3月7日、Twitterのトレンドに突如上がった「GUCCIの財布」というワード。今、その「GUCCIの財布」を巡って一部で“論争”が起きている。
ことの発端は、高校生の娘を持つ父親のとあるツイート。内容としてはこうだ(現在は削除)。
『高1娘が誕プレにGUCCIの5~6万の財布を「みんな持ってる」とねだってきて断ったら泣いてたが、こういうのはバイトなりで先ずお金を貯めて最後の一詰のところでねだるべきだしそもそも高校生には早い、と。物欲感覚崩れるとP活の危険も。。最近の中高生はやはりネットでいろいろ狂うんだよな。』
(※P活とはパパ活のこと)
これに対しネットでは、〈高校生にGUCCIは早い〉〈高1の誕プレに5〜6万…金銭感覚やべーな〉という意見があった一方で、〈高1でグッチの財布は、普通では〉〈誕生日でしょ? そのくらい買ってあげないのは可哀想〉という真逆の意見が。さらには、つぶやきにあった「買ってあげない=パパ活を心配」という構図に疑問の声も挙がった。
そのさまざまな意見は当然、ツイート主の元へも多く届いたわけだが、探っていくと、そのツイートには140文字のつぶやきには収まりきらない父親としての思いが込められていた。
「普段から、ツイッターや自身のnoteに親子関係や教育に関することを書いていていたんです。今回もそのうちの何気ないひとつのつもりでした」とは、ツイート主のこゆるぎ岬さん(@o_thiassos)。次第にツイートは一人歩きしていき、炎上。中にはひどい誹謗中傷をしてくる人も。今回の一連の騒動について、本人に話を聞いた。
見合った消費感覚を理解させておきたい
――GUCCIのツイートに大きな反響がありました。つぶやきによると、娘さんのおねだりを断ったとのことですが、そこにはどんな思いがあったのでしょうか。
「私は高校1年生にハイブランドの財布を無条件に買い与えるということはしたくありませんでした。お財布を買ってあげることはできますが、生まれや育ちが上層でもない私は、イチ社会人として、親として、“身の丈にそぐわない高い物品を簡単に手に入れる”ことで金銭感覚・消費感覚が崩壊することを危惧しています。それに、子どもの人生を長い目で見たとき、そのリスクは軽くないと思うんです。
ただ、なんでもかんでも買わないというわけではありません。子どもの習い事、学習塾など子育てには高額な費用がかかりますが、そういうことには必要十分な支出をしています」
――中には「お財布くらい買ってあげてもいいのでは?」という意見もありました。
「これはこの財布ひとつの話ではないと思っています。
欲しいものを安易に与える前に、労働の対価として受け取る賃金とそれに見合った消費感覚、労働の大変さというものを十分に理解させておきたい。
ごく普通の庶民として社会を生きていくうえで、賃金労働で6万円を稼ぐとはどういうことか。アルバイトが時給1000円だったとしたら、60時間働いてやっと手にできるものです。そういう感覚を持つ前にブランド財布はまだ早いんじゃないか、これが娘のおねだりを断った理由です」
“みんな”とは2人だけだった
――ただ、子どもからの“みんなが持っているから”というのは、親として引っかかる部分だと思います。SNSでも「みんなが持っているのに買ってあげないのは可哀想」なんて声もありましたが、それについてはどう思われましたか?
「娘とあとから話してわかったことですが、“みんな”とは学校の友達2人でした。もちろん同級生が手にしているものを持てない疎外感はあると思います。
例えば、娘はバイトをしているので、“バイトでお金を貯めたけど、どうしてもあと少し足りない!”というおねだりだったら、買ってあげたかもしれません。いきなり“みんな持っているから買って”とは、話が違うと思うんです」
――ツイートでは、パパ活について心配されていましたが、そのあたりも娘さんにはお話されたのでしょうか。
「私は、財布を与えない=パパ活をするのでは? という心配ではなく、先にお伝えしたように消費の感覚が狂ってしまうことに危険を感じています。
思春期である高校1年生の子どもと、パパ活という“性行為”に結びついてしまうような話をするというのは、ものすごく困難です……。直接的にはパパ活という言葉を使ってはいませんが、言葉に気をつけながら、自分の思いを伝えました」
――おねだりを断られた娘さんは、少し泣いてしまったとのこと。今回の一件で親子関係にヒビが入ったりはしませんでしたか?
「特に関係に変化はありません。小さいころから会話をたくさんすることを心がけ、関係を築いてきたので、財布の件に関しても心から腹を割って話すことができました。今回の炎上の件も娘は知っているのですが、そのことも笑い合いながら話しました。
あのツイートのあと、あらためて“本当にあの財布、ほしい?”と聞いてみたんです。そしたら“やっぱりまだいいや”と言っていました。よくよく考えるとデザインも心から好きなわけじゃないし、やっぱり高いし、自分が本気で可愛いと思えるものを探すね、と。
娘との話し合いの結果、今回の誕生日はディズニーのチケットがいいということで、そちらをプレゼントすることになりました」
――普段からたくさんコミュニケーションを取っているからこそ、お父さんの思いが娘さんにも通じたような印象があります。いつもの父娘関係はどのような仲なのでしょうか。
「普通に仲よしですよ。2人で映画を観に行くこともあれば、スイーツを食べにいくこともあります。
また以前から、“お父さんの誕生日に、バイト代で何かプレゼントを買ってあげるね”と娘が言っていたんですが、さきほど公言どおりウエストバッグをもらい、涙が出そうになりました。娘が私に対してどう思っているのかは、娘にしかわかりませんが、私は良好な関係が築けていると思っています」
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子育てに正解はないが、こゆるぎ岬さんに話を聞くと、理想とも思える父娘関係が見えてきた。しかし、SNSではどんなことにも批判はつきもの。今回の件でこゆるぎ岬さんの元には〈こんなゴミでも結婚できるんだ〉〈娘にセクハラしてるだろ〉〈5~6万の財布を買えないのに子どもを産むな〉〈子どもは良い父アピールの道具〉といったような多くの誹謗中傷が。騒動を経て、最後にこんな思いも話してくれた。
「インターネットは誰もが自由に発言をできますが、ちょっと見かけたほんの一部のことで赤の他人を断罪して、追い詰め、社会的に抹殺できてしまうものなんだなと……。GUCCIを高1の娘に買い与えるか? だけで人格否定もできるし、子どもへの中傷もできてしまう。そういう時代の中、親子の人間関係を構築したうえでリテラシーを教えていくのも、教育として大事なことなのかなと思いました」
多くの議論を生んだ今回の “GUCCIの財布”論争。もし自分が親の立場だったらーー。あなたは子どもに、どう答えただろうか。