第21回 木下博勝医師
プロレスラー・ジャガー横田と医師の木下博勝夫妻の長男、大維志くんが高校受験の結果をSNSに公開し、話題を呼んでいます。
3月11日現在、5回受験し、全部不合格。3月7日放送の『バイキングMORE』(フジテレビ系)によると、ジャガーは「私ははっきり反対したかったです」と不合格を発表することに反対だったようです。しかし、父親である木下氏は3月1日に配信されたYouTube「ジャガー横田ファミリーチャンネル」のインスタライブで「今の時代は何でも表に出す時代ですよ」「これ、誰かに迷惑かけてますか?」「親は応援する立場を貫く」と述べるなど、公表に好意的なようです。「ヤフーニュースもすごいですよね、連日出ていますから」と笑顔を見せていたことを考えると、お父さん主導で公開しているという印象を私は受けました。
ご家庭の判断と言ってしまえばそれまでなのですが、一連のこの公表劇、ヤバさを含んでいるような気がしてならないのです。
受験エンタメとして成立していないのでは
大維志くんといえば、中学受験に挑戦する姿を『スッキリ』(日本テレビ系)が密着して、受験エンタメ化した実績があります。受験というのはそもそも数字が取れるコンテンツですし、彼のような有名人のお子さんは知名度がありますから、そういう子の挑戦は視聴者もより感情移入がしやすいでしょう。大維志くんは中学受験の際のノリで、高校受験の結果も公表しているのかもしれません。
もし受験エンタメを狙っての公表だとしたら、失敗と言わざるをえない。というのは、受験エンタメに必要なのは「受かること」であり、「1校も受からない」のでは見ている側は気の毒で感情移入できないからです。
受験エンタメを狙っているとしたら、受験生の親も受験システムを熟知する必要があるでしょう。2021年12月7日配信の「ジャガー横田ファミリーチャンネル」で、木下氏は中学校の三者面談に行ったことを明かしています。大維志くんは内申点が足りなくて、第一志望校、第二志望校の変更を余儀なくされましたが、木下氏にとっては青天の霹靂だったようで「うちなんか正直、志望校以外、何も調べていない」「もう、そこ受けて、そこ合格するもんだと思っていた」そうです。内申点の比重を受験生の親が知らないってヤバいことなのではないでしょうか。
このほかにも、内申点を基準にする併願確約の制度を12月の段階で知るなど、全体的にリサーチ不足の感が否めません。受験は情報戦ですし、テクニックも必要です。木下氏は3月1日のインスタグラムで、《塾長から、20年以上この仕事してるけど、チャレンジ校だけ受けた訳では無いけど、滑り止めを受けなかった高校受験は初めてみたと言われた》(原文ママ)と明かしています。この一文から察するに、大維志くんは塾のセオリーを気にせず受験したと見ることもできるはずです。
木下氏は2021年12月7日配信の「ジャガー横田ファミリーチャンネル」で、「三者面談を受けたことがない。自分はものすごい優秀だったので、学校の先生はわざわざ自宅に来てくれたんですね」と話していました。優秀を自負しているだけに、受験は自分の得意分野だと思っているのかもしれませんが、時代は変わっています。「餅は餅屋」ということわざがありますが、プロの言うことを素直に聞いたほうがよかったのではないでしょうか。
大維志くんのイメージを悪化させているように見える
「ジャガー横田ファミリーチャンネル」では、大維志くんは学校の先生に対し「公務員のおまえらふざけんなよ」というなど、大人に対して挑戦的な物言いをしています。批判を集めそうな発言で目立って、再生回数を伸ばすことはYouTubeでは定番のテクニックでしょうし、15歳であることを考えると、社会や大人に対して批判的になるのは大人になるためのプロセスの1つです。それに、動画を最後まで見ると、内容はそれほど過激でないことがわかるのですが、世の中のすべての人がきちんと動画を見てくれるわけではありません。こうなると、学校の先生など、名指しして批判された側のオトナに先入観を持たれて、扱いにくい子だと警戒されてしまうのではないでしょうか。
また、世の中というものは人を判断するとき、学歴や見た目、年収など社会的な評価を無意識に絡めてしまいます。15歳の少年の多少の生意気は許されますが、そこに「受けた高校を全部落ちた」という事実が合わさると「口ばっかりで実力がない」というイメージが定着してしまうかもしれません。今の状態ははからずも、大維志くんと木下氏で協力して、大維志くんの悪いイメージを作り出していると言えるのではないでしょうか。
受験というのはブラックボックスな部分もありますから、進路が決まるまではおとなしくしていたほうがいいのではないかと思うのですが、「ジャガー横田のファミリーチャンネル」は、違う意味のヤバさも秘めているように思えるのです。
フラットな関係の“仲良しファミリー”なのか
上述した三者面談で、木下氏と大維志くんは学校の門の前で待ち合わせをしたそうです。三者面談は12月ですから、寒い時期です。しかし、10分前になっても姿を見せないことから、木下氏は大維志くんに電話をしたそうですが、そのとき、まだ彼は家にいたそう。木下氏は「何考えてんだよ、この寒いのにお父さんを待たせて」と言ったそうですが、三者面談の重要性から考えると、一般的な第一声は「三者面談に遅れて、先生をお待たせしたらどうするんだ」ではないでしょうか。
ジャガーにも似たような部分が見受けられます。2021年9月19日配信のYouTube「ジャガー横田ファミリー切り抜き」で、一家は『週刊文春デジタル』によるパワハラ疑惑報道を振り返っています。当時、訪問診療をしていた木下氏は准看護師の男性と車で移動していたそうですが、木下氏は男性の車のドアの閉め方が気に入らなかったそうです。「そういう風に閉めたら耳がおかしくなるだろ、お前。考えろ」と指導、准看護師の男性は「はい」と謝ったそうですが、「『はい』って言ってるけどな、鼓膜敗れたらお前、金払えんのか? 医者の給料なんぼだと思ってるんだよ。お前、払えると思ってんのか慰謝料」と言ったという“暴言”の音声が流出したのでした。
ジャガーは「現在、文春と裁判中なので細かくは言わない」としつつ、「うちの先生(木下氏のこと)は唯一の〇〇クリニックの医師だったんだから、先生の指導の下やるのは当たり前なんだよ」「これでムカついているのは、妻の私だから」と木下氏を支持しています。
法律の専門家がどう判断するのかはわかりませんが、私の感覚では、ドアを閉める音がうるさかったとしても、「医者の給料なんぼだと思っているんだよ」というのは言い過ぎではないかと思います。「保健師助産師看護師法」は看護師は医師の指示のもとに医療行為を行えると定めていますから、仕事上の上下関係が生まれることもあるでしょう。しかし、それは「医師に何を言われても、指導だと思って耐えろ」ということとは違うと思います。
三者面談のエピソードから、木下氏は「自分は常に敬われるべき」という価値観を持っているように見えますし、ジャガーも「医者は何をしてもいい」と解釈しているように感じられます。YouTubeでは、大維志くんが生意気を言い、ジャガーとケンカになり、木下氏がいさめることから、フラットな関係の仲良しファミリーに見えますが、その一方で、実はこの一家は序列がはっきりしていて、ジャガーと大維志くんは「医師である」お父さんには逆らえないのかもしれないと感じられるのです。
大維志くんに話を戻しましょう。まだ受験のチャンスは残っていますし、今は勉強する方法も場所もたくさんありますから、決して悲観的になることはないと思います。SNSはメンタルヘルスの悪化を招くという調査結果もあります。何よりも自分のために、今は受験に集中してほしいと思わずにいられません。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」