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「薬が薬を呼び、患者は薬の雪だるま状態になっている」と語るのは伊東エミナ医師。医者は薬を出し続け、その薬を疑わない患者ーーそんな日本の医療現場に疑問を投げかけている。だが、毎日飲み続けることで実は高まっている「クスリのリスク」。医療を受けるひとりひとりが知っておくべき医療の“からくり”を紹介する。

 年を重ねるごとに病院に足を運ぶ機会は増えていくもの。比例して多くなっていくのが薬の量だ。医療機関で処方される薬と年齢の関係を示した厚生労働省のデータがある。1か月に調剤薬局を通じて受け取る薬の種類が40代以降は増える傾向にあり、65歳以上の約15%が5~6種類、75歳以上の約25%が7種類以上の薬を服用している。

『年代別・薬の使用種類数』令和2年6月審査分・厚生労働省HPより/単位:%

 このような薬との“深い”付き合いに警鐘を鳴らすのが、エミーナジョイクリニック銀座の院長、伊東エミナ先生。

「薬の処方はあくまで対症療法です。すなわち症状を緩和するための治療法で、病気を根本から治すものではありません。薬の服用が副作用を伴うのはみなさんご存じだと思います。

 副作用によって症状が悪化したら、そこで新たな薬が出される。高血圧などの慢性疾患やうつ病などの場合は、病気の症状と副作用の区別がつかず、新たな薬の処方につながることも。

 
薬が次の薬を呼ぶ負のスパイラルにより、雪だるま式に増えていくのです」

薬をくれる医者は良い医者という誤認識

 薬では病気は治らない。副作用も怖いし、薬を増やす弊害もある。にもかかわらず、薬が大量に処方され続けているのはなぜなのか。伊東先生は、国民皆保険制度のマイナス面を要因として挙げる。

「公的な医療保険の加入により、国民の誰もが保険医療を受けられる国民皆保険は優れた制度です。その恩恵はお医者さん側も受けています。診察し、薬を出すことで安定収入を得られるのは同制度のおかげだからです。

 
患者さんからすれば、『医者は薬を出すもの』と認識し、『保険の適用で安くすむ』と安心しますよね。こうしてできあがるのは、薬を媒介にしてお医者さんと患者さんの間で信頼関係が成り立つ構図です。薬を出すお医者さんがよいお医者さんとは限らないのに、そう錯覚する人も出てくるでしょう」(伊東先生、以下同)

 薬を出してもらわないと安心しない。薬を出さない医者はおかしい─。そんな意識が芽生えていないだろうか。

「風邪やインフルエンザの患者さんに、抗生物質を処方するお医者さんがいまだにたくさんいます。抗生物質はウイルスによる風邪やインフルエンザの感染には効果がありません。むしろ不要なときに抗生物質を飲むと腸の中の善玉菌まで殺し、悪玉菌を優位にして免疫力を下げることになります」

薬を増やす悪因は医者への過度な信頼感

 かといって、患者のほうから薬を拒否するのは容易ではない。医者と患者は上下の関係になりがちだからで、言われるがまま薬を飲んでいる人は多いだろう。だが、権威ある立場の医者に対する信頼感がゆらぐ話もある。

「健康診断の基準値の変遷は、医療業界と製薬会社とのつながりを疑わざるえない問題です。例えば高血圧の基準値でいえば、1987年は上の血圧が180以上でした。その後、数値は年々下がり、現在は140以上に。

 高血圧の基準値が下がれば、降圧剤などの薬を処方する機会は必然的に増えます。それはお医者さんにとっても製薬会社にとってもプラスですよね

 薬がすべて悪ではなく、症状の緩和に不可欠な良薬もあるという。注意すべきはメリットよりデメリットが目立つ薬。高齢化社会に入り、医療費や保険料負担が増え続ける中、心身に悪影響を及ぼす薬にお金を払うのはムダでしかなく、ましてや飲むのは避けたいはずだ。

「薬を最小限にとどめ、病気を根本から治す医療を志したのは、ストレスを主な原因とする私自身の病気体験がきっかけでした」

 と語る伊東先生。日本では数少ない根本治療専門クリニックを開業し、心身回復のための治療やケアに従事。不調には背骨のゆがみや体内の炎症などが複合的に関わるとし、表面的な症状だけに薬を出す対症療法に異を唱える。

病院や薬に頼らない母の考えのもとに育つ

 伊東先生は幼少期、風邪をひくと高熱が出て扁桃腺が腫れることが多かった。しかし、病院や薬とは一切無縁だった。

「母の行動や考え方によるものです。風邪のときは私に葛湯やお粥を食べさせ、どんどん汗を出し、下着を取りかえる。すると一晩で熱は下がり、扁桃腺の腫れも引いた。ほかの病気でも同様に薬を飲ませず、自然治癒に導いてくれました。私の医療に対する姿勢の基礎は、こうした母の教えによって培われたように思います

 高校時代、心から慕う母親が子宮筋腫と診断され、入院を余儀なくされる。やがて悪性とわかり、抗がん剤治療へ。

「母の病気から医師になる決意を固めました。母は抗がん剤の副作用に苦しみながらも打ち勝ち、回復。それでも、もう少し早く筋腫を発見できていたら……という思いはいまも拭えません」

 医学部に進学。国家試験に合格し、研修医を経て内科医として医師のスタートを切った。診療と研究の経験を積み重ね、6年目のこと。アメリカの大学に留学するチャンスを得る。だが、留学中に思わぬ病に襲われるのだ。

「アメリカではホルモンと老化に関する専門的研究に没頭する忙しい毎日でした。言葉や文化、食事などが異なる異国の地というのもあり、ストレス過多の状態だったのでしょう。胃や精神に不調をきたすようになったのです。

 病院で出された薬を飲んでも効かず、さらに薬疹が出始め、吐き気もひどかった。症状は悪化する一方でしたね

薬で苦しんだ体験を治療に生かすと決意

 一時帰国を決断し、自らの病に思いをめぐらす療養の日々を過ごす。

なぜ自分は病気になったのか、薬が効かないのはなぜか、薬は怖いものではないか……と。もともと薬による対症療法主体の医療に感じていた疑問が、自身の経験で確信に変わりました。そして病気の根本的な原因を改善し、自然治癒力を高める治療の大切さに改めて気づき、ライフワークとすることに目覚めました」

 しかし壁が立ちはだかる。留学を終えて帰国したのち、根本治療の研究の場は与えてもらえなかった。組織の中では、新しい分野を追究するより、上からの指示に従う人材が必要とされたのだ。あえなく辞職した伊東先生は、志を貫くべく開業し、現在に至る。

「当院で行う根本治療は日本の医療制度の関係上、保険外治療が中心。最良の医療を届けたいと思いながら、経済的な壁ができていることに、歯がゆさを感じます。アメリカでは根本医療に通じる機能性医学というジャンルの研究が進んでいる。日本でも同様に重視され、抜本的な医療改革のもと、根本治療が保険適用となることを夢見ています」

薬は怖いもの…と気づいた伊東エミナ先生の歩み

【幼少期】母親の方針から、病院や薬とは縁のない家庭で育つ。高熱には葛湯、下痢には梅酢を与えられ、自然治癒へと導かれた

【医学生時代】母親の病気を機に医師を目指す。抗がん剤の副作用と不安に苦しむ姿に、医師として患者に寄り添うことを決意

【医師になる】6年目、米国ヴァージニア大学に留学中、心身に不調をきたす。処方された薬が効かず、身体は拒否反応を示す。帰国し湯治場での療養で心身が回復。この体験をきっかけに、病気の本質的原因に関する根本治療の研究を開始

【現在】独自に根本治療の研究を重ね、2010年、東京・銀座にクリニックを開業。以来、国内・米国研究所と連携し、最新医学をベースに心と身体の機能回復を専門にサポートしている。予防医療、自然医療の啓発をライフワークに

認知症、がん……強い薬ほど身体を蝕むという事実

 薬と密接につながり、切り離させない医療の現実。対症療法主体の現代の医療は「自然治癒力を低下させ、かえって病気を悪化させることも少なくない」と伊東先生は指摘する。

 では、薬にはどのような危険が潜んでいるのか。具体例を挙げ、紐解いてもらった。

「胸やけなどの治療には胃酸の分泌を抑える薬が出されます。たしかに胃酸は抑えられますが、その分、食物や栄養の消化吸収を助け、細菌から身体を守る胃酸の機能低下を招く。結果、悪玉菌を繁殖させることになりかねません。また胃酸を抑える薬が認知症のリスクを高めるというエビデンスも発表されています」

 前述した風邪やインフルエンザなどで出される抗生物質。その弊害はウイルスに効果なしというだけではない。

「抗生物質を長期間服用すると、体内の菌が遺伝子変異を起こし、抗生物質に対して耐性を獲得します。つまり、抗生物質が効かない菌が作り出されてしまうのです」

薬の効果とリスクは身体にとって表裏一体

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 いまや日本人の2人に1人がかかるとされるがん。がん治療薬の抗がん剤が強い副作用を伴うのは周知のとおり。

「抗がん剤はがん細胞を破壊する優れた薬です。ただ同時に、がんを患う患者さんの身体にも大きなダメージを与えます。抗がん剤が身体内から抜け切るには長い時間がかかり、その際、肝臓や腎臓、骨髄などを傷めるのです。抗がん剤など強い効力をもつ薬ほど、身体が蝕まれていくのは否めません」

 更年期障害の治療で用いられるホルモン剤の投与も身体への負担が大きいという。

「保険で処方されるホルモン薬を用いた海外の大規模な研究では、乳がんや心血管疾患などのリスクが高まることがわかったため、研究が途中で中止になりました。この研究以外にも、ホルモン薬の副作用について多くの医学的根拠が明らかにされています」

薬を増やすほどに副作用も重層的に

 高血圧の場合、血圧を下げる降圧剤を処方されるのが当たり前になっている。

「降圧剤の副作用は多岐にわたり、血圧を下げすぎることで頭痛やめまいなどが生じます。高齢者の場合は転倒を招いて骨折し、寝たきりとなるケースも

 心身の不調をきたすうつ病は抗うつ薬の治療が通例。しかも大量に薬を処方されることが少なくない。

「病気の症状なのか薬の副作用なのかわからず、薬が増えていく典型パターンです。当院の例では、うつ症状が改善して薬をやめたのち、『頭がもうろうとしていたのは薬のせいだった』と気づく患者さんは多いですよ」

 このように薬の服用は危険と隣り合わせなのだ。

「ただし、自己判断で薬をやめるのも危険です。必ず医師の指導を受けるようにしてください。大前提として、飲み続けて害のない薬は世の中にひとつも存在しません」

治るどころか悪化のリスクが!飲み続けてはいけない薬

●高血圧

 高血圧には降圧剤が処方される。「私がかつて視察した老人施設では、上の血圧が70にもかかわらず降圧剤が使われていた」と伊東先生。降圧剤の副作用は、頭痛、めまい、肝障害、心不全、貧血など多数ある。

●うつ

 うつ病の治療薬には抗うつ剤が用いられる。抗うつ剤の副作用は、嘔吐、下痢、不眠、動悸、不整脈など。薬物治療ではうつ症状の改善を望めないことが多いため、必然的に薬の増加と服用の継続につながり、副作用のリスクは高まっていく

●がん

 がん治療薬の抗がん剤は強い副作用で知られる。脱毛、吐き気、嘔吐、手足のしびれ、抑うつ状態、疲労感など、幅広い副作用に襲われる。「抗がん剤はがん細胞を破壊する効果は高い。ただ身体に対しても同様のダメージをもたらすため、耐えられない患者さんは多いです」

アトピー

 アトピー性皮膚炎の治療にはステロイド外用薬がおなじみ。皮膚炎を抑える高い効果がある一方、継続して使用すると、皮膚がうすくなる、ニキビができやすくなる、うぶ毛が生えるなどの副作用をもたらす。ステロイドには毒性もあるため、多用は危険

花粉症

 花粉症の治療には抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などが処方される。副作用として眠くなったり、のどが渇いたりすることが知られる。花粉症はこれら薬を飲んでも根本的な完治に至らない。その結果、薬の服用と副作用が延々と続いていく

更年期障害

 閉経前後、女性ホルモンの低下により、ほてりやイライラなどさまざまな症状を引き起こす更年期障害。「治療はホルモン剤を投与するホルモン補充療法が一般的ですが、投与年数や薬剤によっては乳がんや心血管疾患などのリスクが高まることが報告されています」

長い目で見て薬に頼らない医療の形を

 医療機関の多くは薬による対症療法を主体としているが、何の疑問も持たず薬漬けとなったら病気はいっこうに治らない。そこで病気の根底にある原因を明らかにし、心身をもとから健康に導く根本治療が必要になってくる。

「病気の根本原因には、脊椎・骨盤のゆがみ、腸内環境や遺伝子要因、合わない食品などによる脳や自律神経および副腎の疲労、内臓機能障害、体内の慢性炎症が生じることなどが挙げられます。これらに対して最適なケアで自然治癒力を高める。それによって病気を根本的に治すとともに、病気にならない身体づくりをサポートします」

初期投資はかかっても豊かな生活につながる

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 根本治療には食事の改善や運動、良質なサプリメントなども必要不可欠となる。

「食事の改善は、小麦や乳製品など身体の炎症を引き起こすものをカットすること。運動は血流をよくするのに欠かせず、手軽にできるスクワットがオススメです。栄養確保のサプリメントは商品を見極めなければならないため、医師など専門家に相談し良質なものを選びましょう」

 薬漬けになっても病状が改善せず、一縷の望みで来院した患者が、体内環境を整える治療で健康を取り戻すことも。

「自費診療は高いと思われるかもしれません。しかし病気を根本から治療することに大きな意義があります。長い目で見れば、増大する保険医療費による財政圧迫を減らせる。私はそう信じています」

苦しみから解放された人の声
薬に頼らない治し方

●長袖で隠していた肌をノースリーブで出せる喜び

 長年、アトピー性皮膚炎の炎症に苦しんでいたMさん。それがステロイドを使わず、背骨のゆがみを整える「脊椎調整治療」と「腸内環境改善治療」により、短期間で症状が大幅に改善した。

「アトピーの炎症はお肌だけでなく、身体の中からも生じています。そこでカギを握るのが背骨のゆがみです。背骨は自律神経の通り道になっています。脊椎調整治療で背骨のゆがみを治すことにより、圧迫されていた自律神経の障害がなくなる。すると炎症をはじめ、血流、副腎機能、胃腸機能などが改善していくのです。ステロイドを使わないアトピー根本治療で精神の不安定感もなくなり、患者さんは笑顔を取り戻しました」

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●ステージ4の乳がんが根本治療で消滅

 ステージ4の乳がんを患っていた40代のSさん。ホルモン療法や化学療法の効果が感じられず来院したが、根本治療開始から約半年程度経過後、がんは完全消滅となった。

「がんの根本治療は、免疫機能や血流の改善、炎症の抑制、検査に基いた厳格な食事療法などを行います」

 これらの治療を総合的に実施し、がん細胞が生き残れない環境に身体をつくり変えていくことがポイント。併せてメンタルサポートも行う。

「私たちの身体にはもともと、アポトーシスと呼ばれるがん細胞を殺す力が備わっています。身体全体の機能改善により、その力を正常に機能させることができます」

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●認知症による言語障害も霧が晴れたように改善

 重い認知症を患っていた高齢のKさん。日常生活に支障をきたし、言語障害もあった。専門医師がスポーツ医学に基づいた脊椎調整治療を施し、背骨や骨盤のゆがみを整えた結果、症状が大幅に改善。元気に歩けるようになり、言語障害も回復した。

「前述したとおり、背骨は自律神経の通り道です。脊椎や骨盤のゆがみと自律神経は密接に関わっています。そのゆがみを正すことで、認知機能や脳の血流が上がり、認知症の症状が改善に向かったわけです」

 教えてくれたのは・・・伊東エミナ先生 ●エミーナジョイクリニック銀座院長。医学博士。東京女子医科大学医学部卒業後、同大学内分泌内科勤務。米国大学留学、同大学国際統合医科学インスティテュート助教などを経て、2010年より現職。

〈取材・文/百瀬康司〉