消費税の不正還付を受けたとして消費税法違反の疑いで、1月下旬、イベント会社社長が逮捕された。社長はイベント展示用に猫を仕入れ、その代金として30億円近くを架空に計上。消費税分の2億円弱を還付申告していた。
つかみ取り、ギュッと握りしめ…
「消費税は、仕入れ時に支払う税額が売り上げにかかる税額を上回ると、差額の還付を受けられます。今回は実際には猫は存在せず、血統書も使いまわしだったそうです。中には1匹1000万円とした猫もいました」(社会部記者)
同社はペットホテルの運営のほか、全国各地で『ふれあいねこ展』を開催。
人類は犬や猫のほか多くの動物と“ふれあって”きた。癒しを求めてペットとして飼う人も多い。広く動物に目線を移せば、『アニマルセラピー』という動物と“ふれあう”形の治療も存在する。人類にとって動物と“ふれあう”意味は大きい。しかし、その“ふれあい”において、人は基本的に「可愛い」と思う感情など“得る”だけだが、逆に動物たちはどうであろう。何かを“失う”ことも……。
『移動式動物園』という百貨店やショッピングモールで開催される動物イベントがある。多くは“ふれあいイベント”として、動物に実際にふれることができる。冒頭の逮捕された社長が開催していた『ねこ展』もその1つ。「“ふれあい”を売りにした移動式動物園は問題があることが多い」と話すのは、動物保護団体『PEACE』の東さちこ代表。
「移動式動物園では、動物たちが触り放題になっているため、例えばヒヨコなどは、“ギュッ”と握りしめられたり、目や口、手足などの体の部分をいじられたりしています。子どもたちに悪意はありません。しかし、無理やりエサを食べさせようとしたり、ハムスターをケースに戻すときに高いところから落とすなど、いくつもの問題シーンを見てきました」(東さん、以下同)
動物を傷つけるような行為は決して“ふれあい”ではないだろう。
動物にかかる大きなストレス
移動式動物園は文字どおり、“本店”から別の場所に移動した簡易的な“支店”といえる。そのため次のような点も。
「屋外で行われることが多く、動物のための設備があるわけではない。そのため温度管理がなされていないことがほとんどです。また、係員などの注意するスタッフがそれぞれの展示スペースに常駐することはほぼなく、目が届いていないことが非常に多い」
一般的な動物園であれば、動物たちはみな、オリや水槽などに入れられている。状況として“人に触られ続ける”といったことにはならない。ずっと隅で眠っていてきちんと見ることができないこともある。しかし……。
「移動式動物園で展示される動物たちは、基本的に休憩時間もなく、身を隠したりする場所もありません。モルモットなどは、なるべく人間から遠いところ、手の届きにくいところにいようとするので、ずっと人の目、人の手にさらされ続けることは、習性からすれば考えられないことです」
移動式の名のとおり、このような動物イベントは、普段暮らしている場所から現地にやってくる。
「輸送は動物に大きなストレスを与えますが、そもそもそれがあまり理解されておらず、動物たちは何十キロ、ときには数百キロの距離を輸送されてやってくることもあります。300キロほどの移動距離をしばしば運んでいた業者は、動物をぎゅうぎゅう詰めにして輸送していたことも判明しています。そしてまたとんぼ返りで戻されます。先日逮捕された『ふれあいねこ展』を開催していたイベント会社は、多数の猫を空輸していました。同社のふれあい展示は、幕張で短期のイベントが終わった直後に、猫たちを休ませることもなく、すぐ九州の会場まで空輸していたことがありました」
ふれあうこと自体、人間にとってもリスクがあることも。
動物とのふれあいで感染症になるケースも
「エキゾチックアニマルが展示されることもありますが、感染症をもらう可能性があるので、厚生労働省のガイドラインでは、ふれあいはしないよう書かれています。しかし、義務や罰則がないため、業者に守らせることができません。ちなみにアメリカでは、5歳以下の子どもに爬虫類やヒヨコを触らせないようにというガイドラインがあります」
カメやヒヨコに触れたことによるサルモネラ感染症の報告が毎年上がっている。
以上のような問題もあり、過去に移動式動物園・ふれあい動物展を開催してきた大手企業は、今後は“開催しない”とするところが出てきている。東さんはここまで話したような問題点を企業に投げかけた。
「イオン本社と、セブン&アイグループのイトーヨーカドーおよびアリオから、“今後店舗で移動式動物園は行わない”との回答をもらいました。これらの系列の店舗で行われた移動式動物園で動物の扱いがひどく、たびたびネットで炎上したからです。小型犬が雨に濡れる場所に置かれていたり、夜間はヤギや猫などの動物を小さなケージに入れて、それを屋外の木箱に入れて翌朝まで放置といったことが行われていました。また、シマウマなど神経質で移動式動物園に適さない動物も連れてこられていて、狭いスペースでぐるぐる回っていました。利用者から多くの苦情が寄せられたと思います」
小さな子どもが動物とふれあうことは、情操教育としてよい影響を与えるといわれる。しかし、そこでたとえ悪意がなくとも、動物が虐げられることはあってはならない。