YouTubeが2月15日、設立から17年を迎えた。そんな周年の月に、日本で起こったことは……。
「はっきり言うけど、俺に勝っとるとこ1つもないからなマジで」
「ちょっと芸能界で売れたくらいで調子乗んなよ」
登録者数470万人を誇るトップ“YouTuber”『ヒカル』が、食事会で出会った“ある芸人”に対して怒りの動画を投稿し話題となった。ヒカルはその芸人に、「今のうちに稼いどったほうがいいよ」と言われたという。それに対しヒカルは動画で「お前が30年かけて稼ぐ金額、2~3年で稼ぐねん、こっちは」と反論した。
「この件については、『アルコ&ピース』の平子祐希さんがラジオで“これ、俺です”と名乗り出たり、YouTubeチャンネルも好評な『さらば青春の光』が、ボケとして自身のYouTubeチャンネルに謝罪動画を投稿し、4日で400万回再生となるなど、芸人界隈でもバズる結果となりました」(お笑いライター)
ヒカルは動画内で「とにかくこっちを下に見てくるわけよ。ボコボコにしたろかなと思ったわ」と、自分自身への批判というより、“芸能人がYouTuberを卑下した”ことに怒りを顕にした様子だった。
「大物の芸能人の人もYouTube始めとうわけやで?」
ヒカルがそう話すように、芸人を含めた芸能人がYouTubeチャンネルを開設することはもはや珍しいことではない。
芸能人よりYouTuberのほうが上
「あくまで“本業”がありつつの動画投稿という意識の芸能人・芸人が多いと思いますが、視聴者にとっては“YouTubeに動画を投稿する人”として、そこにYouTuberとの差異はないでしょう。またあえて“上下”に対して言及すれば、お笑いであれば石橋貴明さんであったり、歌手であれば小林旭さんだったり、いわゆる“大物”“重鎮”と呼ばれる芸能人も多数YouTubeにチャンネルを始めている。
この芸人さんがバカにしているのは、“本業YouTuber”なのでしょうが、この時代にYouTubeと芸能界に上下を見い出すのも少し古い考えかたではないかと思います。もちろん大物や重鎮がYouTubeで人気を博しているかは別問題ですが」(前述・お笑いライター)
ヒカルを卑下した芸人の考えはわからないが、テレビではなくネットがいちばんのメディアとなっている若年層を中心に、もはや “芸能人よりYouTuberのほうが上”と考える人すら少なくないだろう。ヒカルの総再生回数は約40億回。YouTubeにおいて、この数字を上回る芸能人はいない。
設立から17年を迎えたYouTube。最初の投稿動画は、YouTubeの共同設立者であるジョード・カリム氏が投稿した動物園内で撮影されたものだ。
「設立された2005年から数年は、日本においてYouTubeはそれほどメジャーな存在ではありませんでした。『ニコニコ動画』など、当時日本で先行していた動画プラットホームに動画を投稿していた層が一部流入していたような、アングラ寄りの存在。もちろんHIKAKINさんなど、当時から人気を得ていた投稿者はいましたが」(ITジャーナリスト、以下同)
「子どものなりたい職業」1位に
YouTuberが認知され、ネットに明るい層以外の“世間”にまで広まった大きな要因は2014年のこと。
「“好きなことで、生きていく”をキャッチフレーズに2014年の10月から、地上波のCMも含めて、大々的なキャンペーンが打たれました。これにより世間にも広くYouTuberという存在が知られることになった。それ以降はYouTuberが『子どものなりたい職業』で1位になることも珍しくなくなりました」
“好きなことで、生きていく”キャンペーンは、第1弾は、日本でいちばん有名なYouTuberといえる『HIKAKIN』、スマホゲームの実況の第一人者的存在である『マックスむらい』、英会話動画を投稿する“バイリンガール”吉田ちかが起用された。
同年11月にも、第2弾キャンペーンとして、登録者数1000万人を突破し、現在もトップYouTuberの『はじめしゃちょー』、日本におけるYouTuberの先駆者で、動画作成を事業とする会社を設立した『MEGWIN』、美容・メイク系動画のさきがけである『佐々木あさひ』らが起用された。
大々的なキャンペーンに起用されたYouTuberらは今、“好きなことで、生きて”いけているのか。HIKAKINやはじめしゃちょーの活躍は記す必要がないレベルだろう。
HIKAKINは公開中の映画『コンフィデンスマンJP 英雄編』とコラボ。同作に出演する長澤まさみや生田絵梨花がHIKAKINの自宅を訪問するなどのコラボ動画に至った。もはや構図として、芸能界がYouTuberにすり寄っている形といえる。はじめしゃちょーは3億円の豪邸を建設。現在でも数少ない1000万人を超える登録者数を抱えている。
炎上、トラブル対処を間違えて
一方で……。
「『パズドラ』の実況動画で多くのファンを抱えたマックスむらいさんは、2016年に自身の会社が横領問題に巻き込まれました。むらいさんは横領の事実を認め、自身が主張した“暴力団関係者と思われる人物からの恐喝”は調査報告書にて認定されず。実際に横領に関わっいたのは同社役員であり、実刑判決も受けました。むらいさんは無関係とされましたが、影響は大きく、ファン離れにつながった。
さらにその後、同社製作・販売のスマホケースにデザイン盗用疑惑が発覚、結果的に謝罪しました。このような事態によって会社は株価は下落、YouTubeチャンネルも下降の一途をたどり、現在は登録者数が144万人いるのに対し、投稿動画の再生数は1〜2万回程度、数千回となることも少なくありません。
MEGWINさんは、体重計などで知られる大手メーカー『タニタ』の出資を受け、インターネット向け動画制作会社を立ち上げました。動画全盛の今の時代、ネット向けの動画制作事業を行う会社は星の数ほどありますが、その先駆者になりますね。しかし、代表を務める会社の社員が不当解雇やパワハラ問題を告発。MEGWINさんも反論しましたが、この件でみそがついたのか、現在の登録者数は100万人を割り、再生数もほとんどが1万回以下にまで落ち込んでいます。
YouTuberは黎明期とは比較にならないほど増加し、またジャンルも細分化しました。人気を維持するには様々な施策が求められます」
事実関係はどうあれ、やはり何らかのトラブルへの対処はYouTuberにとって必須のスキルといえる。
「もちろんトラブルや炎上を利用して登録者数や人気を獲得していく人もいます。しかし、ヒカルさんは2017年に、疑似株式サービス『VALU』でインサイダー取引を疑われた。その際、過去の取り引きにおける最高価格で、希望者全員からVALUを買い戻すという自社株買いを行い、逆に儲かった人が出てくるというような対応を取りました。もちろん疑惑の事実関係、対応の是非に異論がある人もいるとは思いますが、結果的に鎮静し、今に至り、現在でもトップとして活躍しています」
「競馬に行った」で炎上、謝罪
釣り動画をメインにする人気YouTuber『釣りよかでしょう』というグループがある。登録者は162万人。常に動画の再生回数は数十万回、大野智がファンを公言、堀江貴文や葉加瀬太郎らとコラボするなど、釣り系ではトップの人気を誇るYouTuberだ。
「2月12日に“初めて競馬に行き、15万円分買った”ということをツイート。それに対しギャンブルという点を指してなのか、“月に15万円稼げない人もいる事を忘れないでください”“富豪の掛けかた”“勝ってしまって沼にはまって人生が破綻してしまった人をみたことがあります”などの否定的、批判的な声が集まり、“否定的なコメントが多かったので消しました!ごめんなさい!”とツイートを削除しました。
何も悪いことをしていない、いわれのない批判であり、謝罪の必要もあるとは思えず、このような声に反応する必要もないことではありますが……。人気になると、それだけ“めんどくさい人”が集まってしまうという例と言えるでしょう。対応については何を是とし、何を否とするかは意見は分かれますが、YouTuberは柔軟な対応が求められる存在になりました」
今後、どれだけのYouTuberたちが、“好きなことで生きて”いけるのか?