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 卒業シーズン間近、卒業式の練習が始まる学校も多いのではないでしょうか。コロナ禍で卒業式の練習や本番が短くなっている今、「むしろ、このくらいがちょうどいいのでは?」「これまでがやりすぎだったのでは?」という声が一部から聞こえ始めているといいます。さて、先生たちの本音はーー。ノンフィクションライター・大塚玲子さんが先生たちに取材しました。

コロナ禍で変わりつつある卒業式

 3月、卒業式の季節です。ついこの間入学したと思ったのに、もう卒業なんて。あんなに小さかったわが子が、こんなに大きくなって……。寂しさと喜びが入り交じるこのイベントを、楽しみにしている保護者も多いかもしれません。

 ただ、これまでの卒業式って、ちょっと手をかけすぎではないでしょうか。子どもたちは当日までに、何度も練習を繰り返します。自分が子どもだったときも、卒業式の練習は楽しいものではなかったですが、今の子どもたちも同様でしょう。学校の体育館はけっこう冷えますし、時間ももうちょっと短くてもよい気がします。

 式を短くしづらい事情も、わかるのですが。証書の授与は大体一人ずつ行いますし、呼びかけ(群読)も子どもたち全員にセリフを割り当てようとすると、人数に比例して長くならざるを得ません。それにしても、もうちょっと工夫すれば、圧縮できるところがまぁまぁあるような? そんなふうに思っていたところ。

 いまコロナ禍で、卒業式が変わりつつあるようです。感染拡大防止のため、練習回数も減り、当日も来賓を呼ぶのをやめたりして時間が短くなっている様子。現場の先生たちからも保護者からも、「このくらいで、ちょうどよいのでは」という声を聞くようになってきました。

 先生たちはこれまで、卒業式についてどんなふうに考えてきたのか? コロナ禍を機に卒業式が縮小の傾向にある今、それをどう感じているのか? 

 何人かの先生に、聞かせてもらいました。

◆   ◆   ◆

 これまでの卒業式は、子どもたちに細かいことを求め過ぎてきたのでは、と感じている先生は意外と多いようでした。

 たとえば、中学校の元教員・Y先生(長崎県 60代)は、こう話します。

「『整然と』、ということをすごく求めてきましたよね。だから学校にもよりますが、とても細かいところまで練習させていました。

 たとえば、司会者が『令和〇年……』と言うとき、『年』のところで生徒は立ち上がってお辞儀をするだとか、いや『年』ではお辞儀が間に合わないから『令和』で立たないとダメだとか、教員はずっとそんな話し合いをしている。証書授与のときは、2人前になったら立ち上がり、階段に並ぶのは3人までとか、受け取るときは左手が先だとか……(苦笑)

 小学校の教員・U先生(神奈川県 30代)も同様の疑問を感じていたと言います。

「練習のとき、子どもたちにかなり厳しい指導が行われていましたが、そこまで『厳粛さ』や『完璧さ』を求める必要はあるのかな? と疑問でした。入学式は練習がありませんが、音楽などその場の雰囲気もあって、それなりにちゃんとできますよね。だから卒業式も、そこまで時間をかけて練習しなくてもいいんじゃないのかなって」

 先日はネット上でも「卒業式の練習がキツすぎるのではないか」という中学校の先生のツイートが注目を集め、先生たちからも保護者からも、共感の声が多数寄せられていました。下記がそのツイートの内容です。(のぶ@学校のモヤモヤ代弁さんツイートより)

“卒業式の練習キツすぎませんか。「そろえる」ことに美徳を感じる系教師が本領発揮。入試前に授業をつぶし、極寒の中、長時間練習
「動きは全員そろえろ!」
「音をたてるな!」
「動くな目立つ!」
「我慢しろ!」飛び交う怒声
体罰?軍隊?ばりの練習は卒業生のためでなく、一部の大人の自己満と思う”

のぶ@学校のモヤモヤ代弁(@talk_Nobu)さんのツイートに貼られていた画像

 では、なぜそんなに「整然と」や「厳粛さ」が求められてきたのかというと、「そのほうが、保護者などから『よかった』と言われるから」とのこと。

「なんでそんなに全員そろって同じようにしないといけないのか? と思っていましたが、管理職(校長・教頭先生)や教務は『そういうところをきちっとやっていると、来賓や保護者からよかったと言われる』って言うんですよね」(前出のY先生)

「親の期待もあったりしますよね。いいものを見せてもらえると、やはり感動もするし、それが結果として子どもの成功体験にもなる、と考えられてきました」(公立小学校教員・N先生 神奈川県 50代)

 一方で、「よかった」などの感想を言ってくるのは、保護者以外が多いのでは、という指摘もありました。

「(ほかの年と比べて)今年はどうだった、と言ってくるのは保護者よりも、毎年卒業式に出ている地域の方(来賓)や、中にいる先生たちかもしれません。保護者は、きょうだいがいる人しか卒業式に何度も出ないので、そんなに言ってこないんじゃないですか」(公立小学校教員・O先生 千葉県 40 代)

「卒業式はほかの学校行事に比べると、そんなに親からいろいろ言われることはない気がします。卒対の保護者とのやり取りはけっこうありますが」(公立小学校教員・S先生 千葉県 50代)

 たしかに、卒業式のあと子どもは卒業してしまうので(当然ですが!)、下にきょうだいがいる保護者しか、先生に感想を伝える機会はなさそうです。もしかすると、先生たち自身のなかにも「こういう卒業式がよい」という固定観念があって、「整然と」や「厳粛さ」が続いてきた面も、意外と大きいのかもしれません。

簡素化されて「よかった」こと

 そんななか、簡素化された卒業式を経験してみて、「これでいい」と感じる先生は増えているようです。

「コロナの影響から、去年(2021年)の卒業式は練習なしで、当日30分説明をしただけ。でも、問題なくできちゃったので、『あ、できるじゃん』と職員室でも話題になりました(笑)」(前出のU先生)

以前は『卒業式は、こういう流れでやるもの』というふうに我々(教員)自身も思っていたので、あまり変えずにきたところ、コロナでガラッと変わって、『それでいいんだね』と分かった。だから、練習にかける時間は減っていますね。減らすことに、抵抗がなくなったと思います」(前出のS先生)

「児童数が多い学校は、以前から『呼びかけ』を全員にやらせていなくて、『このほうがラクだな』と感じたことはありました。全員にやらせる学校では、声を出すのが苦手な子にも、無理に練習させたりしていたので」(同S先生)

「コロナの前の話ですが、一度、卒業式で礼法をやらなかった年があったんです。右手が先だとか、左を見てお辞儀だとかをやることに意味があるのか考えて、必要最低限に省いたことがあって。そのときの卒業式が、一番感動的でした。これはどっちでも変わらないだろう、ということを省いた結果、得たものは変わらなかった。それなら、大事な授業の時数を潰してまで練習することではないなと」(前出のO先生)

 これまでどおりの卒業式をやめてみたときに初めて、自分たちが縛られてきたことに気付き、そもそもの卒業式の意義が浮かび上がってくる。そんな面もあるのでしょうか。

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 取材の中では、「卒業式の裏で、先生たちはそんな苦労もしていたのか!」と驚かされる話も、いろいろとありました。

 例えば、音楽の先生は合唱の指導のため、卒業式の練習期間中、体育館に詰めっぱなしになっていること。卒業生だけでなく、在校生の練習もあるので、けっこうな長時間です。そのため、他学年の音楽の授業を1・2学期に振り替えるなどの調整も必要になっているとか。

 子どもたちがリコーダーを吹くとき、特別支援学級の子が全然違う音を出して笑われたり、へんな目で見られたりしないよう、事前にセロテープでリコーダーの穴の一部をふさいでおくんだ、ということを聞いたときはなかなかビックリしましたが、単純ではない話であることも感じました。問題は、笑う側やへんな目で見る側にあるのですが、先生たちがそんなふうに気を配っている状況があるのか、と。

 小学校の卒業式で着てくるものについての指導が難しい、という声もありました。「式典にふさわしい格好」といっても、それを用意できない家庭もあるからです。「一年中、半袖短パン」を着てくる5年生の子に、卒業式の日もそれでOKとするかどうか悩んだ、という話もあって、笑ってしまいましたが、これも後からジワジワと考えさせられました。

 保護者も来賓も先生たちも「大人たちみんな」が、漠然とした「卒業式らしさ」や「ふつう」を過剰に追い求めるために、子どもたちにも、先生や保護者たちにも、余分な負担を強いてきた面があるのかもしれません。

大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。ノンフィクションライターとして活動し、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。著書は『さよなら、理不尽PTA! ~強制をやめる!PTA改革の手引き』(辰巳出版)、『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(太郎次郎社エディタス)など多数。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。

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