辛いひざの痛みをとるためには……

 日本では60歳以上の約6割が変形性膝関節症を患い、ひざ痛の約9割がこの変形性膝関節症といわれる。厚生労働省は、国内での患者数を、自覚症状のある患者数で約1000万人、潜在的な患者数(エックス線診断による患者数)で約3000万人と推定している。

日本人は座っている時間が世界でいちばん長い

「変形性膝関節症は、ひざ関節の軟骨がすり減ることによって痛みや腫れを起こす病気です」

 と、教えてくれたのはアスリートゴリラ鍼灸接骨院の高林孝光院長。

 そもそもひざの痛みの原因は、ひざ関節の軟骨がすり減る際に出る摩耗粉という軟骨のカスが滑膜(ひざ関節全体を包む関節包の内側にある膜)に付着し、炎症性サイトカインという物質を分泌することによるものだ。

ひざ痛が起きるメカニズム

「炎症性サイトカインは本来、細菌やウイルスなどの異物を退治する役割をしていますが、摩耗粉も異物と認識してしまい、滑膜に炎症を起こして痛みを生じさせます」(高林院長、以下同)

 大部分のひざ痛の原因が、ひざ関節内の滑膜の炎症にあるため、本来はその炎症をとらない限り、痛みが継続したり、ぶり返したりするのは当然だ。

 しかし、整形外科でのひざ痛の治療の中心は、鎮痛剤と抗炎症薬(痛み止めと湿布薬)という対症療法であり、ひざ痛そのものを治す治療ではないのが現状だ。このような治療が中心なのは日本だけで、海外ではひざ痛の治療は運動療法が中心で多少の痛みが伴ってもできるだけ身体を動かす方針をとっている。

「ひざが痛いのに運動?」というこれまでの治療法(イラスト/長田直美)

「豪・シドニー大学の調査によると日本人は座っている時間が世界でいちばん長いといいます。ひざを動かす機会が少ないことは、ひざに栄養と酸素を運べないことにつながり、これも痛みを誘発する原因のひとつでもあります」

「ひざのお皿浮かし」で痛みが軽減

 そこでひざ痛改善のために高林院長が着目したのが膝蓋骨、つまり“ひざのお皿”だ。

「ひざのお皿はひざを曲げ伸ばしする際に、大腿四頭筋という4つの筋肉の収縮と伸展を脛骨に伝える滑車の役割を担っています。つまり、ひざのお皿を柔軟に動くようにすれば、4本のロープを通した“動”滑車同様、ひざにかかる負荷を4分の1まで軽減するのです」

 また、ひざが痛いためにひざを伸ばしきれないでいると、ひざのお皿が大腿骨を圧迫することにつながるという。

「ひざのお皿が大腿骨を圧迫すると、お皿と大腿骨の間の関節である膝蓋大腿関節に炎症が起こります。また、大腿骨と脛骨で構成されるひざ関節にも悪影響を与えることは否めません。つまり、炎症箇所がひざ関節、膝蓋骨関節のいずれであっても、まずはひざのお皿の圧迫をとることが大切なのです」

 そこで、紹介したいのが「ひざのお皿浮かし」だ。ひざのお皿を圧迫している方向とは逆方向に浮かせて動かすだけの超カンタンな方法。長座の際にひざ裏が床につかない、痛みがすでにある、さらに効果を実感したいなら、ひざ裏伸ばしのストレッチも同時に行ってほしい。

お皿浮かしの方法はQRコードのURLで動画で解説!(写真スライドでも解説しています)

 

ひざのお皿はどうして大事?ひざの痛みと関係があるの!?

 ひざのお皿は動滑車のような役割を果たし、ひざにかかる負担を軽減(約4分の1)する。ひざがまっすぐに伸びきらない場合、ひざのお皿の大腿骨方向へ圧迫が起こり、膝蓋大腿関節(ひざのお皿と大腿骨間の関節)が炎症を起こし痛みを生む。

お話を聞いたのは……アスリートゴリラ 鍼灸接骨院院長 高林孝光先生●鍼灸師・柔道整復師として延べ10万人以上を施術。有名アスリートや著名人の治療実績も豊富。日本テレビ系列『ヒルナンデス!』肩こり特集で〝全国の6人の治療家〟の1人に選出されるなどメディア出演多数。『ひざ痛がウソのように消える!ひざのお皿エクササイズ』(CCメディアハウス)ほか著書多数。

<取材・文/松岡理恵 イラスト/長田直美>