ドラマでよく見る「毎朝新聞」は実在していた! 「架空のブランド」について徹底調査してみました

「このドラマはフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません」

 どのドラマの最後でも、これとほぼ同種のテロップを見かけますよね。最近では「このドラマはフィクションですが、40歳からの恋は存在します」(テレビ東京系、『シジュウカラ』)のように、ちょっと遊び心を添えて出されることもあります。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 コレがいつから出されるようになったのかについては、特撮ヒーロードラマ『超人バロム・1』(日本テレビ系/1972年)がキッカケとされることが多いようです。このドラマに登場した怪人と同じ名前の外国人の子どもが学校でいじめられたとテレビ局に抗議が寄せられたことで、このテロップが出されるようになったという説(抗議そのものは事実)ですが、どうやらこれは誤情報。実際は1960年代から見受けられたみたいですよ。

 ドラマ制作サイドも「実在しない」と明記しているとはいえ、諸事情により、ドラマに登場する人物・団体名は架空のものにすることがほとんどです。マァ人物名を架空にするのは当然として、企業やブランドなどの名前が、現在どんな形でドラマに登場しているのか……筆者のマニア心がくすぐられ、この数ヵ月にわたり調べてみた次第。

ドラマに出てくる「毎朝新聞」は実在していた!

 かつて、ドラマの中でスクープ記事が掲載される場合、ほとんどが新聞でした。その新聞の名前の定番といえば「毎朝新聞」ですよね。毎日と朝日をミックスさせた感じで、字面も語呂も良いためか、頻繁に使用されてきました。

 最近でも『緊急取調室』(テレビ朝日系)などで“健在”ですが、実はこの毎朝新聞、実在していたんですよね。1978年3月に徳島県にあった毎朝新聞社が発行を開始し、2008年8月に廃刊となるまで30年にわたって実在していたんです。

 この実在の事実が一部のメディアで取り上げられたからか、徐々にドラマの中の「新聞名」も多様化しているようで、最近では、「白泉新聞」(テレビ東京系『ただ離婚してないだけ』)や、「東都新聞」(フジテレビ系『アバランチ』)などといった新聞が登場しています。

 ですが、スクープ記事という点で、現実の世界で存在感を増しているのは週刊誌ですよね(“文春砲”が流行語大賞にノミネートされたのは2016年のこと)。

 そんな風潮も反映してか、ドラマの中にも様々な「週刊誌」が登場。最近では、「週刊現実」(TBS系『TOKYO MER~緊急救命室』)、「週刊追求」(日本テレビ系『真犯人フラグ』)、「サンデー毎朝」(TBS系『日本沈没-希望のひと-』)などなどが活躍しています。

 近年のドラマで欠かせないアイテムといえば、スマホやパソコン。そして、「検索エンジン」ですよね。登場人物たちが、様々な事柄を“検索”する場面は頻繁に登場してきます。そのスマホやパソコンの画面上に表示される検索エンジンの“架空ブランド”についても、大調査してみました。

 以下、最近のドラマからリストアップ。

・GANGLE(テレビ朝日系『あのときキスしておけば』)
・GUUGLE(日本テレビ系『カラフラブル~ジェンダーレス男子に愛されています』)
・Saagle(NHK総合『ひきこもり先生』)
・QUICK SEACH(テレビ東京系『春の呪い』)
・Good Me!(TBS系『TOKYO MER』)
・Searchers.com(日本テレビ系『ボイスII 110緊急指令室』)
・Yahhoo!(TBS系『日本沈没』)
・Jungle(テレビ朝日系『言霊荘』)
・Engine.japan(テレビ朝日系『和田家の男たち』)

……などといった具合。「Yahhoo!」なんて、スレスレな線を攻めていますよね(笑)。それぞれ、ロゴのデザインや色合いなども工夫していて、一見した限りでは実在する検索エンジンと区別がつかないほどです。

 また、“架空検索エンジン”中で最も人気が高いのが「Search」でした。確認できただけでも、『准教授・高槻彰良の推察』(フジテレビ系・WOWOW)、『ハコヅメ~たたかう!交番女子』(日本テレビ系)、『ゴシップ ♯彼女が知りたい本当の〇〇』、『ミステリと言う勿れ』(ともにフジテレビ系)に登場していました。

ドラマの中の「ビール」の銘柄

 近年のドラマで激減したのが、登場人物の喫煙シーン。最近では、『アバランチ』の羽生誠一(綾野剛)、『ここは今から倫理です』(NHK総合)の高柳先生(山田裕貴)、『ゴシップ』の根津道春(溝端淳平)、『ケイ×ヤク』(日本テレビ系)の国下一狼(鈴木伸之)と英獅郎(犬飼貴丈)ぐらいしか喫煙者はいません。

 対して、飲酒シーンは学園モノや医療モノを除けば、ほぼ全てのドラマに登場。中でも、登場人物が缶や瓶のビールを飲むシーンは非常にたくさんありました。

 さて、そこに登場するビールのブランドですが……これは、ビールのCMに多くの人気俳優が出演していることが影響してか、架空になっていることがほとんどです。これについても、最近のドラマを俎上に乗せ大調査を敢行しました。

・SUN BEER(日本テレビ系『イタイケに恋して』)
・GREAT BEER(日本テレビ系『ボクの殺意が恋をした』)
・MUSASHI(日本テレビ系『ハコヅメ』)
・マイキービール(テレビ朝日系『ザ・ハイスクール・ヒーローズ』/看板のみ登場)
・KUMCI(TBS系『婚姻届に判を捺しただけですが』)
・SUNNY(日本テレビ系『アンラッキーガール』)
・Originary Beer(日本テレビ系『真犯人フラグ』)
・DRUNKEN(テレビ東京系『シジュウカラ』)
・Gamiras‘s(NHK総合『カムカムエヴリバディ』)

 劇中、なかなかビールがアップで映ることはありません(日本テレビ系に限って、比較的多いのはなぜ?)し、判別しにくいものも多かったのですが、確認できたのは以上のものでした。

「KUMCI」というのは意味不明ですが、恐らくKIRINからインスパイアされたものでしょうか?

 また、ここでも“人気ブランド”があります。それが「AKEBONO」です。『うきわ-友達以上、不倫未満-』(テレビ東京系)、『おいハンサム!!』(フジテレビ系)と局の壁を超えて登場しています。ちなみに、この「AKEBONO」と似た「HINODE」(両方とも「ASAHI」をリスペクト?)は、NHKの朝ドラでは定番のブランドです。

実在の銘柄が登場することも

 そんななか特に興味深かったのが、実際にSUNTORYのCMに出演中の小栗旬と、KIRINのCMに出演中の杏が共演した『日本沈没』に登場するビールです。

注視していたところ、小栗旬が1人で飲むシーンでは、実際のSUNTORY(ザ・プレミアム・モルツ)で、小栗と杏が共に飲むシーンでは「IKINAMA」という架空ブランドになっていました。

こうしてドラマの中の“架空ブランド”に注目してみると、美術(小道具・持道具)スタッフの苦労と、遊び心が感じられ、感心するとともに、筆者のマニア心は十分満たされました(笑)。


小林 偉(こばやし つよし)Tsuyoshi Kobayashi ◎メディア研究家
メディア研究家、放送作家、日本大学芸術学部講師。東京・両国生まれ。日本大学藝術学部放送学科卒業後、広告代理店、出版社を経て、放送作家に転身(日本脚本家連盟所属)。クイズ番組を振り出しに、スポーツ、紀行、トーク、音楽、ドキュメンタリーなど、様々なジャンルのテレビ/ラジオ/配信番組などの構成に携わる。また、ドラマ研究家としても活動し、2014年にはその熱が高じて初のドラマ原案・脚本構成も手掛ける。