「ピッピッピ」「チュンチュン」「チッチッチー」――。
小鳥の声がオーケストラのように響き渡る、マンションの一室。ここは、埼玉県戸田市にあるNPO法人小鳥レスキュー会の保護施設だ。500羽を超えるセキセイインコをはじめ、文鳥やアヒルなどの計約700羽が、代表理事の上中牧子さんやボランティアの手によって第二の人生を歩み始めている。
コロナ禍で増え続ける「捨て鳥」
「ケガをして救助した野鳥やブリーダー崩壊で保護した鳥もいますが、多くは飼い主に捨てられた鳥たちです」と上中さんは言う。新型コロナによる自粛生活で家にいる時間が長くなって小鳥を迎えたものの、すぐに手放す飼い主も少なくない。
「コロナ禍に入って保護する鳥の数は増えています。飼育放棄の理由は、仕事を失って生活に余裕がなくなったから、離婚して引っ越した先がペットの飼育禁止だから、飼ってはみたけどイメージと違ったからなど。
イメージと違うというのは、手に乗るはずなのに乗らない、インコなのにしゃべらないといったことです。猫を飼ったから小鳥はいらなくなったという人もいました」(上中さん、以下同)
新型コロナだけでなく、上中さんが動物の保護活動を始めた20年前からは想像もつかない理由で鳥を手放す飼い主が、最近は増えているという。
「SNSがきっかけで飼った人ですね。たとえば、鳥に産ませた卵が孵(かえ)るまでのドキュメンタリー映像を見た子どもが、夏休みの自由研究に同じことをしたいと家族にせがみ、鶏を飼ったケースがあります。
ヒナが無事に誕生して課題としての役目を終えると、“大きくなりすぎて飼いにくい”、“大声で叫ぶオスだったので近所迷惑になりそう”と、あっさり飼育を放棄するのです。
美声で歌うオカメインコのSNS投稿動画に惹かれてオカメインコを飼ったものの、“歌わないからSNSで使えない”と文句を言う人もいました」
鳥を“映え目的”の道具として手に入れ、使い捨てる飼い主が急増しているのだ。
数千円で買えるという手軽さがアダに
小鳥が多く捨てられる理由として、犬や猫に比べて販売価格が安い点も挙げられると上中さんは指摘する。
「ペットショップでは子どものお小遣いでも購入できる、数千円という金額で文鳥やセキセイインコが売られています。気軽に買えますが、病気になったときの医療費は決して安くありません。
実際に“治療に8万円かかると動物病院で言われたから、健康な小鳥を購入しなおす”と言って、当施設に病気の小鳥を連れてきた飼い主もいました」
ペットショップで売れ残っていたコザクラインコを迎えた鳥好きのカメラマン・蜂巣文香さんは言う。
「コザクラインコのさくらこが5歳になったころ、初めて無精卵を産んだんですが、私は海外出張中で、夫から国際電話が突然かかってきました。『朝、さくらこがぐったりしていたから動物病院にきたら、卵管に卵が詰まっていて緊急手術が必要になるかもしれない。同意するよね?』と。処置が10分遅かったら命の危機があったそうです。もちろん同意しました」
結局、手術をせずに済んだそうだが、一般的にインコ類の卵詰まりの処置料や手術入院料は数万~10万円近くかかる。蜂巣さんは万が一の出費も考慮のうえコザクラインコを飼っていたが、その覚悟なく飼い始めてしまう人が多いのだ。
上中さんは、鳥は産卵について注意すべき点があるという。
「鳥はメス1羽だけで飼っていても、栄養状態が良好だったり、飼い主やおもちゃをパートナーと勘違いしたりすると、発情して無精卵を産むことがあります。卵を産み続けるとメスの体に大きな負担がかかるので要注意です」
ヒナを育てるのも簡単ではない。
「自由研究の題材だけでなく、SNSのネタづくりなど、軽い気持ちでセキセイインコや文鳥に有精卵を産ませる人も少なくありません。愛鳥の子孫が欲しいという人もいるでしょう。けれども、ヒナを育てるのは大変です。
母鳥の世話が行き届かない場合、1時間置きに人工授乳をしないと死んでしまいます。成鳥にも増して、温度管理も重要になります」
また、親鳥同士が近縁の場合に起こりやすいが、目が見えない、足がないといった奇形で生まれる小鳥もめずらしくない。小鳥レスキュー会にも、奇形が理由で一般家庭からヒナが持ち込まれるケースが後を絶たないという。メスを飼うならば無精卵も含めて産卵の知識、つがいで飼うならば繁殖に関する知識は飼い主の責任として必須だ。
ペットを販売する側も、その生き物の生態や飼養に関する正しい知識をしっかり伝え、飼う側も事前によく調べてから購入するようにしなければ、飼育放棄はいつまでも減らないだろう。
小鳥レスキュー会の保護施設の一角には小さな骨壺が並んでいる。
「この施設で病気や寿命で旅立った鳥たちはすべて火葬しています。その遺骨が骨壺ひとつに20羽分ずつ入っています。
そのうち160羽分は、10年ほど前、脳梗塞で倒れたブリーダー宅に駆け付けたときに息絶えていた文鳥のものです。文鳥は2日間エサを食べられないと衰弱死してしまうのです。
でも、運よくまだ生きていた190羽はこの保護施設に連れ帰りました。その鳥たちはブリーダーによって大きなケージで飼われていて、狭いケージに入ったことがないので、ストレスを与えないよう、ここでは室内で放し飼いにしているんですよ。なので、取材にきた人には落ちてくる糞に気をつけてと言っています(笑)」
700匹の世話代は月150万円
「保護鳥を家族に迎えたいと望む方も最近、増えています。譲渡までのプロセスとして、会員を1年間ご継続いただいたのち、複数回の面談を行っています。
正式譲渡までいく里親さんは応募の半数にも満たないのですが、高いハードルを課したことで、新しい家庭で小鳥たちは幸せな日々を過ごしていると思います」
保護施設で小鳥の世話をしたいと希望するボランティアも、増加傾向だ。
「700羽の世話をするのに、1日18時間、1か月で150万円がかかります。ボランティアの方々、そして会費や寄付を納めてくださる方々のおかげで、小鳥たちはこうして元気に毎日さえずっていられるのです」
小鳥とはいえ、近年は15年近く生きるセキセイインコもめずらしくなく、オカメインコの寿命は犬や猫よりも長く、20~30年だ。コロナ禍でのライフスタイルの変化やSNSの影響など、人間の都合だけで安易に飼い始めず、鳥たちの理想的な家族に自分がなれるか、よく考えたい。
(ライター 臼井京音)