連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で、上白石萌音、深津絵里に続き3人目のヒロインを演じる川栄李奈。
「深津さん演じる“るい”とオダギリジョーさん演じる錠一郎の娘・ひなた役。『カムカム』は祖母、母、娘と3世代にわたる物語で、川栄さんは自分の“夢”を模索する女性役を演じています」(スポーツ紙記者)
2人目のヒロインだった“るい”を演じる深津や、オダギリも引き続き出演しているが、物語ラストのヒロインとして登場した川栄の演技はどうか。ドラマ評論家の成馬零一氏は、
「『カムカム』は登場人物に与えられた役割が明確に決まっていて、演じるのが難しいドラマだと感じます。川栄さんの前のヒロインは演技力を高く評価されている上白石さんと深津さん。この2人が非常にうまく演じていただけに、これまでのキャリア的に脇役の多かった川栄さんがどう演じるのか注目が集まっていました。期待値がどんどん上がってプレッシャーもすごかったと思いますが、キチンと作品の一部となる、いい演技をしているなという印象です」
AKBで一番のバカだった
“主役”として太鼓判を押された川栄だが、芸能生活のスタートはアイドルだった。
「15歳のとき友人に誘われAKB48のオーディションを受けたのですが“東京に遊びに行こう”くらいのノリだった。だから当初は“もう辞めたい”とコボしていたそうです。'12年には研究生から正規メンバーに昇格しましたが、AKB内の人気ランキングを決める選抜総選挙では圏外のままでした」(前出・スポーツ紙記者)
前田敦子や大島優子のように常に人気トップを走るアイドルではなかったが、あるとき転機が訪れる。'13年に出演した『めちゃ×2 イケてるッ!』(フジテレビ系)内の番組企画『抜き打ち学力テスト』でのことだ。
「篠田麻里子さんや渡辺麻友さんなど、総勢15名が受けた5教科で、500点満点中239点の川栄さんが最下位だったんです。“アルハラ”の意味を説明する問題では“男の人が急にアルパカをたたいた(強め)”といった珍回答を連発。AKBで1番のバカという“センターバカ”の称号を獲得し話題になりました」(アイドル誌ライター)
'14年の総選挙では過去最高の16位を記録。アイドル街道が軌道に乗ったかと思われたのだが……。
「岩手県で行われた握手会で、のこぎりを持った男に襲われました。手を負傷しましたが、いちばん重かったのは心の傷。事件以降、初対面の人と会うことができず、握手会に参加できなくなってしまった。その影響で'15年にAKBの卒業を決めたのです」(同・アイドル誌ライター)
卒業前にドラマ『ごめんね青春!』(TBS系)に出演したことで、女優として活動していこうと決意していた。だが、周囲の目は厳しかった。
「当時、記者の間でも“アイドルをやめて女優になるなんて難しいのでは?”との前評判がほとんど。『めちゃ×イケ』で共演した岡村隆史さんも卒業時に“おまえAKBやめて大丈夫か?”と先行きを心配して声をかけたとラジオで明かしていました」(前出・スポーツ紙記者)
稽古が止まるとすぐに子役と遊びはじめ
しかし卒業の翌月、初の主演舞台となった『AZUMI 幕末編』で、女優としての才能の片鱗を見せていたという。舞台の構成・演出を担当した岡村俊一氏は、
「事件や事象に対して、心の動きの素早さや反応が豊かで激しいんです。総合して言うと感受性が強く、表現力が素晴らしかった。主演ですから、2時間出ずっぱりな彼女の表情を追いかけて見る芝居でしたが、物語の流れに沿って表情がきれいに移り変わっていくんです。その演技はアイドルレベルではなく、まさに女優そのもの。まるで舞台に本物の“あずみ”が蘇ったかのようでした」
ほかにもこんな素顔が。
「舞台の稽古中は女優の顔をしているんですが、稽古が止まるとすぐに子役と遊び始めるんです。子どもが好きなんでしょうね。朝ドラも“川栄だ!”と思って見ていますよ(笑)。すごく成長したなと感じています」(岡村氏)
ドラマや舞台だけでなく映画やCMへの出演も増え、活動の場を広げていった。私生活では、舞台で共演した廣瀬智紀との結婚、そして妊娠を'19年5月に発表。順風満帆に思えたが、再び彼女の歩みに暗い影が忍び寄る……。
「結婚発表の数日後に『週刊文春』が廣瀬さんの2股交際疑惑を報じたのです。なかなか溝が埋まらず、一時は別居……なんて噂もありました。けど、今では仲よく過ごしているようですよ。小さなお子さんがいる中での朝ドラ出演は大変なこと。だからこそ、廣瀬さんが仕事をセーブして支えているそう。なんたって朝ドラヒロインは川栄さんの“夢”でしたから」(芸能プロ関係者)
作品によって演技の印象がガラっと変わる
朝ドラのヒロインオーディションへの挑戦は過去6回。今回は3061人の中から選ばれたのだが、彼女に決まった理由は何だったのか。
前出の成馬さんが説明する。
「日本では出演する俳優を決めてから脚本を書く“アテガキ文化”が根強く、極端にいえばキャスティングから入る作品のほうが多いんです。例えば、イメージが確立されている新垣結衣さんや綾瀬はるかさんは、彼女たちに合った脚本が用意され、その人しかできない役を演じるのです」
だが、川栄は違うという。
「川栄さんの場合は作品ありきで、その一部に彼女が入り込んでいく。だから出演する作品によって演技の印象がガラリと変わります。これは脇役を積み重ねてきた川栄さんのキャリアがあるからこそできること。なにより今回の朝ドラのような、普通の女性を演じさせたら、抜群にうまい。それが彼女の強みでもあると思います」(成馬さん)
さらには、アイドル時代に培った経験も演技に活きていると、成馬さんは続ける。
「“おバカキャラ”といわれていたころの川栄さんが発揮していたコメディーセンスが、今回の朝ドラでもすごく活きているなと感じます。安達祐実さん演じる大女優に説教されるシーンでも、しょうがなく“はぁ……すみません”と謝る姿は、とてもコミカル。これまでの出演作品では表に出してきませんでしたが『カムカム』では彼女が持つユーモアが前面に出ています」
天性の表現力に“おバカキャラ”で培ったユーモアセンス。そして、コツコツと積み重ねたキャリアという“3つの武器”があったからこそ、朝ドラのヒロインにまでのし上がった川栄。
もう脇役なんて言わせない。