木村拓哉、西島秀俊

《ここまで物語のスタート時点で腐っている人間は、これまで演じたキャラクターの中でもまれに見る存在》

 4月に放送されるテレビ朝日系ドラマ『未来への10カウント(仮)』で、木村拓哉が主演を務めることが明らかになった。『週刊女性PRIME』(1月14日配信)の既報通り、今作で演じる“職業”は高校ボクシング部を指導する元ボクサー。

 冒頭の木村のコメントでわかるように、大学時代にボクシングを断念して最愛の妻も亡くしているという主人公・桐沢祥吾に、

『いつ死んでもいい』と言ってはばからない桐沢が漂わせるヤバさの温度感や、そんな彼が周りにいてくれる人たちの存在の豊かさによって徐々に目に光を宿していく感覚を、どんなバランスで演じていくか…。台本にはない挿絵を想像しながら、今まさに探っている最中です

 かつてないキャラクターに、役作りにも慎重になっている様子がうかがえる。

「何やったってキムタク」を自覚

 数々のドラマや映画で主演を務めてきた木村。彼が演じてきた主人公といえばピアニストに美容師、検事にパイロット、レーサー、科学者、実業家に大学助教授、さらには総理大臣と、与えられた役割は圧倒的に“ヒーロー”だ。

「20代〜30代にかけて、誰もが知る国民的スター“キムタク”として高視聴率を連発、興行収入を叩き出したのは過去の話。40代になって“若さ”という武器を失いつつある木村さんにとって、俳優として生き残れるか、今後も数字を取れる存在であるかの岐路に立っているのではないでしょうか。

 フジテレビ系の特別ドラマとして放送された『教場』(2020年、2021年)で、警察学校の鬼教官という“ダークヒーロー”がハマったように彼自身も試行錯誤を繰り返しているように思えます」(テレビ誌記者)

 そんな危機感を自覚しているのだろう。2019年1月2日放送の『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)では、「俳優をやめたい」と悩む勝地涼に親身になって相談に乗る木村の姿が映し出された。そこで彼がこぼしたのが、

《自分だって言われる。“何やったってキムタク”だって。しょうがないよね。(観ている)人がそう言うんだから。でも、それはそれだし》

 これまで様々な職業を演じながらも、常について回ったのが「何を演じてもキムタク」という寸評。彼もまたそれを承知していて、順風満帆な芸能生活を送っているように見える裏では葛藤を抱き、もがいてきたのかもしれない。

 それでも勝地から《やめようと思ったことは?》と問われると、《ない》と即答していた木村。進んできた道は間違ってはいない、そんな自信の表れと、これからも俳優として邁進する決意表明だったのだろう。

木村のノミネートは間違いない

 そして今年の11月に50歳を迎える木村。本格的な連ドラデビューを果たした『その時、ハートは盗まれた』(フジテレビ系・1992年)からも30年がたった、そんな節目の年だけに“あの称号”は手にしたかったのではないか。

「俳優にとって名誉の証である最優秀主演男優賞ですね」とはスポーツ紙芸能デスク。ドラマだけでなく映画でも幾多の大ヒット作で主演を務めた木村だが、日本最高峰の映画賞とされる『日本アカデミー賞』とは縁がない。『武士の一分』(2006年)で優秀主演男優賞に選ばれながらも辞退して以降は、候補にノミネートすらされない現状がある。

“賞レースに参加しない”というジャニーズの“壁”がありましたが、それを壊したのが初参加にして『永遠の0』で最優秀主演男優賞、『蜩ノ記』で最優秀助演男優賞を獲得した岡田准一。すると二宮和也も続いて最優秀主演男優賞に輝き、アカデミー賞は“解禁”されたのです。

 そして2021年公開の『マスカレード・ナイト』が興行収入37億円超えの大ヒットを記録したことで、“木村拓哉のノミネートは間違いない”というのが大方の見方でした」(同・芸能デスク)

 というのも昨年12月の『第46回報知映画賞』で主演男優賞を受賞して、《賞に慣れていないので、どうしていいかわからない部分があるんですが》と、照れながら喜びの声を上げていた木村。これが“前哨戦”になると思われた。

2021年9月、映画『マスカレード・ナイト』初日舞台挨拶

 ところが、2022年1月に発表された『第45回日本アカデミー賞』の各優秀賞。木村は優秀主演男優賞の5名に入るどころか、選考対象作品にはなっていた『マスカレード・ナイト』は作品賞や監督賞、脚本賞などの各賞にかすりもしなかったのだ。

 この事態に2月9日、『文春オンライン』は【知られざる2つの理由】と題した記事を配信して、木村が“落選した”とする裏事情を報じている。

 記事によると、アカデミー賞事務局が木村の優秀主演男優賞の獲得を打診したところ、ジャニーズ事務所は《最優秀賞が取れるならば受ける》と返答したとある。事務局がこれに“確約できない”旨を伝えると、ジャニーズは“オファー”を断った、というものだ。

草なぎとの“共演”を避けた

 そしてもう1つの理由とするのが、元SMAPメンバー・草なぎ剛との“共演”。前回の最優秀主演男優賞者の草なぎはプレゼンターとして出席予定なのだが、元SMAPの2人が立ち会うのを避けたというのだ。取材に対して事務局は《この度の優秀主演男優賞におきまして木村拓哉様の選出はありませんでした》とだけ答えている。

 この経緯が事実とすれば、1度は“優秀主演男優賞にふさわしい演技”とみなされながらも、またもや参加を辞退したということ。そして主演男優不在の作品が、作品賞を受賞しては不自然に映ることから、『マスカレード・ナイト』も併せて“辞退”したということだろうか。

必ずしも興行収入云々というものではありません」とは、長年にわたってアカデミー賞を取材する映画ライターのよしひろまさみち氏。

一般的に“当たった”という映画が選ばれる保証はどこにもなく、4000人弱(3952名)いる日本アカデミー賞協会会員がふさわしいと思える作品をいくつか選び、投票する形になっています。中には大ヒット作と言われる作品も優秀作品賞に入ることはありますが、それが1位(最優秀賞)に選ばれるかどうかは別のこと」

 この「日本アカデミー賞協会」とは、映画プロデューサーや監督、脚本家などの映画製作に携わる関係者、そして実行委員会の推薦を受けた俳優や映画配給会社社員などからなる組織で、その会員による投票でまずは優秀賞が決定する。

「例えば、優秀作品賞の発表で初めて目にする、耳にする作品もあるかもしれませんし、映画ファンや一般のお客さんの意見とは食い違う部分もあると思います。それは映画作りに関わる“内側の人”が選ぶのが『日本アカデミー賞』であって、だからこそ映画界における権威ある賞とされているのです。まずは、その区別をつける必要がありますね」(よしひろ氏)

 毎年のように運営メンバーが変わるような、また記者投票などで決まる他の映画賞とは違い、“映画人”によって選出されるのが日本アカデミー賞。興行収入成績に左右されず、万人が好むようなミーハー作ではなく“骨太”な映画が好まれる傾向があるようだ。

西島秀俊を多く推す声

 そう考えると、木村の“辞退説”に疑問が生じる部分もある。実際にアカデミー賞に携わる映画配給会社関係者は「木村さんが辞退した事実があるのかどうかはわかりかねますが」と前置きしつつ、

『あすなろ白書』(フジ系・1993年)、木村拓哉と西島秀俊の好演も話題に

「言えることは、私の周囲では作品賞、主演男優賞とともに『ドライブ・マイ・カー』、そして主演を務めた西島秀俊さんを推す声が多く聞こえたということ。最優秀賞を決定する2次投票はまだ行われていませんが、本場の『アカデミー賞』でノミネートされたことは確実に追い風になるでしょう。

 興行収入だけを見ればインパクトはありませんが、ストーリーやキャストも含めていかにも映画人が選びたがる作品ですね」

 西島秀俊の主演映画『ドライブ・マイ・カー』が公開されたのは2021年8月。当初こそ『マスカレード・ナイト』の10分の1にも満たない興行収入だったが、3月27日(現地時間)に開催されるアメリカの『第94回アカデミー賞』に4部門でノミネートされると、これまでの上映館数を倍に拡大。動員数を大幅に伸ばしている。

「たしかに数字が示す通りに『マスカレード・ナイト』は娯楽映画として優れた作品ですが、日本アカデミー賞に届く内容とまでは言えない部分があります。それは映画に精通する木村さん自身がよくわかっているのではないでしょうか。つまり落選した理由は非常にシンプルで、“映画人に評価されなかった”ということ」(前出・映画配給会社関係者)

 1993年のフジテレビ系“月9”ドラマ『あすなろ白書』で共演した木村と西島秀俊。約30年経った今、ともに一線で活躍する俳優に成長した2人が、再びステージで顔を合わせれば話題性は抜群だったが、共演は叶わなかった。

木村が目指す俳優像に変化が

 では、もう1人の話題の人、草なぎとの“共演拒否”説はというとーー、

「それはないですよ(苦笑)。そもそも前年の最優秀受賞者が、そのまま主演男優賞のプレゼンターになるわけではなく、新人賞など他の賞を担当することが通常。よって仮に木村さんが参加したとしても授賞式で一緒に登壇することはありません。でも、(日本アカデミー賞を中継する)日本テレビさんが交互に(カメラで)抜く可能性はあったかも(笑)」(前出・映画配給会社関係者)

『第45回日本アカデミー賞』授賞式が開催されるのは3月11日、その頃には新ドラマの撮影に臨んでいる木村。常にスポットライトを浴びてきた彼にとって、レッドカーペットを歩けないのは残念な思いであろう。が、彼の中では俳優としての、前向きな心境の変化が起き始めているようだ。

『HERO』シリーズ、『CHANGE』(ともにフジテレビ系)に続いて『未来への10カウント(仮)』脚本を務める福田靖氏は、木村とディスカッションを重ねた上で《驚いたのは、今までは木村さんが“太陽”で、周りの登場人物たちは“月”だったのに、今回は木村さん自ら“月”になりたいと思ってらっしゃっていたこと》とコメント。彼が今作に求める人物像に、これまでのヒーローとは確かな違いを感じたようだ。
 
「学園スポーツドラマということもあって、将来が楽しみな若手俳優らが多くキャスティングされていると聞きます。『教場』でもそうだったように、木村さんが“月”となって、“太陽”のように昇っていく若者たちを輝かせるような演技がしたいということでしょう。

 名だたる名優がそうであるように、本当にいい俳優というのは主役はもちろん、脇にまわっても存在感を示すもの。数々のドラマや映画で多くの先輩たちと演技を重ねてきた木村さんだからこそ、自分がその年に近づいて行き着いた境地ではないでしょうか」(テレビ局ドラマスタッフ)

 木村が見る未来は主演男優ではなく、助演男優なのかもしれない。