コロナ禍にあって家庭用冷凍食品の売り上げがかつてなく伸びている。冷凍技術は年々向上しているものの、その安全性はどうなのか。食品問題の専門家、管理栄養士―2人の専門家に“冷凍食品のいま”を聞いた!
需要増える冷凍野菜の安全性
長引くコロナ禍で、冷凍食品の需要が伸びている。一般社団法人日本冷凍食品協会によると、1981年の調査開始以来、初めて家庭用冷凍食品の売り上げが業務用を上回ったという。また自宅での冷凍食品の利用頻度が「1年前より増えた」と答えた人は3割近く増加した。
かさばる食品を保存するための2台目冷凍庫にも“サブ冷凍庫”“セカンド冷凍庫”といった呼び名が定着。街中でラーメンや餃子といった冷凍食品の自販機を見かけることも多くなってきた。
外食の自粛が叫ばれる現在、家庭で冷凍食品を利用する機会は、いまだかつてないほどに増えている。
簡単、便利。そこで気になるのは安全性だ。
2002年、中国産冷凍ほうれん草から高濃度の農薬・クロルピリホスが検出された。それが残留基準値の180倍だったことから、一気に社会問題となった。2005年、中国産冷凍ウナギのモニタリングで合成抗菌剤・マラカイトグリーンを検出。
2007年には、中国製冷凍餃子を食べた人が嘔吐する事件が相次いで起こり、調査の結果、高濃度の農薬・メタミドホスが混入していたことが判明。日本列島が「毒餃子」の恐怖に震えた。また、2008年にも、中国産冷凍インゲンから基準値の3万4500倍というありえない数字の農薬・ジクロルボスが検出。これらのケースによって、中国産冷凍食品のイメージは「毒」一色に塗りつぶされた。
最近では、どうなのか。
「2010年ごろ、確かに中国産野菜には農薬の問題がありました」
と、語るのは食品問題と添加物の研究者・小薮浩二郎さんだ。
「しかし最近では中国産の冷凍野菜は日本の技術によってかなり厳格に農薬管理がなされ、輸入時に検査されている。中国産野菜と国産野菜とでは、農薬の違反率にほとんど差はありません。どちらかというと国産のほうが問題ですね」(小薮さん、以下同)
なぜか。農家は生産した野菜を農協に集めて出荷するのだが、農家ごとの農薬検査はされていないからだ。
「そんなことしていたら、検査費用で農家は潰れます。結果、収穫した野菜のほとんどは検査なしで流通している。その点、中国産は日本企業が現地で大量生産していて、農薬の管理や検査がきちんとしている。冷凍野菜は大手が契約栽培しているから“国産より安全”といえるのです」
冷凍食品のメリット、デメリット
冷凍野菜で懸念されるもう1つの問題が栄養価。生野菜と比べてどうなのか?
「冷凍すれば栄養価は多少なりとも変化します」
と、教えてくれたのは管理栄養士で料理家の柴田真希さん。例えば野菜は、下ゆで処理の後に冷凍している。ゆでることによって、水溶性の栄養素は当然、流れ出す。ほうれん草のビタミンCやビタミンB1、B2などがこれにあたる。カリウムも水に流れ出やすい成分だ。
「ただ、ポジティブな面に目を向ければ、旬の冬に収穫したほうれん草は、夏に収穫したものに比べてビタミンC含有量が3倍あります。冷凍野菜は、旬に収穫することが多いので、加工による栄養素の減少よりもメリットを感じます」(柴田さん、以下同)
また、価格が安定しているのも魅力。
「野菜は天候や収穫量によって価格が変動しますが、冷凍野菜は大量に収穫できる時期に加工するので、生野菜に比べて価格が安定しています」
ほかのメリットも。
「業務用の玉ねぎスライスなどは、冷凍すると食物繊維(組織)が破壊され、煮込み時間が少なくてすむし、油で炒めなくても使えます。電気代が節約でき、油の使用も減って健康によい」
“食物繊維が破壊される”と聞くとイメージがよくないが、食感が変わってやわらかくなるだけのこと。食物繊維の量そのものが減少するわけではない。
「冷凍食品についてはメリット、デメリット両方を考えるべきです」
小薮さんも同じ意見だ。
「野菜を冷凍の前にゆでるのは細菌性食中毒の予防になり、農薬の濃度が下がるので一概に悪いとはいえない。冷凍で栄養が低下するのは、解凍時にドリップが出て水溶性ビタミン、ミネラルが失われるから。
しかし、少し前からプロトン凍結(温度の低下だけで凍らせる従来の冷凍に対し、磁石の力と強力冷風を組み合わせて食材を凍結する技術)が行われるようになった。これだとドリップは出ない。つまり栄養低下もないのです」(小薮さん、以下同)
ドリップとは、肉や魚を解凍するときに出る赤い汁のこと。肉や魚をゆっくり凍らせると、細胞が氷の結晶で破壊される。そのため、解凍時に壊れた細胞から組織液(うまみ成分)が流れ出るのだ。このドリップはカンピロバクターやその他の細菌性食中毒の原因にもなる。
「サバやアジを生で食べると、アニサキスで食中毒になることがありますが、冷凍するとアニサキスは死滅します。ですから青魚は冷凍のほうがいいぐらいです。ただし、アニサキスが死滅するのはマイナス20度以下、24時間以上の冷凍によってです。マイナス18度に設定されていることが多い家庭用の冷凍庫では死滅しないので注意してください」
“冷凍だから安全”の考えは危険
東京都福祉保健局によれば、アニサキスによる消化器疾患の発生事例は、年間500~1000例。生の魚を購入するより市販の冷凍サバを利用すればリスクが回避できそうだ。
「10年ほど前、冷凍食品の開発をしていたとき、さまざまな冷凍技術に触れましたが、その中にCAS凍結というものがありました。CAS凍結とは、セルアライブシステム凍結の略。ずっと小刻みに食品を揺らしながら凍らせる方法です。
“生の魚をCAS凍結すると、解凍したら生き返る”と言われるほど、鮮度を保つシステムです。冷凍の技術は日々向上しているので、冷凍食品について古い固定観念を持ち続けるのは危険ですし、もったいないと思います」(柴田さん)
冷凍食品の人気商品といえば、チャーハン、餃子、コロッケ。それぞれの商品の安全性はどうだろうか。商品を手に取って裏側の原材料表示を見ると、ずらずらと添加物が並ぶ。
しかし、「冷凍食品の利用状況実態調査結果」(一般社団法人日本冷凍食品協会調べ)によれば、“冷凍食品を購入するとき、パッケージの表示を見ているか”という質問に対して、裏面の「添加物」を「必ず見る」人は、男女ともに10人に1人程度と注目度が低い。
「“冷凍だから安全”と考えている消費者も多いのではないでしょうか」
と言うのは小薮さん。
「冷凍食品には保存料は不要ですが、添加物は使われています。“便利、安全、清潔”と思われがちな冷凍食品。その裏に隠されている危険性を考えてほしい。つまり、おいしそうなパッケージの表側に騙されず、しっかり裏面を読んでほしいのです」(小薮さん、以下同)
例えば餃子で気になるのは、乳化剤と加工デンプンだ。
「乳化剤には天然と合成があり、天然の乳化剤は“乳化剤(大豆由来)”などと表記されていることもあります。大豆や卵黄に含まれるレシチンには乳化作用があります」
マヨネーズでいうならば、酢と油を卵黄で乳化させたものがマヨネーズだ。だが合成乳化剤には使用基準がなく、あらゆる食品に添加できる。
「添加量の規制もなく、さまざまな乳化剤を混ぜて使用している場合がほとんど。合成乳化剤には化学的に異なる何種類もの物質がありますが、どの乳化剤をどれだけ混ぜたかは表示されていない。
法令上、乳化剤の含有量の規制はなく、例えば添加物メーカーの工場で製造された乳化剤、グリセリン脂肪酸エステルの30%が不純物であっても消費者にはわからない」
“冷凍庫に入れれば永遠”の考えはアウト
また加工デンプンは、デンプンに化学薬品を加えて製造した合成添加物。餃子以外にも麺やお菓子など、いろいろなものに使われている。
「このうちのヒドロキシデンプンは冷凍耐性に優れているため冷凍食品によく使われていますが、原料のひとつ酸化プロピレンに発がん性が認められており、欧州では乳幼児向けの食品への使用を禁止しています」
デンプンと言われれば安全なもののように聞こえてしまうのがおそろしい。
「チャーハンに使われているタンパク加水分解物も問題。タンパク加水分解物は、アミノ酸を主成分とした、加工食品にうまみやコクをつける化学調味料です。法律上では、原料が動植物のタンパク質のため、食品添加物ではなく食品として分類されている」
しかし、実際のところ、タンパク加水分解物のタンパクとは、何の肉をさしているのか不明なのだそう。
「クズ肉に塩酸をかけて作ったようなタンパク加水分解物が食品に分類されるとはおかしいでしょう。加水分解時には、MCP、DCPなどの発がん性を示す物質も生成されます」
子どもから大人まで大好きな「冷凍焼きおにぎり」などに使用されているカラメル色素も注意が必要な添加物だ。
「カラメルというとプリンにかかったおいしそうなソースのイメージ。でも、あの茶色は不気味なカラメル色素の色なんです。カラメル色素は“化学合成された合成着色料”です。合成カラメル色素はありとあらゆる加工食品に使われています。
食品に使われている着色料でいちばん多いのが、このカラメル色素。カラメル色素の4つの製法のうち、2つにはアンモニウム化合物が用いられ、製造時に発がん性が疑われているイミダゾール化合物が生成されることがあります」
表示はしっかりとチェックすることが大事だ。弁当のおかずとして人気の揚げ物も注意が必要。
「コロッケやから揚げなど、冷凍食品のフライの油も、実は酸化が進みます。冷凍食品の賞味期限は酸化を想定しているので、正確に期限を守るのが大事です」
と、柴田さんも警鐘を鳴らす。“冷凍庫に入れれば永遠”などと思いがちだが、もちろんアウトだ。
「保存期間について過信している消費者の方は多いです。冷凍食品の袋の裏に書かれている解凍方法をしっかり守ってください。アイスには賞味期限の記載がありませんが、冷凍食品には賞味期限があります」(柴田さん、以下同)
ふだん意識しないが、パッケージは裏面までしっかりチェックしよう。
「その賞味期限も、家庭用冷凍庫の平均温度マイナス18度で保存されていることを前提に設定されているのです。でも、家庭の冷凍庫は開け閉めがしょっちゅうあるのでマイナス18度のキープは難しい。
冷凍食品だからと保存期間を過信しないで、2~3か月をめどに使い切る。自分で冷凍した食品ならば1か月。冷凍食品でもゆっくりと劣化は進むことを念頭に置いておきましょう」
●業務スーパー人気冷凍食材ランキング
1位 冷凍うどん5食
2位 ブラジル産鶏肉2Kg
3位 冷凍ほうれん草500g
4位 フライドポテト1Kg
5位 揚げなす乱切り500g
※昨年の取材より。加工食品より添加物が少なく安心な冷凍素材が人気!
●この冷食はこの添加物に注意!
・餃子→乳化剤、加工デンプン
・チャーハン→タンパク、加水分解物
・コロッケ→酸化注意
・焼きおにぎり→カラメル色素
●冷凍食品のトリセツ
・パッケージは裏面までチェック!
・危険な添加物の入っていないものをセレクト!
・冷凍庫の開け閉めはなるべく減らす!
・賞味期限を過信せず2~3か月で食べ切る!
フランスのレイショク事情
海外の冷凍食品事情はどうなっているのだろうか。24~49歳の女性の就業率が80%を超え、共働き世帯がほとんどであるフランスの冷食事情を見てみたい。2016年、日本にも1号店が開店したフランスの冷凍食品専門スーパー『ピカール』は、冷凍野菜やクロワッサン、メインディッシュからデザートまでそろうとして、働く女性に人気だ。
日本では通常の冷凍食品よりやや高額に設定されているが、現地では“普段使い”の冷凍食品だ。日本の店舗でも人気のパスタやラザニアなどの表示を小薮さんにチェックしてもらった。
「原材料表示のスラッシュに注意してください。食品表示法では、原材料と添加物を分けて記載し、スラッシュ(/)の後に添加物を記載することになっていますが、悪いものはほぼ何も入っていないようです」(小薮さん)
パエリアに香料が使われているものの、たしかにパスタやラザニア、スープなどには添加物の記載がない。
「なかなか立派だと思います。フランスは、食品の安全基準について厳格なところがあり、日本のカツオ節でさえ“燻す過程で発がん性物質が生成されるから”と輸入を長らく認めていなかったほど。日本ではマーガリンなどに使われているトランス脂肪酸も、フランスでは、食品中のトランス脂肪酸濃度の上限値を設定して規制しています」(小薮さん)
冷凍食品を使う“罪悪感”
日本人の2倍近く冷凍食品を利用しているというデータもあるフランス。“平日はほとんど冷凍ディナーをレンチン。料理をするのは日曜日だけ”という家庭も多いといわれる。
一方、日本における冷凍食品の立ち位置はだいぶ肩身が狭い。料理写真専用の投稿アプリ『SnapDish』を運営するヴァズ株式会社の“冷凍食品を使うことに罪悪感を感じるか”という調査で、「罪悪感を感じない」と回答したのはわずか18%にとどまっている。8割の人はなんらかの罪悪感を感じているという結果なのだろう。
「日本人の頭のどこかには“料理をしなければいけない”という先入観があるのではないでしょうか。料理に時間を取られて、ご主人やお子さんにイライラして当たるぐらいなら、冷凍食品を利用して家族仲よく食事したほうがずっといいと思いますよ」(柴田さん)
買う側が原材料表示を見る目を養い、保存方法に気をつければ冷凍食品は怖いものではない。不信感と罪悪感をとっぱらい、上手に冷凍食品と付き合っていこう!
●宅飲みメニューをピカールで購入!
《本日のメニュー》
・4種類のミニパイ 680円
・エスカルゴのブルゴーニュ風 980円
・牛肉のパルマンティエ 780円
・クロワッサン 680円
・バナナとシャンティのタルト 680円
計3800円
(3〜4人分程度)
柴田真希さん……1981年、東京生まれ。女子栄養大学短期大学部卒業。管理栄養士。給食管理、栄養カウンセリング、食品の企画・開発・営業などの業務に携わり、独立。(株)エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。『切るだけ&漬けるだけ! おうちで簡単ミールキット』(学研プラス)、『知識ゼロからのスーパーフード入門』(幻冬舎)など著書多数。
《取材・文/ガンガーラ田津美》