をしていましたが、龍角散はオーナーカンパニーで株の90%を保有する藤井社長が絶対的な権力を持っているのは明らか。
現に、由紀さんはセクハラ調査をしたわずか3日後には自宅待機を命じられて、姉の亜紀子さんも役職を解かれて工場へ異動させられた後、自宅待機を命じられているんですから」(会社関係者)
セクハラを認めようとしない会社側の主張に裁判は長引くと思われていたが昨年12月1日、突如、会社側は和解を承諾してきた。一体何があったのか。
「12月1日の非公開裁判において裁判長が長時間にわたり会社を説得して最終的に会社が折れました。その代わりに会社が主張した条件とは“解雇撤回”、“解雇無効”という言葉を使わないこと。守秘義務を外すということです」
と、原告の由紀さんが取材に応じてくれた。
龍角散は12月7日、自社のホームページで見解を発表。“セクハラはなかった”、“和解金額は退職までの給与ではない”と敗訴ではないことを主張。
龍角散にコメントを求めたところ、
「そもそも本件は、原告が自ら、ヒアリング前に、予め被害者とみなす本人の発言録を作成し、事前に同人に複数回接触しセクハラと陳述するよう求める等、不適切な調査であったことが主な論点でありました。
被害者とされる本人自身がセクハラとは思っていないと明確に証言していることも附言いたします。原告側が解決金(6000万円)は定年までの給与だとコメントしていますが、実際は原告の要求は定年までの給与・賞与・退職金で1億5000万円超でした」
という回答だった。
自殺したくなるくらいつらかった
最後に原告の由紀さんが『週刊女性PRIME』にだけこの2年半の心境を明かしてくれた。
「セクハラを証言していた人たちが次々に証言を翻していき、裁判では私たち姉妹への悪口ばかり言われて人間不信になりました。法務を担当していたのに不正をしたかのように言われ自殺したくなるくらいつらかったですが、諦めないで闘ってきてよかったと思います。
会社のコメントを読みましたが、私は『発言録』など作成しておらず、公開の法廷で尋問が実施され裁判記録も公開されているのに、会社が事実と異なることを公表し続けていることに驚いています。
私が起こした訴訟を通じても、全く反省がなく、また、学びのない会社で非常に残念です。私以外にも、姉は2年以上も自宅待機を命じられたままでしたし、セクハラを証言した後、雇い止めになった方もいます。
内部にいる社員のためにも、第三者相談窓口を設置してほしいと切に願っています」