前回、これまでの卒業式(もしくは練習)は「やりすぎ」だったのでは、という話を書いたところ、とても大きな反響がありました。
(前回の記事『卒業式の練習は“やりすぎ”だった!? コロナ禍で短縮化されて気づいた「先生たちのホンネ」』参照)
コロナ前、特に小・中学校では、証書を受け取るときの作法や入退場の仕方、呼びかけ(群読)や歌の練習に多大な時間が費やされてきました。しかし、コロナ禍でそれらが短縮・削減されるようになり、「これで十分」「これまでやりすぎだったのでは」と感じる先生たちが増えているというエピソードに、共感の声が続出したのです。
ヤフーニュースのコメント欄や、SNSでは、保護者からも、教職員からも、そのほかこれまで卒業式を体験してきたさまざまな人たちからも、たくさんの感想・意見が寄せられました(ヤフコメは約800件弱、うち表示は500件強)。
「来賓」の挨拶や紹介、祝電披露が長い
具体的に「卒業式の何を削るか」については意見が分かれるところですが、コメントで「これは明らかに多い」と感じたのが「来賓の招待は不要」という声でした。「来賓」というのは、卒業式に客として招かれる人全般を指しますが、コメントでは主に「壇上に上がって、みんなに挨拶するような人」――地元の議員さんや自治会長などについて、言及しているようでした。
では、なぜ「来賓の招待が不要」という意見が多いのか? もっとも多かったのは「挨拶(祝辞)が長いor不要」という理由です。
●自分の学生時代を思い返しても、式での来賓の挨拶は苦痛だった。お偉方がかわるがわる壇上に立つたび、こちらも立って頭下げて座ってを繰り返し、早く話が終わらないかとずっと考えていた
●園長挨拶に加え、市役所の部長・課長クラスや、市議会議員の挨拶や紹介。子どもたちは初めて見るような人の話を、相手の目を見て姿勢を維持して聞かないといけません
●初めて会った地域の議員やら町会のオジサンたちの話を、何十分も立ちっぱなしで聞かされる中、寒い体育館で貧血になってバタバタ倒れて運ばれて行く生徒たちがいる
児童・生徒にとっても、保護者や教職員のほとんどにとっても、来賓は普段接点がない人ばかりです。卒業式のときだけ挨拶されても、あまりありがたくはない、というのが本音でしょう。
挨拶だけでなく、「来賓の紹介、入退場が長い」という声もありました。
●来賓の紹介と挨拶はいらない。祝電披露もいらない。コピーを配布するので充分
●田舎の小学校の入学式で驚いたのは、来賓の多さです。来賓数が新入生の3分の1~半数近く? 来賓の入退場に本当に時間がかかりました
言われてみると確かに、紹介だけでも一人ずつ立ったり座ったりお辞儀をしたりで、意外と時間をとられます。祝電だってわざわざ読み上げなくとも、書面等で配布すれば十分でしょう。
なお来賓の問題については、現場の先生たちは、口にしにくいところもあるようです。
●私が「コロナで、卒業式の来賓祝辞がなくなったのはいいですよね」と言ったら、「先生がそんなこと言っていいんですか!?」と言われました。教員だって、来賓紹介や祝辞の時間は「長い!」と思います
●職員として言ってはいけない気がしますが、(来賓挨拶は)正直必要なのかと
来賓がいくら「えらい人」や、地域に貢献している人だったとしても、卒業式に出てもらうべきかどうかというのは、また別問題でしょう。でも先生たちは立場的に、そんな疑問を表に出しづらいようです。
コロナ禍で「来賓なし」に、どうだった?
そして、コロナ以降。やはり「来賓なしの卒業式を実際に経験して、よかった」というコメントが、たくさんありました。
●式典には何度も参加しましたが、コロナ後の卒業式が一番良かったです。来賓をやめ祝辞やらなしにするだけで、卒業する子ども達が主役になりましたし、先生方が子ども優先で工夫を重ねた様子が伝わり感動しました
●一斉休校中の高校の卒業式、中学の卒業式が1時間くらいで終了したのは、良かった。来賓の祝辞もなかったし、毎年これでいい! と思いました
●「来賓」の一部にいる「式典の時だけ来て細かい文句を言う人たち」を招待しなくてよくなった、のが一番大きい。選挙前だけ来る分かりやすい「来賓」もいた
ほかたくさんの同様のコメントを見ていると、「どうして今まで来賓の挨拶があったのか?」とすら思えてきます。一部の保護者や先生、あるいは来賓自身の要望だったのか? あるいは「来ていただくからには、挨拶してもらう場をもうけねば、失礼にあたる」という忖度が、慣習的に続いていたのでしょうか。
さらに、来賓が出席することによって、式全体が「来賓の評価を気にするもの」になっていたことも、コメントから浮かび上がってきました。
●一番卒業式の批評をするのは実は地域の議員だったりする。しかも、教育委員会を相手に批評するので、校長が指導されることに。整然としていないと教師の評価が下がる
●来賓って地域の重鎮だったりするから、管理職もPTAも、粗相があってはいけないと接待でピリピリします
●見映えばかりを意識しすぎて生徒の卒業というよりか来賓などに対してのお披露目式のようでした
気を遣うのは、式のときだけではありません。準備の段階でも、担当の先生は、来賓対応にかなりの労力を割いてきたことがうかがえます。
●来賓を呼べなくなったことは、大変な業務削減になりました。招待状の発送。出欠席確認。受付での対応。席順の気遣い。礼状の発送。議員連中の振る舞いには困ってました
取材でも、ある先生からこんな話を聞きました。式のあと、ほかの人の靴を履き間違えて帰りトラブルになった来賓がいたため、翌年度からは「靴箱係」の生徒をつけて番号札を渡すことになった、とか。
筆者も以前、卒業式の直前に「印刷物に名前がない」と言い出した来賓を前に、担当の先生が真っ青になっているのを見かけたことがあり、深く同情した思い出があります。
そして最後にもうひとつ紹介したいのが、このコメント。「来賓」の立場の方からのものです。
●民生委員をしています。驚いたのは、民生委員にも卒業式の招待状が来たのです。幸か不幸か、コロナ禍で招待客を制限するとのことになり、出席しないでとのことに。そんなに大勢の来賓が必要なのか。そして、一人一人の紹介で多くの時間。卒業生には見たこともない人たち。もっと身近な人だけで十分だと思います
「来賓」とされる人たちのなかには、この民生委員さんのように「招待されたので(断るのもなんだし)出席している」という人も、おそらく少なからずいるのでしょう。
「自分を来賓として呼んでくれなくていい」と思っている人や、コロナで招待がなくなってほっとしているという人も、実は意外と多いのかもしれません。
“やりすぎ”でげんなり、何事も「ほどほど」に
ほかにも、卒業式で削ってほしいと感じるものについて、コメントではほかにこんなものを見かけました。まずは、呼びかけ(群読)や、歌・合唱について。
【呼びかけ】
「先生の考えたセリフを割り当てられて、叫ぶのは要らない」「人前で大きい声が出せない人もいるのに、何度も何度もみんなの前で練習をさせていた先生、異常だった」
【歌、合唱】
「歌、歌、歌の卒業式だった」「二学期後半から朝・帰りの学活はほぼ合唱の練習」「やるなら式典とは分けて行えばいい」「合唱練習しすぎて本番の感動が薄れた」
呼びかけや歌は「不要」の声もある一方、「よかった」など肯定的な声もちらほら見られました。落としどころを探るとすると、「なくす」と「やり過ぎる」の中間で、「そこそこにやる」といったところでしょうか。
校長やPTA会長の挨拶については、「なくして」という声は少なかったものの(ゼロではなかったのですが)、「もっと短く」という声は多かった印象です。
【校長やPTA会長の挨拶】
「とにかく長い」「校長の話が長かったのでうとうとしてた」「5分以内で、かつ、印象の残る内容にビシッと仕上げていただければ」「3分で良い」
ほか、証書授与について「もっと短くしてほしい」という声(小規模校ではなさそうでした)や、「在校生の参列は不要」とする意見もありました。
【証書授与】
「時間かけすぎ」「クラスの代表一人だけでいい」「児童・生徒会長が代表で受け取って、教室で担任の教師が渡しても良い」「担任の方が嬉しい子もいると思う」「呼名、間を開けすぎ」
【在校生の参列】
「在校生が出る必要なし。寒い中で座ってるだけだし、寝てるだけ」「在校生のときの方が(動けなくて)辛かった。卒業生のときは動けるから辛くなかった」「(コロナ禍で)在校生も無しだったから体育館が広く使え、子どもを近くでよく見えて良かった」
以上をまとめると、要は「卒業式の主役は卒業生」を前提に、やることを絞り込んでいけば、みんなが納得のいく式に近づいていく、ということでしょうか。
「生徒ファーストで」。コメントのなかにあったこの言葉に、集約されそうです。
大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。ノンフィクションライターとして活動し、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。著書は『さよなら、理不尽PTA! ~強制をやめる!PTA改革の手引き』(辰巳出版)、『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(太郎次郎社エディタス)など多数。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。
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