開始から55年、日本屈指の演芸バラエティー番組『笑点』。“大喜利”の新メンバーに抜擢されたのは、桂宮治。メンバーの平均年齢をぐっと若返らせ、新風を吹き込んでいるが、意外なその素顔とは?
「僕の人生どうなっちゃうんだ?」
新メンバー入り、おめでとうございます!
「ありがとうございます。めでたいのかどうか、よくわからないですけど(苦笑)」
ちょ、ちょっと、どうしたんですか?
「一般の方からすれば宝くじに当たったぐらいビッグなことですよね。“やったー!”って跳び上がるイメージだと思うんですけど。最初に聞いたときにはドッキリだと思ったし、そうじゃないとプロデューサーに言われ、“ええっ!? マジか? ヤバくないか? できるのか? 僕の人生どうなっちゃうんだ?”と。喜びよりも、不安とプレッシャーと恐怖のほうが何百倍も大きかったです」
舞台上では明るく元気印な宮治だが、実はネガティブな性格だそうで。
「人生にはバランスがある、というか。いいことがあったら必ず同じくらい悪いことがあると思っているので。メンバー入りは出来事として大きすぎるので、ちょっとやそっとのマイナスではかき消されない。だから、交通事故に遭うんじゃないかとか、乗っている飛行機が落ちるんじゃないかとか。もう、初登場の放送(1月23日)まで生きた心地がしませんでした」
若草色の色紋付に鳥肌が立った
初登場の回は前週より4.8ポイントアップの16%(世帯)、翌週も17.7%と好視聴率をマーク。SNSなどには“番組がさらに明るく面白くなった” “桂宮治、初戦から大活躍で好印象”など、ポジティブでウェルカムな声ばかり。
「“よかった~”と。もう泣きたくなるぐらいでした。でも次の収録が近づいてくると日に日に胃が痛いし、もしスベったらすごい叩かれるんだろうなと思うと……もう、ヤダ。辞めたいよ(笑)」
なんて言いつつ、先輩師匠たちをしっかりイジり倒し、笑いをさらう。この日、初めて袖を通したという色紋付は若草色。
「『笑点』のスタッフさんは箝口令の度合いがひどすぎるんですよ。“僕、本人なので教えてくださいよ”って言っても“レインボー”とか言われるし(笑)。今日、楽屋に一式置かれていて。開けてみたら“この色か!”と。鳥肌が立ちました」
桂歌丸さんが回答者時代に着ていた若草色の復活は、約15年ぶり。
「またプレッシャーと恐怖が襲ってきて、着たくないとすら思いました(笑)。“ミスター笑点”と呼ばれた歌丸師匠のイメージを引き継ぐなんて無理なことで。まだ何十年かかるかわかりませんが、“この色は大外で明るく元気に騒いでいる宮治の色”と思ってもらえる日が来るように、一生懸命頑張るだけですね」
謝っても許してくれないのはアノ人だけ
収録を重ね、だんだん慣れてきたかと尋ねると、
「たぶん、一生慣れないですよ。横にいらっしゃる先輩師匠方は、僕が前座で入ったころからのスーパー売れっ子真打ち、大看板の方ばかり。入りたての前座なんて口もきけない、雲の上の存在ですから。慣れるわけがないんですよ。ただ師匠方は“板の上に上がったら上下関係はないから、思い切って来てね”と言ってくださる。初収録前にはみなさん、わざわざ電話をくださって。(三遊亭)好楽師匠だけは酔っぱらってましたけど(笑)」
そんな他メンバーをイジるのは、やはり勇気がいる。
「だけど、二の足を踏んでいるところが見ている人に伝わってしまったら面白くない。下が上にパーン!ってツッコむから面白いわけで。だから“好楽師匠、つまんない”と言う。そして“よせよ~”というパッケージみたいなものをきちんと見せる。もちろん、あとから楽屋で“すみませーん”って謝って。師匠方は“いいの、いいの”と笑ってくれる。本当にやさしくて、ファミリーなんですよね。謝っても許してくれないのは山田(隆夫)さんだけ(笑)」
腹黒、天然、エロオヤジ……その中でどんなキャラを?
三遊亭円楽の腹黒、林家木久扇の天然、三遊亭小遊三のエロオヤジ……。キャラ立ったメンバーたちの中で、どんなキャラクターを確立させたい?
「まだ発表前、(春風亭)昇太師匠から“おまえはそのまま、今までどおり頑張ってやっていけば大丈夫。それで選ばれてるんだから。キャラとか作ろうと思うんじゃないよ。今の宮治のままでやっていけば、そのうちキャラは絶対にできるから”と言っていただいて。
そもそも、僕がこの場所にいられるのは昇太師匠のおかげ。一門でも、弟子でもないのにずっと目をかけてくださって。だから、信じてやるしかない。変にキャラ付けした回答をしたりせず。師匠方との化学反応でじわじわ決まることだと思うので。それができるまで、いつもどおり一生懸命やっていきたいです」
俳優養成所、トップセールスマンをへて
『オレたちひょうきん族』よりもドリフ派。吉幾三の座長公演などにも足を運んだ少年時代。舞台上での泣き笑いに心をつかまれ、高校卒業後は俳優養成所へ。
「人と呼吸を合わせるのは得意じゃないし、向いてなかった(笑)。ただ楽しいし、やることないから、バイトしながら続けていただけで」
養成所の先輩に紹介された化粧品販売で手腕を発揮。サラリーマンの平均年収を大きく上回るトップセールスマンに。
「でも僕はネガティブなので“一生この仕事を続けられるのか?”と思っていました」
迷いの森の中、後に妻となる2歳上の明日香さんから“貧乏でも、やりたい仕事を一生懸命やってるほうが幸せだよ”と背中を押され、披露宴で“会社辞めます”と宣言。桂伸治に弟子入りしたのは31歳のときだ。売れない時代の借金も、明日香さんの昼夜を問わぬ労働によってさくっと返済されたそう。
「ウチのカミさんには一生、足向けられないですよ。僕が喜んでるときは喜ばないし、僕が落ち込んでるときは一緒に落ち込まずに平常心でいてくれる。今があるのは、もちろんカミさんのおかげですから」
11歳と9歳の愛娘、6歳の愛息を持つ。趣味は適度な飲酒、子育て、家族と戸越銀座を散歩すること。愛妻家で子煩悩でもある。
「僕、高座では明るいんですけど、普段はけっこう暗い顔して歩いているので。街で見かけたときに“あれ、印象違うんだけど?”って思われるかもしれませんが、それは僕の地の部分なので……許してください!」
宮治がつまらなければ落語がつまらない、に
やはり、落語家になったからにはいつかは『笑点』に、という気持ちが?
「これね、“落語家あるある”で。親戚縁者から“早く『笑点』に出られるようになるといいね”って言われるんですけど、全員が目指してるわけじゃないんですよ(笑)。
ただ、僕は学校公演が好きで、離島の小学校にも行ったりしますが、落語をまったく知らない子でも『笑点』は知っている」
“笑点=大喜利メンバー=落語家”というイメージはどうしてもある。だからこそ、
「笑点メンバーになった僕の高座が面白くなければ、“笑点=落語家=宮治がつまらない=落語がつまらない”と思われちゃう。一生懸命大喜利をやって、視聴者に喜んでもらうのは当たり前。それは大前提なんですけど、今まで以上に落語に熱を入れて。ものすごく面白いものを、これから常に提供し続けないといけない。身を引き締め、もっと頑張らなきゃいけないという気持ちが強いです」
【プロフィール】
かつら・みやじ。'76年10月7日生まれ。'08年、桂伸治に弟子入り。'21年2月、落語芸術協会の落語家としては春風亭昇太以来、29年ぶりとなる5人抜きで抜擢真打ちに。若手ユニット『成金』メンバー、『笑点 特大号』(BS日テレ)の“若手大喜利”元メンバー
『笑点』
毎週日曜午後5時30分~(日本テレビ系全国ネット)放送中