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 近年、相続についての法改正が続き、妻や息子の嫁の権利がしっかりと守られるようになってきている。実はこれまで妻と嫁は、かなり割を食っていたのだ。

妻や嫁が知るべき「相続」

 例えば、夫が亡くなったあとも妻が自宅に住み続けたいのに住めない場合があった。

 自宅に住み続けるためには相続する必要があるが、自宅の価値が自分の取り分を超えていると、売らざるをえないからだ。

 たとえ自宅を相続できたとしても、子どもが預金を相続し、妻は現金を得られずに生活費で困ることも。夫との思い出が詰まった自宅で残りの人生を過ごしたいと願う妻にとってはつらい状況だ。

 また、息子の嫁は、義理の親の介護をいくら頑張っても遺産を相続する権利すら与えられなかった。とっくに家を出ていって両親の面倒を何も見ていない実の子どもだけが遺産を相続するという理不尽がまかり通っていたのだ。

 それが2019年や2020年の改正で、妻は自宅を売ることなく現金も相続できるようになり、嫁は介護に尽くしてきた対価を支払ってもらえるようになった。配偶者が報われる時代になったといえるだろう。

 妻にとってうれしい話ばかりではない。

 高齢化が進んで認知症になる人が増え、いつ夫が認知症になってもおかしくない。認知症に対する準備を何もしていないと、いざというときに夫の資産が凍結され、銀行からお金を引き出すことすらできなくなる場合が。

 最近は「家族信託」という制度を使って相続とあわせて認知症にも対策する人が増えてきた。夫が元気なうちに妻がしっかり準備しておくことで、お金の心配をかなり減らせるのだ。

 相続なんてお金持ちだけの問題だと考えている人も多いかもしれないが、遺産の分け方についてはどの家でもトラブルになりうる。相続の新情報を知っているだけで、家族がもめて“争族”とならずにすむかもしれない。得られるお金が数百万円単位で変わることもある。ぜひ知っておきたい新常識を紹介する。

妻が自宅に住み続けられない「理不尽」が解消

 夫が亡くなったあとも、長年住んだ自宅にそのまま住み続けたいと願う妻は少なくないだろう。ただ、お伝えしたように、自宅の価値が自分の取り分を超えていると希望が叶わないこともあった。その状況を変えたのが、2020年に新しくできた「配偶者居住権」という制度。

 例えば、夫の遺産として3000万円の自宅があった場合、「自宅に住む権利1500万分を妻が相続し、売却などができる権利1500万円分を子どもが相続する」というように、自宅をふたつに分けて相続できるようになった。妻が3000万円の自宅をまるまる相続するわけではないため、もし夫名義の銀行預金があればそれも子どもと分けることができるのだ。

 生活費に使える現金を手にしつつ、安心して思い出の自宅に住み続けられることに。夫がもしものときはぜひ活用したい制度だ。

【これまで】自宅に住み続けようとすると自宅を相続する必要があるため、現金を相続できずに生活費に困ることも。

【これから】新しい制度ができたことで、自宅を丸ごと相続しなくても住めるようになり、また、現金を相続することもできるようになった。

夫が認知症になる前に絶対にやっておくべき制度

「夫はまだ元気だから相続や介護なんて先の話だ」と考えていると後悔する。というのも、夫が認知症になると一切の資産が凍結されてしまうからだ。

 たとえ妻でも夫の銀行口座からお金を引き出せなくなり、自宅が夫名義なら売却も難しくなる。また、妻が財産の全容を把握できていない場合は夫の死後に遺産分割がなかなか進まない可能性も。

 そこで検討したいのが「家族信託」という制度だ。これは、元気なうちに夫の現金や不動産などの管理を、子どもなどに任せるというもの。たとえ夫や自分が認知症になったとしても、子どもが管理を任せられている口座からお金を引き出すことが可能だ。

 また、この制度を利用していると、夫の死後も安心。というのも、夫の資産がそのまま子どもに引き継がれるので、遺産の分け方でもめずにすむからだ。なお、認知症になってしまうと家族信託の契約は結べないため、夫が元気なうちに検討したい。

【要注意】認知症になると「本人の意思確認」が難しくなるため、預金の出金や定期預金の解約、自宅の売却などが難しくなってしまう。

「遺言書リスク」を払拭できるように

 たとえお金持ちでなくても、遺産の分け方を決めるのは実はとても面倒。遺産がそもそもいくらあるのかを調べなければならず、また、実家を売るのか売らないのかで家族が対立するケースも少なくない。

 その点、遺言書があればもめずにすむし、遺言書を書く際に財産の一覧も作ることになるため、夫の死後に遺産を調べる手間も省ける。

 だが遺言書は、正しく書かなければ無効になってしまう。さらに死後に見つからなかったり、誰かに内容を改ざんされたりするリスクも。そのためにあるのが公証人が遺言書を作成・保管する「公正証書遺言」という制度だが、10万円前後の費用が発生する。

 そこで活用したいのが、2020年7月から始まった「自筆証書遺言保管制度」だ。遺言書を法務局に保管してもらうことで、紛失や改ざんを防げるように。また法務局の人が、遺言書の中身をチェックしてくれるため、無効になるリスクも低くなる。

 費用は基本的に申請手数料3900円のみ。自分や子どもの負担を減らすためにも、夫には遺言書を書いてもらいたいもの。まずは、お近くの弁護士や行政書士などに相談してみては。

妻の相続は「税金がかからない」からこそ要注意!

 夫の遺産は、妻と力を合わせて築いたものと考えられているため、夫婦間の相続では税金がかかりにくくなっている。「配偶者の税額軽減」という特例で、最低1億6000万円まで相続税がかからない。その点、妻は優遇されているのだが、だからこそ注意すべき点がある。

 税金がかからないからといって、よく考えもせずに夫の遺産を自分がすべて相続すると、自分が死んだあとに子どもが痛い目に遭うのだ。子どもへの相続では「配偶者の税額軽減」が使えず、さらに子どもは夫の遺産と自分の財産の両方を相続することになるため、相続税が高くなりやすい。

 自分の死後、子どもに必要以上の負担はかけたくないもの。そのためには夫が亡くなったときに遺産の分け方を慎重に検討することが大切だ。必要に応じて税理士にも相談のうえ、子どもが損をしない引き継ぎ方を考えよう。

【要注意】夫の遺産を妻が相続するときは税金面でとても優遇されているが、妻の死後、その財産を子どもが相続するときはしっかり課税される。

「孫の教育費」を払って賢く節税!

 生きているうちに家族に財産を渡すと、自分が死んだときの遺産が減るため家族が相続したときにかかる税金を少なくできる。そのため、子どもや孫に生前贈与をして、税金対策をする人は少なくない。

 しかし、例えば孫が将来、大学へ進学するための資金を渡すというように、いますぐ必要のないタイミングで渡すと贈与税がかかってしまう場合も。

 そんなときに活用したいのが特例措置(正式には「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」という)だ。これを利用すると、最大1500万円の教育資金を贈与税がかかることなく渡すことができる。

 例えば、300万円を一括でそのまま渡すと19万円の贈与税がかかるが、この特例措置を利用すると税金が0円になるのだ。銀行で専用口座を開き、お金を渡した人に管理してもらうといった条件はあるが、無税でお金を渡すことができる。

 この特例措置を利用できる期限が去年の法改正で2023年3月末まで延長されたので今からでも間に合う。教育資金を渡したい孫がいるなら、節税のためにもぜひ検討を。

おひとりさまの相続新常識

 相続と聞くと、配偶者や子どもがいる人だけの問題だと考えていないだろうか。しかし独身の人にとっても、相続対策が必要なことがある。

 亡くなった人の遺産は、身内がいないなら借金の返済や滞納している家賃の支払いなどに充てられ、残りは亡くなった人の身の回りの世話をした人などに引き継がれ、残りは国のものになる。

 せっかく築いてきた財産を国のものにしたくないのであれば、遺言を書き、お世話になった人や慈善団体などに渡すのも選択肢のひとつ。遺言書は、決められた形式に沿って書かなければ無効になってしまうため、弁護士や行政書士に相談しながら書くと安心だ。

 また、生前に贈与したり、不動産や株などの資産を売却・換金して自分で消費することももちろんひとつの手。

 いずれにせよ、おひとりさまが対策するのであれば、早めに動くことが大事だ。

「義理の親の介護」をしたら財産をもらえる!

 義理の親の介護は、精神的にも体力的にも大きな負担を伴う。にもかかわらず、その義理の親が亡くなっても介護をしていた嫁は財産を1円も相続できない。

 ところが2019年にできた「特別寄与料」という制度によって、義理の親を必死に介護してきた対価を請求できるようになった。

 これが認められると、遺産を引き継ぐ息子や娘などからお金を支払ってもらえる。金額は話し合いで決まるが、まとまらないときは家庭裁判所での判断となる。

 ただ、この特別寄与料はほかに何も打つ手がないときに嫁ができる最後の手段と考えたほうがいいかもしれない。というのも、一般的に想定できる以上の介護を、最低1年以上していなければ特別寄与料は認められないからだ。

 食事の世話や病院の送り迎えなどをしていただけでは、1円も支払ってもらえない。そのため、義理の親が介護状態ではあるけれどまだ認知症ではないなら、ほかの方法も検討するのがおすすめだ。

 例えば、「介護してくれた〇〇(嫁の名前)に財産の3割を相続させる」などのように書かれた遺言書を残してもらうとか、「〇〇万円を渡すかわりに死ぬまで介護を続ける」といった契約を書面で交わすのも選択肢のひとつだ。

 また、契約者を義理の親、受け取り人を自分にして生命保険に加入してもらう方法も。生命保険の保険金は受け取り人のものになるため、ほかの相続人にとられる心配はない。

 いずれにしても、義理の親が元気なうちに対策をするのが、嫁が割を食わずにすむポイントだ。

【これまで】どれだけ献身的に介護をしても、嫁は一切の遺産を受け取ることができない。

【これから】今後は義理の親を介護すると、条件によっては特別寄与料をもらえることに。

「嫁への生前贈与」ができるうちに

 遺産が少なければ相続税は安くなる。そのため、多くの人が生前に息子や嫁に財産を贈与して遺産を少なくしようとしてきた。

 1年間で110万円以内の贈与なら贈与税がかからないので(「暦年贈与」という相続税対策)、毎年少しずつ渡すのがこれまでの常套手段だったが、この生前贈与を使った税金対策が近いうちにできなくなる可能性が高い。

 現在でも亡くなる前の3年以内にもらった財産は、相続税の対象になりうるが、それが今後は亡くなる前の10年間や15年間にもらった財産も対象になる可能性が。

 生前贈与した財産にも、相続税がかかりやすくなってしまうのだ。

 早ければ、2023年の4月に何らかの改正があるとみられている。税金を余分に持っていかれないためにも、生前贈与を考えているならすぐに行動に移したい。

執筆者紹介……品木彰さん●フリーライター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。大手生命保険会社にて7年半勤務し、人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。保険や不動産、投資、税金など幅広いジャンルの記事を執筆・監修している。