佐々木蔵之介 撮影/佐藤靖彦

「“ザ・老害”のようなオヤジですよね、言ってみたら(笑)。僕が演じる英国王ヘンリー二世は、50歳すぎ。老いさらばえればいいのにまだまだ調子に乗ってるおっさんで、すっごい迷惑なんですよね(笑)」

 佐々木蔵之介の主演舞台『冬のライオン』が、2月26日より幕が上がる。

 何度かタッグを組んできた演出家・森新太郎から本作の提案をされたときには、

「また疲れることを言ってこられたな、と(笑)」

膨大なセリフ量に「やるしかない」

 1183年のクリスマス。ヘンリー二世はシノン城に妻、3人の息子、愛妾らを一堂に集める。王位、築き上げた広大な領地、そして愛妾を息子の誰に託すのか? 愛情、策略、裏切り……強烈なるロイヤルファミリー・バトルが繰り広げられる。

「みんなが欲望むき出しで、容赦ない言葉で戦い合うんですけど、それが激しすぎて逆に笑えますね。ヘンリーも固執しすぎているところが、ある意味チャーミング。そんなふうに作れたらと思っています。ただ稽古初日の翌朝、絶望しましたけどね。目覚めると声が枯れていて。これが続くのか……と(笑)」

 翻訳作とあって言い回しは独特、かつセリフ量は膨大だ。

「とにかくやるしかない。ドラマなどの映像作品は、もらってすぐ(セリフを)返すんですが、舞台は稽古が1か月あるので。セリフを覚える、というより“落ちてくる”ようになるのを待つ。身体になじませていく感じです」

 ヘンリーと似ているところ・似ていないところを尋ねてみると、

「僕は領土も軍隊も持ってないです(笑)。そうですね、僕はこんなしんどい思いはしたくないなぁ。渡せるものはスーッと渡したい。しかもクリスマスに、わざわざこんな疲れることをやらなくても(笑)。もっと気楽に酒でも飲もうよ、と思うわけですが。

 でも僕自身、わざわざこんなしんどい舞台をやると言った時点で、ヘンリーと似たところはあるのかも(笑)」

舞台だからこそ見られる世界がある

佐々木蔵之介 撮影/佐藤靖彦

 ジャンルを問わない高い演技力で、ドラマに映画に引っ張りだこ。しかし、どんなに多忙でも年1回は“自らのルーツ”と語る舞台に立つ。そのこだわりを聞くと、

「この舞台を越えたら、何かがある。そう思いながら、いつも立ち向かっている感じですね。舞台は1か月稽古して、ずっと向き合う。最後までOKが出ないまま終わるわけですが、それをやっている時間が大切なんだと思います」

 ひざや筋肉を痛めるなど、舞台をやっても健康になることはまずない、と冗談をはさみつつ、

「でも、やるんですね。そうしないと得られない何かがある。

 それは本番前の感覚、劇場での感覚、カーテンコールが終わったときの感覚、客席から思いもよらない場面でやって来る笑い……。日常生活では感じられないことだし、それをお客様と一緒に共有できる。一方的に投げるのではなく、お互いが信じ合い、感じ合う。“怖っ”と思う舞台だからこそ、見られる世界があると思うんです」

 2月4日に54歳を迎えたばかり。新たにした思いは?

「この年になると自分が今、何歳なのか、よくわからなくて(笑)。そうだなぁ。今、稽古場で高畑(淳子)さんとご一緒してますが、いつでも元気で、パワフル。僕がその年齢になったとき、同じようにできるかなとは思います。そうありたいですけどね。挑戦はするけど、無理はしない。諦めはするけど、緩まないように。そんなふうにやっていきたいです」

【column】
癒しの時間は?

「お風呂ですね。帰宅後は、明日に備えてなるべく早く就寝するんですが、僕はわりと早起きして朝、お風呂に入りますね。そこに台本などを持ち込んで。浴室の電気はつけず、洗面所の明かりだけ。けっこう暗めなんですが、この時間だけは絶対に移動できないし、ほかに考えることもなくなるから。癒しの時間であると同時に、集中の時間でもあります。子どものころから、試験勉強なんかもこのスタイルでやってきましたね」

『冬のライオン』2/26(土)〜3月15日(火)東京芸術劇場プレイハウス

『冬のライオン』
2/26(土)〜3月15日(火)
東京芸術劇場 プレイハウス

出演/佐々木蔵之介、葵わかな、加藤和樹、水田航生、永島敬三、浅利陽介、高畑淳子
【問】東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296(休館日を除く10時〜19時)