続々と設置されている大規模接種会場は比較的予約がとりやすく、国は積極的な利用を呼びかけている

 昨年12月に医療従事者のブースター接種が始まった。65歳以上の高齢者、18歳以上64歳未満へと順次、接種が進められているが、接種率は全人口の7.87%(2月9日時点)。思うようにワクチン接種が進まない背後には、1、2回目接種の副反応からの抵抗感や、「オミクロン株は感染しても軽症ですむだろう」という楽観論がある。真相はいかに? ブースター接種にまつわる誤解と真実を追究する。

 2月7日の国会で岸田文雄首相は「2月のできるだけ早期に、1日100万回までベースアップを目指す」とブースター接種の具体的な数値目標を示した。他国と比べて日本のブースター接種は遅れているが、ワクチンに対する不安がいまだに根強いことも大きな理由のひとつだろう。

 一般の人にも3回目の接種券が届き始めたなか、ブースター接種にまつわるさまざまな疑問と誤解について、あんどう内科クリニックの院長・安藤大樹先生に話を聞いた。

1 オミクロンは軽症ですむから追加の接種は必要なし?

 オミクロン株は感染力こそ強いものの、重症化率は低いことがわかってきた。「どうせ軽症ですむなら、コロナにかかって抗体を得ればいい」という声すら出てきている。

「医学的には間違いではない部分もありますが、新型コロナは軽症であっても後遺症が残る事例も出ており、当然ですが感染しないに越したことはありません。また、感染によって得られる抗体量よりも、ワクチンを接種したほうが同等、あるいはそれ以上の抗体を獲得できます。どちらにしても抗体ができてから6か月ほどで抗体の量は減少します。そこで追加接種をして抗体を維持しようというのがブースター接種の基本的な考え方です」(安藤先生、以下同)

 国民の7割が接種を終えても、感染拡大の第6波は逃れられなかった。ワクチンには感染予防効果はないのではという疑問も残るが……。

「2度のワクチン接種をしていても感染する、いわゆるブレイクスルー感染が起こっているのは事実です。ただし、ワクチンに感染予防効果がまったくないということではなく、ブースター接種でウイルスの侵入を阻む中和抗体の量が10.2~31.7倍になるというデータも示されました。

 もちろんワクチンは万能ではなく、かつ、オミクロン株に対しての感染予防効果は従来株より低下していますので、接種しても感染するなら意味がないと思う人もいるかもしれませんが、少なくとも重症化リスクは確実に軽減できます。重症者が増えると医療は逼迫し、職場や家庭などの日常生活にも支障が出ます。医療体制や法制度など環境の整備も追いついていない以上、ワクチンに頼らざるをえないのが現状です」

【ブースター接種による中和抗体価の上昇】

 初回接種(1、2回目)と追加接種(3回目)で異なるワクチンを使用すると中和抗体量は大幅にアップ。ただし中和抗体の上昇率=感染予防率というわけではないので、ご注意を。

(1回目→2回目→3回目→中和抗体価の上昇)
ファイザー→ファイザー→ファイザー→20.0倍
ファイザー→ファイザー→モデルナ→31.7倍
モデルナ→モデルナ→モデルナ→10.2倍
モデルナ→モデルナ→ファイザー→11.5倍

※第27回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料より編集部が作成。モデルナ社の3回目ワクチン接種では、100μgで摂取した数値による報告

2  治療薬の開発が進んでいるからワクチンは不要?

 新型コロナの新承認薬も増え、国内での新薬開発も急ピッチで進んでいる。治療薬が増えれば、ブースター接種の必要はなくなるのだろうか。

「新薬については、一般の方の期待と医療現場の現状が大きくかけ離れている部分かもしれません。たしかに昨年12月24日に、モルヌピラビルという飲み薬が認可され、医師としてもやっと武器が手に入ったような気持ちです。ただし、現状では薬局でのストック数は限られています。安定供給がされているわけではないので、処方できる患者さんはどうしても限られてきてしまう」

 十分な体制は整えられていないというモルヌピラビル。一体どんな薬なのか。

「ウイルスの増殖を防ぐ薬で、発症後すぐに飲めば重症化を防ぐ効果があります。ただし、デルタ株に対しての臨床データの結果であり、オミクロン株の患者さんにどう使えばよいかというコンセンサスが得られていないということもあり、処方はなかなか難しいところです。また、入院・死亡リスクを3割程度下げるという薬なので、一般の患者さんが期待するような“これでコロナが治る”というものではありません。ワクチンが不要となるくらい治療薬が出回るには、まだ時間はかかりますね」

3 副反応が強いモデルナは嫌、ファイザーがいい

 ワクチン接種の懸念点である副反応。モデルナ製はファイザー製よりも副反応が強く出るという話もあり、敬遠されがち。

「モデルナとファイザーの大きな違いは、タンパク質の設計図であるmRNAの量。1回の投与量がファイザー製は30マイクログラム、モデルナ製は100マイクログラムとなっています。投与量が多いぶん抗体もできやすいので、抗体をつけて発症を予防するということだけを見れば、実はモデルナのほうが優秀です。しかし、そのぶん副反応も出やすく、特に若年層の心筋炎などの副反応の頻度はモデルナのほうが高いといわれているため、ファイザーを希望する人が多いのだと思います」

 実際に3回目の接種をする場合、ファイザーとモデルナのどちらがいい?

「実際のところは一定以上の抗体がつけば、発症予防や重症化予防率にあまり差はありません。ブースター接種ではモデルナ製ワクチンは1、2回目の投与量の半分の50マイクログラムを投与することになっていますが、それでも十分な効果があります。また、3回目の接種では、過去2回のワクチンとは別の種類のワクチンを打つ、いわゆる交差接種をすると中和抗体量が上がるというデータが出ています。過去にモデルナを打った人はファイザーを、ファイザーを打った人はモデルナを打つと、ワクチンの効果を高められますが、同種のワクチンでも効果は期待できます」

4 2回目接種から、8か月たつまで接種しなくていい?

 これまで国の方針では、前回の接種から8か月を目安にブースター接種を受けることを推奨していたが、接種状況の遅れを受け、高齢者や医療従事者の接種間隔が急きょ6か月に短縮された。

「実は8か月という日本の目安自体あまり根拠がない数字で、海外では2回目接種から6か月後としている国が多いです。接種直後から抗体量は徐々に減少し、6か月ほどで抗体価は10分の1ほどになるため、そこがブースター接種の目安となっています」

 8か月を待たずに接種したいと思っても、実際に打てるかどうかは別問題だ。

実際のところ、国の方針が急に“6か月でもいい”という内容に変更になったので、8か月のつもりで準備をしていた自治体の多くは接種の体制が整っていない場合が多いです。当院もやっと予約を受け付けられるようになったばかりですが、この先、各地の接種体制は急ピッチで整備されていきますので、不安な方はなるべく早く予約をとれるよう、自治体の情報などをしっかりと確認してください」

5 新たな変異株が発見されたら、現行のワクチンの意味なし?

 現行のワクチンは、新たな変異株に対してはどれくらい効果があるのだろうか。

「多少なりとも予防効果が落ちてしまうことは十分に考えられますね。ウイルスはワクチンに対抗して生き延びようとするので、確実に変異は進みやすくなります。変異株に対抗できるワクチンの開発も進んでいますが、新ワクチンが出回るまでにはどうしても時間がかかります。ワクチンとウイルスのイタチごっこになると、ウイルスのほうが一枚上手ですね」

 この先の変異株に効かないならば打たなくてもいいのではないかとも思えるが……。

「オミクロン株に比較的軽症例が多いのは、既存のワクチン接種によって得られた免疫の効果も大きいと思われます。また、変異を経て感染力が強まっても、毒性は弱くなっていくというのがウイルスによく見られる傾向です。インフルエンザも100年ほど前にパンデミックが起き、収束までに30年ほどかかりました。今では飲み薬も有効なワクチンもあり、社会活動を止めるほどの感染症ではありません。コロナも同じようにいつかは落ち着いていくと思いますが、特効薬や画期的なワクチンが開発されるまでは現在のワクチンと感染予防で戦っていくしかないですね」

 残念ながらまだまだ続く新型コロナとの攻防戦。ワクチン接種を含め、個人ができる限りの対策をとるしかない。

お話を聞いたのは
安藤大樹先生

安藤大樹先生

 あんどう内科クリニック(岐阜県岐阜市)院長。医療法人社団藤和会理事長。『医療よろず相談所』をクリニックのコンセプトに掲げ、生活習慣病や感染症、内科系疾患のほかストレスからくる心の不調など、医療のあらゆる問題に対応するプライマリ・ケア医。

取材・文/吉信 武