上からBTS、下段左 イカゲーム(Netflixニュースルームより引用)、下段右 韓国の人気コスメ

 長年、アジアでトップを走ってきた日本が追い越されつつある。今、世界が注目するのは韓国だ。

 昨年、Netflixにて配信された韓国のドラマ『イカゲーム』は世界的な社会現象を巻き起こした。同配信サイトの視聴ランキングは韓国映画、ドラマが1位を独占。BTSやBLACKPINKといったアーティストたちが世界規模で活躍、日本のファンも多い。さらにはファッションやコスメ……。韓国カルチャーが日本国内を席巻する。

若手は危機感を……日本エンタメとの差

 今年1月、俳優の菅田将暉が「(韓国映画やエンタメと日本製との)その差は何だというところを、ちゃんと僕らは悔しがらなきゃいけないんだろうと思います」と発言し、話題に。それほどにまで日本のエンタメ業界は押され、危機感を抱いている若手俳優やアーティストなども少なくない。

 そこで菅田が指摘する「日韓エンタメ事情の差」について韓国エンタメ事情に詳しい古家正亨さんに聞いた。

「韓国エンタメが優勢な背景には、同国がこれまで培ってきた下地があったんです」

 まず、2003年〜'04年のドラマ『冬のソナタ』をきっかけに起きた韓流ブーム。

 次が'09年から'11年にかけてのKARAや少女時代ら『K-POPアイドル』たちの登場だ。彼女らの洗練されたファッションやスタイルは多くの若い女性たちを魅了した。

 そしてBTSらの登場。K-POPアーティストたちは若者たちの心をつかみ日本のアーティストたちよりも一歩前に躍り出たのだ。

 ただし、古家さんいわく、今回の流行はK-POPでも韓国ドラマでもないという。

「音楽やエンタメにとどまらず、ファッションやコスメ、食べ物までトータル的に韓国の大衆文化が日本で流行っている。これはエンターテイメントを介した韓国そのものの流行です。エンターテイメントの領域を超えて韓国というブランド力が社会に浸透していることが、これまでの流行との決定的な違いです

日本のエンタメ業界と差がついた原因

 その流行の中心を担うのが10代~30代の若い世代だ。

「これまでは韓国に対し、『反日』などのネガティブなイメージを持っていた層は少なくなかった。ですが、今の若い世代にはそうしたバイアスがまずない。純粋に自分たちが『よい』と思ったものを評価しているだけ」(古家さん、以下同)

 前述の菅田によるコメントのように韓国との差が如実に表れた現状には同国のアーティストやインフルエンサーらが世界から注目され、成功していることも関係している。

「K-POPアイドルになりたいと韓国に行く日本人は年々増えており、理由を尋ねると“世界が近い”と答えます。日本にいて世界を目指せる術があればわざわざ韓国に渡る必要はない。でも、現状の日本から世界に進出することが難しいのです」

 若者たちは韓国に自らの夢の希望を見いだしているのだ。

「日本にも才能のある人は山のようにいる。ですが彼らを活かすことができない業界にも問題があるんです」

 日本のエンタメ業界がこれまで戦略的にアジアをターゲットに展開してこなかったことも差がついた要因のひとつとして考えられるという。

 これまで韓国は早い段階からアーティストを育成、世界規模でイベントやライブ活動を精力的に行っていた。

「このブームで韓国芸能界が将来を見据えて投資していたものを回収している状況です。日本も海外向けに積極的な戦略をとっていたら状況は変わっていたかもしれない。流行はエンタメから発信するところが大きいのですが、日本国内のカルチャーを動かす人たちに先を見据えたセンスがないのも課題でしょう」

若いアーティストらは危機感を持っているのだが……。

「日本のエンタメや芸能システムは'70年代から変わっておらず、上の人たちはあぐらをかいたまま。現在の国内ではチャンスも限られている。当然、優秀な人材は流出します。日本も若い世代を軸に仕掛けていかない限り、韓国を追い越せないでしょう」

 では今後、日本は何をしなければいけないのか─。

「もっと国外に対して、積極的に動いていかないと世界から取り残されていくと思います。ただし、短期的に収益を上げようといま流行っているものに迎合する流れは問題です。日本人自身が新しい流行を作る必要があります。そのためには世界に通用する日本の資源を見極め、発信するプロデューサーが必要です」

 一方で面白い現象も起きているという。韓国では日本のシティポップをはじめとする音楽や地下アイドル文化に脚光が当たっているという。日本だけが韓国の影響を受けているわけではなく、互いに影響を受け合っていることも多いというのだ。

 反発ではなく、よいものを取り入れ、切磋琢磨することで日本から新たに生み出されるものがきっとあるはずだ。

通販サイトも話題!韓国ファッション

「LAOXBEAUTYAIRPORT」自由が丘店の店内。韓国、中国、タイなどアジアコスメを取り揃え、日本初の商品もある(ラオックス株式会社提供)

 楽天のフリマアプリ「ラクマ」が昨年7月に調査した『ファッションの参考にする国』では、国内の10代~40代、60代の女性の第1位が韓国という結果だった。

「韓国ファッションの魅力は安くて気軽に買えること。それに国内では見られない新鮮なデザインや色使いなどもウケています」(ファッション誌ライター)

 それに、同国のタレント、インフルエンサーのファッションから受ける影響も大きい。

「韓国アイテムを集めたアパレルブランドの通販サイトも人気です」(同・前)

 ファッション同様、コスメも10代後半から20代の女性を中心に支持されている。

スタイル バイ アイアン ブルーシングパウダー。韓国のアイドルや俳優らが愛用しているブランドのフェイスパウダー(ラオックス株式会社提供)

 免税品店で知られるラオックス株式会社は今年1月、アジアコスメ専門店「LAOX BEAUTY AIRPORT」の2号店を東京・吉祥寺にオープンさせた。同店では韓国、中国、タイ、台湾のアジアコスメを120ブランド1300商品そろえている。中でも韓国コスメは売り場の7割を占めているという。

ミュード インスパイアロングラッシュカーリングマスカラ。韓国の人気インフルエンサー、レミがプロデュースしたコスメブランドのマスカラ(ラオックス株式会社提供)

「特徴は低価格で商品の質がいいこと。それにパッケージも可愛い。“映える”アイテムが多いんです」(広報担当者)

 例えば、アイシャドー。複数色が入ったパレットタイプが人気。1000円台〜2000円で買えるのも魅力だ。韓国発祥のクッションファンデーションやティントのリップ、アイブロウは発色もよく、色落ちしにくくマスクにつきにくいものも多い。

 フェイスマスクなどスキンケアアイテムはリピーターも。

「フェイスマスクだけで180種類をそろえています。美容液が多く含まれており、人気です」(広報担当者、以下同)

 とはいえ、まだ韓国コスメを使ったことがない人も多い。

「試してみよう、と思ったときに手軽に購入できる価格帯なのも特徴です。現地では40代、50代の方も当然使っておりますし、娘さんと一緒にお母さんが使ってもいいかもしれません」

教えてくれた人は……古家正亨さん
●ラジオDJで韓国大衆文化ジャーナリスト。韓国観光名誉広報大使も務める。ラジオやTV出演の傍ら大学でも教えている。約20年以上にわたり、K-POPの魅力を紹介している