年を重ねればアチコチ痛くなる。そんなとき治療院は強い味方!でも中には絶対行っちゃいけない、アブナイ治療院もあって……。人気院院長が暴く、不衛生、セクハラ、詐欺まがい。あなたの行きつけは大丈夫!?
詐欺まがいな治療院に要注意!
腰が痛い。肩こりがひどい。そんな身体の不調があるときにお世話になるのが、整体院や整骨院だ。病院よりも敷居が低く、問診だけでなく実際に身体に触って施術してくれるため、安心感がある。しかし、痛みやこりがとれるどころか、整骨院や整体院での健康被害や詐欺まがいの商法が、消費生活センターや国民生活センターに次々と報告されている。
「指圧で肋軟骨が折れた」などの健康被害もただ事ではないが、施術の回数券を大金で買わされ、被害額が大きいケースもある。癒しの場所であるはずの治療院の中で何が起きているのか。柔道整復師、はり師、きゅう師としてこれまで延べ10万人以上に施術をしてきたアスリートゴリラ鍼灸接骨院の高林孝光院長に事情を聞いた。
「ぎっくり腰専門を謳う整骨院に行ったのに、腰を触るのを怖がって、ふくらはぎばかり触られたという患者さんの話を聞きました。全然専門じゃなかったようですね。ホームページや看板で“〇〇専門”などと謳っていたとしても、それはみんな自称ですから」(高林先生、以下同)
インターネットの検索でも注意が必要だ。
「例えばHPに“地域ナンバーワン”などとあるのも、自称ですから。根拠になるデータは何もない。“治癒率99・9%”なんて謳い文句もそう。全部、裏付けのない自称です」
ほかによくあるのが、有名な健康系雑誌の表紙をHPに出し、「掲載されました」としてPRする方法だ。
「実際は広告費を払って載せていることが多いです。『●n-an』の表紙などでハクづけする作戦はよく目にしますね。また、お金を出して有名人にコメントをもらうなどもよくある手口です」
グーグルのクチコミなどもサクラが多い。
「ネットを見ていて、これは怪しいと思うのが、“当院はクチコミなどのやらせは一切ありません”と注意書きのある院。わざわざ書く必要はない。以前、サクラの規制が入って300件ぐらいあったクチコミが一気に消えた院があったんですが、そのHPにもやはり“やらせではない”旨の文言がありました」
最近では「サクラチェッカー」なるアプリも登場。クチコミが本物かサクラが書いたものかを判断できるそうなので、活用を!
なんでも骨盤のせいにする接骨院
“痛いところに手を当てて、手当てをするのが治療”と語る高林先生。
「でも院によっては、患者さんの話を聞かず、首が痛いと言っているのに『これは背骨が原因』などと主張し、何でも自分の得意な分野に持っていこうとする先生がいる。自分の得意じゃない分野については患者さんの声を無視するんです。これはアウト!」
また、痛みから緊急で来院している患者に対して『3週間後にもう1回来て』といった対応をする院も。
「患者さんの声がまったく聞けない。それは、治療院側の経験不足です。あと接骨院で多いのが『骨盤・背骨ずれずれ営業』。腰痛も肩こりも、なんでもかんでもそれを理由にしてしまう(笑)」
骨盤矯正は女性誌でも度々、その効果が特集されているが、疑問視する声も多い。
「骨盤矯正ブームのころ“自分は骨盤がずれている”と主張する患者さんが急に増えました。実際に身体に触ってみると別にずれていない。実際は、腰の痛みを和らげようと無意識に側屈(身体を左または右に曲げること)する姿勢になっているだけ。なのに“骨盤のずれ”をあおる治療院が多かったから、その弊害です」
また施術で骨を盛大に鳴らす治療も流行った。パフォーマンスとして行う治療院も少なくない。
「音を鳴らすと、施術側は“やっている”感が出せる。院によっては、待っている患者さんの前に施術台を置き、ステージのようにしている。もし骨がずれていたなら、一発で治るはずなのに、なぜ通わせるのか疑問です」
見せ技は金儲けのため?
「“あの患者はお金があるな”と思われると、個室に連れていかれてVIP待遇が始まる院もある。オソロシイ話です」
最近、消費生活センターが注意喚起しているのが、治療院で回数券を購入させられたが、解約や返金に応じてもらえないというトラブルだ。
埼玉県の消費生活支援センターに寄せられたのは“骨盤が歪んでいるため、骨盤矯正とインナートレーニングに定期的に通う必要がある”と言われ、「96回の施術、計68万円分の治療が45万円になる回数券」を購入したものの、症状が悪化してしまった事例だ。
カルテに書かれる酷い隠語
「回数券問題ですね。“回数券を売るためだけに教育されたスタッフ”がいる治療院もあるんですよ! 回数券は利用期日が小さ~く書いてあるけど、おじいちゃんやおばあちゃんは老眼で見えずに、期日を過ぎてしまう。また、使おうとしても期日までになかなか予約が取れずに失効してしまうケースもあります」
実は法律上、購入を解約したくても、しづらくなっているのだ。
東京都消費生活総合センターによれば“自ら出向いて契約した場合”の施術はクーリング・オフ制度が適用されない。また治療院側が「解約できない」と言えば、お金を諦めざるをえない。まったくの無法地帯だ。接骨院には法的な規制があるが、整体院にはないのだ。
「よく繁華街で“あなたも3日で整体師”や“4日間でカイロプラクター資格取得”といった広告を見ます。整体師もカイロプラクターも法的な資格はないのです」
接骨院(整骨院)は、国家資格を持った柔道整復師がいるので、法的規制もあり保険適用にもなる。はり師、きゅう師も同じく国家資格だ。接骨院であればあくどい手口はないようだが、回数券の購入には注意が必要だ。
「治療院のカルテの右上、名前の横などに数字が書いてあれば、“〇人目の患者”という意味。では“500UB”と記号がついていたら何だと思います? 答えは“500番目に来たうるさいババア”です。いろんな病院に勤めていた経験から言いますが、UBならうるさいババア、UGならうるさいジジイという暗号は、ほとんどの病院が使っています。業界の裏常識だと思います……嫌な話です」
またPと書いてあれば、“頭がパ●”、Bなら“バ●”の意味だそう。
「カルテがドイツ語なのは、患者に内容を知らせないようにするため。それと同じで、患者の目の前でスタッフたちに“この人はパ●だ”“バ●だ”なんて言えないけれど、PやBなら本人を目の前に悪態をつき放題なんです」
PやBに加えて三重丸や花丸が書かれたカルテにはそのときの書き手の感情が反映されることも多いという。
「カルテ一面の赤い花丸で怒りを表現したものも見たことがありますよ。例えば“自分の施術に懐疑的だった”くらいで怒って、そんなことをする施術者もいました」
「T」は水虫患者を指す。
「“だからこの患者の施術後は手を洗いなさい”という、まじめな記号もありますが、ほとんどは患者さんに絶対悟られてはならない隠語です」
もし自分のカルテの右上に謎の記号があったら、それは何か尋ねよう。
「もし相手が動揺したなら悪い意味だと思います。治療に行って、そういうことをされたら悲しいじゃないですか」
院が交通事故専門を謳う理由
これらの手口を明かしたことで、アウトな治療院がすべてなくなればいい、と語る高林先生。
「世の中を正したいですね。結局、ダメな治療院って扱いにくい患者さんを攻撃するんです。治療院側がきちんとコミュニケーションさえとれていれば扱いにくい患者さんなんていないはず。私はむしろ患者さんから元気をもらっていますよ。よくなった患者さんがお礼を言ってくれると本当にうれしい。これからも1人でも多くの患者さんの痛みを治したいと考えています」
●そもそも治療院って?
→器具を使用しない主義による医業類似行為
・法的な資格制度があるもの
→あんまマッサージ指圧はり、きゅう柔道整復
・法的な資格制度がないもの
→その他の施術(整体、カイロプラクティックなど)
※これらは法的資格制度のあるなしに関係なく治療院と呼ばれる。
◆行ってはいけない!アウトな治療院のpoint
【その1】フケツ
スタッフのユニフォームの襟元やズボンなどが黒ずんでいる。サンダルの靴下が汚いなど、衛生観念が低い。「そういう院では、前の人が素足で乗ったマットの上にうつぶせで寝て、など平気で言います」(高林先生)
【その2】外から見えない!
外から中の様子が見えないように目隠ししてある。「評判が落ちて患者が来なくなると、院の中を見えないようにしがちです。空の治療台や待つ患者がいないのを見られないようにするのが姑息ですね(笑)」(高林先生)
【その3】“交通事故専門”を謳う
“交通事故専門”“自賠責ゼロ円”などののぼりを立てたり、ポスターを張っている。
「交通事故って儲かるんです。普通の患者さん1人が10人分ぐらいの儲けになります。交通事故専門って何だよって思いません? 自賠責ゼロって言うけど、保険が使えるところなら、どこでもゼロ円ですよ。あえてそれを声高に宣伝する院はおかしいですね」(高林先生)
【その4】セクハラ
若い女性患者はとくに気をつけたい。
「患者さんで若い女性が来ると、なぜかいつも院長が出てくる治療院がありました。下半身の痛みがあるにもかかわらず、関係ない上半身を脱がせ、肩を揺らして胸を凝視。そんなことをする治療院は本当にアウトですね!」(高林先生)
【その5】先生が練習、実力不足
先生が患者と目を合わせない。あるいは患者の質問に逆切れする意味は? 「人見知りの先生や鍼を打つときに手が震える先生がいます。緊張しないようになるにはどうしたらいいか。緊張しないぐらい練習すればいいんです。
治療をして、もし治らなくても、いい先生は引き出しを持っているので動揺しない。引き出しを持っていない先生は急に慌てたり怒ったりするし、コミュニケーションが円滑にとれないことが多いです」(高林先生)
ホントにあった! アウトな事例
【事例1】15年以上前から行きつけの指圧・マッサージ店で全身の指圧マッサージを1時間半受けた。終了直前にブキッと音がして息をつけない痛みを感じたが、1~2分で通常に戻ったので激痛があったことを言わず帰宅。その夜に発熱し痛みが出たため整形外科を受診したら肋軟骨骨折と診断。加療に1か月を要するとされた。(60代・女性)
【事例2】健康ランドで受けたマッサージ。腰、脚に痛みが出て歩行が困難になった。翌日、整形外科を受診したところ、脊椎管狭窄症があって、マッサージで強く押したため痛みが出たのだろうとの診断だった。
店に苦情を言うと、もともと病気があったのだから治療費しか出せないとのこと。通院治療は1か月、その間仕事ができない。施術者に確認したところ、免許は持っておらず、マッサージではなくボディケアだから免許は必要ないと言っていた。免許のない者がやってもいいのか。(60代・男性)
【事例3】お試しのハワイアンオイルマッサージがよかったので全身マッサージに行った。背中などをぐりぐりと痛いくらいマッサージされた。数日後首や頭のまわりが痛くなったので病院に行ったところ、頸椎捻挫と診断された。
治療費などをマッサージ店に知らせて対応を求めたところ、「マッサージとの因果関係がはっきりしないので支払えない」との通知が来た。痛みが続いているにもかかわらず何もしてくれないのは納得できない。(50代・女性)
国民生活センターホームぺージより
鍼灸師・柔道整復師として延べ10万人以上を施術。有名アスリートや著名人の治療実績も豊富。テレビ番組などメディア出演多数。『ひざ痛がウソのように消える! 1日40秒×2 ひざのお皿エクササイズ』(CCCメディアハウス)ほか著書多数。
《取材・文/ガンガーラ田津美》