コロナ禍による受診控えの影響で、虫歯になる人が増えている。放置すれば健康寿命を縮めかねない虫歯。おうち時間でもしっかり対策したい。
「それなら、チーズをオススメします」
こう助言するのは丸山歯科医院院長、丸山和弘先生。チーズといえば料理やおつまみとしておなじみ。一見、虫歯とは関係なさそうだが……。
「チーズが虫歯予防に効果的なのは歯科業界では有名な話。2003年、WHO(世界保健機関)のレポートで発表されたのが最初ですね。近年では、虫歯の回復を促す効果があることもわかっています」(丸山先生、以下同)
虫歯の原因とチーズ、いったいどう関わってくるのか。
「虫歯の原因は大きく3つ。歯の質、細菌、糖質です。これらの要素が絡み合って虫歯になるのですが、チーズはこの中で歯の質の低下を防ぎ、同時に補強の働きをします」
チーズを食べるだけで虫歯が治る仕組みとは
チーズと虫歯予防&回復の不思議な関係。その仕組みを教えてもらおう。
「私たちの口内は中性に保たれています。飲食を行うと細菌が糖分をエサに“酸”を作り出し、酸が歯のエナメル質を溶かして虫歯につながります。チーズはアルカリ性の食品ですから、これを食べれば酸性に偏っている口内は中和される。結果、虫歯を予防するのです」
丸山先生の話からわかるように、最大の敵は酸だ。飲食のたびに酸は歯を溶かし、内部に穴を開けようとする。その危機を知らぬ間に回避できているのは唾液のおかげ。
「唾液に含まれるカルシウムとリン酸の成分が、自然に歯を修復する『再石灰化』のメカニズムを備えているからです。チーズによる虫歯の回復も仕組みは同じ。チーズには唾液と同じくカルシウムとリン酸が含まれているため、再石灰化を促進し、初期虫歯なら修復されて回復します」
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気になるのは効果的な食べ方、チーズの種類、タイミングなどだろう。
「まず食べ方は、チーズをよく噛むこと。噛めば噛むほど唾液の量が増え、チーズによる再石灰化との相乗効果を高められます。すぐに飲み込むのではなく、長く噛んで口の中にとどめておくこともポイントです」
チーズの種類は多種多様。どんなものを選べばいい?
「WHOではハードタイプのチーズを推奨しています。硬いチーズほど噛む回数が多くなり、唾液が出やすいからでしょう。チェダー、ゴーダ、エメンタール、パルメザンなどに代表されるハードチーズやセミハードチーズは、カルシウムとリン酸の量が非常に多いとされています。つまり、再石灰化が促進されやすいのです」
食べるタイミングは食後の一択。10~15グラム程度を適量とする。
「食後は酸が大量に出て歯が溶かされている状態にある。口内を中和し、歯を元どおりに修復するベストなタイミングといえます。料理としてではなく、チーズ単体でとることも重要です」
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チーズを食べるだけで虫歯が治る仕組みとは
チーズを食べた後も注意が必要。すぐに歯を磨くのは好ましくない。
「歯の修復にはある程度の時間を要します。食事直後は口内が酸性に傾いていることもあり、そこで歯を磨くと酸で溶けた歯を逆に傷つけてしまうのです。10~30分程度たってから磨くようにしてください。チーズの効果を高めるためにも、時間を置きましょう」
では、チーズ以外の乳製品を食べた場合はどうなるのか。
「乳製品にはカルシウムとリン酸が含まれているため、ヨーグルトや牛乳でも虫歯予防&回復の効果は期待できます。ただし、どちらもチーズの働きには及びません」
カルシウムを含む食べ物といえば小魚も浮かぶが……。
「小魚にはリン酸カルシウムが豊富ですが、カルシウムとリン酸の結合が固い。そこがネックとなって歯に浸透しにくく、効果は望めないのです」
一方、チーズに限らず、キシリトール(天然甘味料)やシュガーレスガム、紅茶なども虫歯予防に役立つとされている。
「WHOの指標ではチーズの虫歯予防効果はそれらを上回るレベルとしています。日本ではあまり認識されていませんが、欧米ではチーズの虫歯予防効果は常識として知られています」
まさにお口のお供に最強といえるチーズ。だがそのチーズを超えて虫歯予防効果を持つものがある。
「フッ素です。ミネラルの一種であるフッ素は多くの歯磨き粉に含まれている。WHOも認めており、虫歯予防および修復増強効果は断トツです」
しかし、日本ではフッ素の持つ毒性を過大に心配し、取り扱いに慎重だった。
「2017年、厚生労働省が歯磨きに含まれるフッ素濃度の基準を従来の1・5倍にすることを許可しました。これでようやく世界のスタンダードに追いついた形です」
「硬いものを噛めば歯が鍛えられる」はウソ
年を重ねると歯も衰えていき、虫歯や歯周病などのリスクが高まっていく。長く健康な歯を保つには、チーズを食べるだけでなく、歯の健康を阻害する飲食物は避けたいところ。その品とは?
「総じて歯にマイナスなのは酸性食品です。リンゴなどの果物、炭酸飲料などが該当します。中でも特にNGなのがコーラ。コーラは酸が強く、糖分も多いため、虫歯を招く可能性が高いわけです」
コーラと同じく、酸が強く、糖分も多いワインも要警戒。ワインを飲む際には、つまみとして定番のチーズを最後に食べるようにしたい。
「果物も酸を多く含み、歯を溶かしますが、ビタミンなどが豊富で栄養を考えたら身体に悪いわけではありません。ですから、果物のとり方に注意すればいいでしょう」
とり方によって歯への影響が変わるとは、具体的にどういうこと!?
「果物を食べる、果物を使ったフレッシュジュースを飲む、どちらが歯に悪いと思いますか? 正解はフレッシュジュースのほうです。フレッシュジュースの場合、口内の酸性濃度が一気に高まり、糖分も歯に付着しやすくなります。
対して果物を食べる場合は、噛むことで唾液が出て酸を中和し、同時に歯の修復も図られます。したがって、果物をとるならジュースよりそのまま食べたほうが歯の健康にいいのです」
前述したとおり、唾液は歯を守ってくれる強い味方。噛む行為の多い食品ほど唾液が出て、歯は必然的に強くなっていく。であれば、するめなどは歯の健康にぴったりと思うだろう。
「いいえ、するめはむしろ歯にダメージを与えます。過度に圧力が加わり、歯が割れたり欠けたりしてしまうのです。硬い食べ物は歯を丈夫にすると捉えがちですが、実際は逆。歯は筋肉のように圧をかけて鍛えることはできません。噛むことで唾液が出たとしても、強く噛み続けて歯を傷めていたら元も子もありません」
おいしいものを食べて、楽しい日々を過ごす人生に、歯の健康は欠かせない。そのために、お茶、お酒のお供はせんべいやするめではなく、チーズにしよう!
WHOがすすめる虫歯予防ランキング
1 フッ素
フッ素はミネラルの一種。虫歯予防効果は最高レベル。フッ素入りの歯磨きが市販されている。
2 チーズ
特にハードチーズ(チェダー、ゴーダ、エメンタール、パルメザンなど)の虫歯予防効果が高い。
3 キシリトール
虫歯予防効果が実証されている天然甘味料。日本ではキシリトール入りのガムがおなじみ。
4 紅茶
紅茶にはフッ素が入っているため、虫歯予防効果大。緑茶の場合、カテキンの成分による同効果は低い。
教えてくれたのは丸山和弘さん
丸山歯科医院院長。1995年、群馬県高崎市で開業。地域密着型の歯科医師として、虫歯予防から歯のホワイトニング、入れ歯の相談まで、さまざまな症例と日々向き合っている。All About「歯の健康」ガイドを務める。
(取材・文/百瀬康司)