《真面目に酎ハイを焼酎で作っている数少ないメーカー。これからも呑みますよ!》
《多少値上げしても、甘味料等入っていなくて美味しいから呑み続けます》
《去年全国で消毒用アルコールが不足していたときに高濃度アルコールを製造してくれていたことは忘れていません。これからも買い続けますよ》
これらは宝酒造が今年1月20日に一部商品の値上げを発表したのを受け、ネット上でファンから寄せられたコメントの一部。通常、消費者にマイナスとなる値上げのニュースは批判にさらされる。だが宝酒造の場合は異なり、温かいコメントであふれていた。
人々に愛される「宝焼酎」
「驚きとともに、大変ありがたく思っています。みなさまから当社の製品が愛されていることを改めて実感し、一広報として目頭が熱くなりました」
こう語るのは宝ホールディングス・環境広報部の奈良有里代さん。
国内トップの焼酎メーカーとして市場を牽引する宝酒造。同社の品はなぜ熱く支持されるのか。6月から値上げされる主力ブランドのタカラ「焼酎ハイボール」にスポットを当て人気の秘密を探った。
タカラ「焼酎ハイボール」は2006年に新発売された。昭和20年代、東京の墨田区や葛飾区を中心とした下町にある大衆酒場を発祥とし、以来、飲み継がれてきた焼酎ハイボール。下町の大衆酒場で愛される“元祖チューハイ”を商品化したい──。
そんな思いからタカラ版の焼酎ハイボールは生まれ、世に送り出されたが、いきなり壁にぶち当たる。
「発売初年度はまったく売れませんでした。当時ブームだったのは果汁感たっぷりの比較的甘いチューハイ。当社の焼酎ハイボールは辛口が特徴で、味が正反対のため理解されにくかったのでしょう。一方、人気俳優をCMに起用するなど、ほかの缶入りチューハイと似た雰囲気のプロモーションもミスマッチだったと思います」(奈良さん)
しかし、あきらめなかった。社員たちも焼酎ハイボールを好み、思い入れが強かったからだという。地道な営業努力、大衆酒場感を重視したプロモーション活動により、風向きは変化。次第に認知され、人気を博すようになっていった。
「15年連続で前年の売り上げを更新中です。当社で同様の成果を挙げている製品はほかにはありません」(奈良さん)
それを支えるのが、タカラ「焼酎ハイボール」の熱烈なファンだ。ファンを引きつける理由を、飲料専門家の江沢貴弘さんはこう指摘する。
「焼酎ハイボールに使われている甲類焼酎の絶対的なうまさ。純粋さに加えて“味わい深い個性”があることが、いちばんの魅力といえます」
甲類焼酎は、芋などの乙類焼酎とは違ったすっきりした味を特徴とする。反面、物足りなさを感じがちだが、宝酒造のそれにはあてはまらない。
ピュアなアルコールを生み出すこだわりの蒸留技術
「長い歴史を持つ焼酎メーカーだからこそです。洗練された甲類焼酎を生み出す蒸留技術と、貯蔵する焼酎のバリエーションの豊富さやブレンド技術が強みになっています」
江沢さんのこの評価は、奈良さんの説明に裏打ちされる。
「甲類焼酎の製造には連続式蒸留機を使います。その性能によって仕上がりは大きく変わるのですが、当社は優れた蒸留機をそろえており、それを扱う技術もあると自負しております。
結果、雑味成分を取り除き、限りなくピュアなアルコールができあがるのです」
加えて、さまざまな味わいを引き出せる樽貯蔵熟成酒の存在が大きい。「宮崎県の焼酎蔵に約2万樽、約85種類」に及ぶというから驚きだ。
こうして深い味わいとコクを育んだ甲類焼酎「宝焼酎」をベースに、タカラ「焼酎ハイボール」は造られている。
ちなみに焼酎ハイボールの略称とされるのが“酎ハイ”。缶入りのチューハイにはウオッカをベースに炭酸や果汁で割ったものもある。対してタカラの「焼酎ハイボール」の場合、ウオッカは使わず、あくまで焼酎をベースにしている。
「ウイスキーを炭酸で割ったのがハイボール。そのルールに従えば、焼酎を炭酸で割った焼酎ハイボールこそ本物のチューハイです」(江沢さん)
美味しい焼酎を造ることに絶対的な自信を持っている宝酒造。その武器があるゆえに、「甘さに頼らなくても、目指す焼酎ハイボールを実現できた」と話す奈良さん。
当初、甘くないチューハイは市場に受け入れられなかった。だが異質な要素がいつしかほかのチューハイにはない魅力として輝き、焼酎のうまさとともに受け入れられていった。
「甘くないから食事と一緒に楽しめるという声は多いです。料理の味を邪魔せず、相性がいい。食事しながら美味しく飲めるわけです」(奈良さん)
レモンやドライなどフレーバーによっては甘味料、糖質、プリン体がすべてゼロというのも、健康が気になるユーザーにはうれしいところ。
「何度飲んでも飽きがこない。まさに長く飲み続けられる=ドリンカビリティが高いですね」(江沢さん)
下町の大衆酒場由来ということで愛飲者は中年男性中心。しかし最近は昭和レトロブームの影響もあり、女性ファンも増えているそうだ。
タカラ「焼酎ハイボール」は全16種類のラインナップ(期間限定商品除く)。幅広い商品群も魅力であり、ファンの広さを物語っている。
「1番人気はレモン。次がドライ、シークヮーサーと続きます」(奈良さん)
「大衆酒場好きにはレモン、ドライがオススメです。焼酎ハイボール初デビューなら好きなフレーバーを試し、下町の味へとステップアップしましょう」(江沢さん)
下町の情深さを見習う
名店の味と題した「立石宇ち多゛のうめ割り風」。同商品は東京・立石のもつ焼き屋の名店「宇ち多゛」とコラボして誕生したもの。店主監修ながら同店では提供しない味わいを楽しめる。
東立石のお酒も飲めるうどん屋・四ツ木製麺所では、この名店コラボ缶を置いている。
「もともと宇ち多゛さんの三代目とは懇意にさせてもらっていたんです。宇ち多゛さんの常連さんは大抵、うちに来て『立石宇ち多゛のうめ割り風』焼酎ハイボールを飲んでいきますよ。
三代目に寄っていくよう言われるみたいで(笑)。ありがたいです。
売り上げの一部を葛飾区内のこども食堂に寄付している三代目に倣い、うちでもそうしています」(店主・守田良一さん)
焼酎ハイボールを通じた下町ならではの助け合いを垣間見ることができた。
焼酎ハイボールをリスペクトし、熱烈なファンを築いたタカラ「焼酎ハイボール」。その歩みはこれからも続く。
「『宝焼酎』には100年を超える歴史があります。
飲み継がれる美味しさ、人生に寄り添う味わいを目指してきたことは、今までもこれからも変わりません。
次の100年に向けて、さらに品質を磨き、安全・安心な製品を提供することで、みなさまの潤いある豊かな生活に寄与してまいります」(奈良さん)
(取材・文/百瀬康司)