「多目的トイレを必要としている方々、大変な不便もおかけしましたし、本当に不快な思いもさせてしまったと思います。本当に申し訳ございませんでした」
そう言って頭頂部をカメラに向けたアンジャッシュ渡部建。
2020年6月に“多目的トイレ不倫”が報じられて、芸能活動を自粛してから約1年8か月。復帰の舞台に選んだのは、ローカル局のレギュラー番組。2004年からメイン司会を務める千葉テレビの『白黒アンジャッシュ』という30分間番組だ。2月15日、夜10時から放送の“復帰回”は、事前に収録されたVTRだが、スタジオに張り詰めた緊張感は画面を通してヒシヒシと伝わってきた。
児嶋「アイツの行ったことにより、多くの方に不快な思いをさせ、ご迷惑をおかけして、本当にスミマセンでした」
冒頭、番組ロゴをバックにしたセットのスタジオに、まずは児嶋一哉が1人で立つ。ナレーションやBGMはない。眉間にしわを寄せ、神妙な面持ちの児嶋。「今から、えーっと、……渡部、呼びます……」。一瞬、相方の名前を口にすることに、ためらいすら見せる。濃いグレースーツと同色のネクタイに、白ワイシャツ。胸元のピンマイクが目立つのは、自前のフォーマルを選んだせいだろう。視点が定まらず、落ち着かない。
児嶋「どういう回になるかわからないんですが、アイツからも挨拶があると思うので、呼びたいと思います。今日、俺は事前に会っていないので、予定調和でフォローしたりとか、いっさいないんですが、復帰するということの報告とお願いを、今から喋りたいと思いますので、呼びますね。ハイ、どうぞ」
渡部「よろしくお願いします。まずは、僕がしてしまった本当にバカげたことで、大変ご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます。本当にすみませんでした」
「お前は調子乗ってた」
渡部も同じく、濃紺のスーツと同色のネクタイ、そして白ワイシャツで登場。やはり、やけにピンマイクが目立つ。画面の右上にはテロップとして《アンジャッシュ渡部 活動再開》の文字が入る。
「(児島の方を向いて)何て言っていいか、ずっと考えていたんだけど、謝っても謝りきれない。どれだけ迷惑をかけたか、俺の想像もはかりしれない。いろんな人に頭も下げさせてしまって、いろんな人からのいろいろ言われることもあっただろうし。本当に申し訳ないなと、心より反省しています。ごめんなさい」
渡部は一度、復帰を失敗した経緯がある。自粛から半年後の2020年12月3日、1人で記者会見を開いた。当時はそこで“禊”をサッサと済ませて、年末特番で復帰を目論んでいるとも報じられていた。芸能レポーターらは、ここぞとばかりに渡部を取り囲み、烈火のごとく質問と非難を浴びせた。渡部は謝罪の言葉を繰り返したが、大粒の汗をかくばかりで、歯切れの悪い印象だけが残った。結果、復帰は遠のいた。
児島「まあ、俺に対しては全然いいんだけど。お前は調子乗ってた。人を雑に扱うようなことが、女性にあんな扱いをしたりとか。俺も言えなかった。偉そうにしてんなコイツ、態度デカイな、なんでそんなこと言うんだろうって、相方として注意できなかった。俺のほうが立場弱くて言えなかった。俺も責任を感じている。これからは気づいたら言う。“調子に乗んなよ”って。そういう話は2人では散々してるけど……」
同じ轍を踏まないためにも、今回は相方と2人で頭を下げた。
児島「何であんなことしちゃったんだろうね。聞いても、わかんないかもしれないけど。これからやっていこうって、奥さんは応援してんの?」
渡部が謹慎する一方で、2017年に渡部と結婚した佐々木希は活躍の場を広げた。渡部を見限ることなく、妻として至らなかったという反省のコメントまで出し、株も上げた。モデルだけでなく、ドラマや舞台やバラエティー番組にも呼ばれたら出演。そんな妻に代わり、渡部は毎朝、車で子どもを保育園に送迎した。
後半では笑いが起こる場面も
渡部「俺のせいで、奥さんが働きに出なきゃいけなくなったから、俺が育児と家事を全般的にやっていた。子どもを保育園に送って、迎えに行って、その後ずっと子どもと一緒という感じ」
謹慎中の渡部は、子どもを預けた後、すぐに車を走らせる必要もなかった。駐車場で念入りに車内の掃除を済ませて、近くにあるスタバ併設の書店に入る。再び人生における成功へのチャンスを探すように、ビジネス本を熟読するのが日課になっていた。
児嶋「ぶっちゃけると、一番はお前とかアンジャッシュのためというより、お前の家族のためって俺は思っている。奥さんとか、お子さんとか、親。そのために、もう一度アンジャッシュをやらせていただけたらなっていう思いが強い。お前のためっていうか、お前の家族のためっていのが正直、いちばん」
そう言われた渡部は委縮するしかない。
児嶋「俺もすごく考えた。また2人でやるってなったとき、めちゃくちゃイジろうかとか。芸人だからさ。でも違う。そんな軽い問題じゃない。色んな人に相談して。やっていけるかなって。思ったんだけど、お前ちょっと硬すぎない? 俺に対して。メッセージでも“ご無沙汰しております”とか“ご自愛申し上げます”とかさ。丁寧にしなきゃっていうのが行きすぎちゃって、オカシくなっちゃってんだよ! すげえ敬語だし。でも “どーもー”とか“ウィーッス”ってのは腹立つけど。やりすぎなんだよ。2人で会っても俺のこと全然、見ないし」
次第に渡部のモノマネを入れ始めた児嶋。
「なんかもう笑っちゃうけどな。丁寧すぎて。でも、そうだよ。お前がダメなんだ。全部、お前のせいなんだから! これだけ迷惑かけたんだから! だから、それぐらいでいいのかな?」
ここら辺から、スタッフの笑い声も聞こえてくる。
児嶋「俺に対して“ありがとうございます”ってなんだ? ありがとうで、よくない?」
渡部「ありがとう」
児島「今日は、こうかもしれないけど、次からはムズイよ。どの程度やればいいのかわかんないよ」
“公開”ダメ出しで反省しきりに渡部に対し、ツッコミを入れて、思わず自分で笑ってしまう場面もあった児嶋。
児嶋「重い感じになったけど、いろんな思いを伝えられる場を作っていただいて本当にありがとうございます。これから順調にいけば『白黒アンジャッシュ』も、あと2年ぐらいで20年目になるので、それを目指して頑張っていけたらなと思います。言い残したことは?」
渡部「大丈夫です」
児嶋「次回からは通常バージョンで、ゲストを呼んで、われわれアンジャッシュでMCをやらせていただくということで、これからもよろしくお願いします!」
こうして、30分間の番組は終了。この回を収録した後、児嶋は自身のYouTubeで次のように語った。
「先ほど収録を終えたんですが、どういう回になるのか自信がない。もう1回、踏み出そうよという思いで『白黒アンジャッシュ』をやらせてもらいます、という報告です。いろいろなご意見があると思いますが、ご覧になっていただければいいと思います」
コンビの解散、妻と離婚、芸能界を引退――。すべてを回避して、最悪なスキャンダルと自粛期間を乗り切った渡部。売れっ子芸人が見た天国と地獄。再び芸能界に戻ることを選んだ渡部の未来に待つのは――。