知育玩具であるマグネットボールの誤飲で1歳女児の内臓が圧迫壊死した事例や、カプセルスポンジの誤飲で内臓を傷つけるといった、おもちゃによる事故が多発している。
そんな知育玩具や100円グッズ、夜天の景品などで遊ばせているうちに子供がもし危ない目に遭ってしまったら…
マグネットボール誤飲で1歳女児の内臓が圧迫壊死
「小学5年生の孫にねだられ、マグネットボールを手土産にしました。近所のおもちゃ屋さんにはなかったので、わざわざインターネットで購入したのですが……」
そう声を落とすのは、静岡県に住む60代の女性。可愛い孫の喜ぶ顔見たさで張り切った結果は、怒りに満ちた娘からの電話。
「バーバがあんなおもちゃ持ってきたせいで、病院行っちゃったよ!」
女性には小学生の孫の下にもう1人、3歳の孫娘がいた。聞けば、マグネットボールに興味津々だった3歳の孫娘は、床に転がっていたボールを複数個、口に含んで遊んでいたという。
幸いにもそれに気づいた母親が“ぺっぺして!”と声がけし、すぐに病院の救急外来へ。エックス線検査で体内にマグネットボールがないことは確認できたものの、一歩間違えれば、最悪の事態になっていたという。
マグネットボールは強力な球体の磁石でできており、2個以上飲み込むと、磁石同士が臓器を挟み込んだ状態で動かなくなる。そのまま時間がたつと臓器に穴が開き、開腹手術が必要になったケースも報告されている。最初は腹痛や嘔吐、発熱などの軽い症状だが、放置しておけば生死に関わる危険性もあるのだ。
国民生活センターでは、マグネットボールに関する重大事故として下記のような事例を公開している。
マグネットボールによる重大事故例
「クリスマスプレゼントとして与えたマグネットボールを5個誤飲し、胃壁と腸壁を穿通していたため、マグネットを摘出し空腸穿孔部を縫合」
(3歳男児)
「小腸内の3か所にあった磁石が磁力で引き合い、小腸を結着し、圧迫壊死を起こして穿通しており、直径3ミリの磁石計37個を摘出」
(1歳9か月女児)
これらの事故商品は、いずれもインターネットで購入した商品であり、販売サイトでは、誤飲に関する注意喚起もなければ、対象年齢に関する表記のないサイトもあった。そればかりか、幼小児向けの「知育玩具」であるとうたうサイトもいまだに数多い。
小さな子どもの口の大きさは直径約4センチ。これより小さく、子どもの口の中に入るものは何でも誤飲や窒息の原因になる可能性がある。
アメリカでは、少なくとも4500件を超えるマグネットボールの誤飲事故で子どもたちが病院に運ばれ、1歳7か月の女児が死に至った。その経緯を受け、CPSC(米国消費者製品安全委員会)がマグネットボールの自主リコールを2社に命じたが応じないため、強制リコールの手段を取ったと報じられている。
流行りのおもちゃは購入前に安全確認を
2016年末に爆発的に流行したハンドスピナー。指でボールベアリングを挟み、羽根を回転させて遊ぶ、ごくシンプルなおもちゃだ。ところがこれもまた、国内外で数多くの事故が報告されている。
回転中にはずれた金属部品の誤飲、回転したまま飛んだハンドスピナーによるケガ、角膜損傷。ボールベアリング部から指が抜けなくなったことによる手術。指にはまったベアリングの切断は容易ではなく、抜けるまでの痛みも激しい。
2018年3月には、国民生活センターがハンドスピナーの部品の誤飲に関する注意喚起をした。通販で購入できる「6000円までの価格帯の90銘柄」を調査対象とした結果、いずれのハンドスピナーにも、日本玩具協会が付与するSTマーク(玩具安全マーク)がなかった。
STマークとは、1971年に日本の玩具業界が策定したもので、14歳までの玩具を対象に「先端がとがっていないか」「誤飲する大きさではないか」「燃えやすい材質を使っていないか」「鉛や水銀などの有害物質を使っていないか」などの検査項目を設け安全性を確認したものだ。
日本で流通するおもちゃの7割に、このSTマークが付けられているが、マークなしの玩具もある。
例えば、カプセルに圧縮したスポンジが入っていて、水につけると大きくなって出てくる玩具、カプセルスポンジ。100円ショップなどでよく売られているが、これも2018年に大事故が起きている。
入浴中の4歳女児の膣内にスポンジが入り、何か月も続く不正出血の後、MRI検査によって事実が判明したケースだ。この玩具はX線に写りにくいため、恐竜型スポンジは女児の体内に4か月以上も入ったまま。最終的に全身麻酔で摘出する大手術になった。
水で膨らむ玩具では、高吸水性樹脂ボールの誤飲事故も数件報告されている。生後11か月の幼児が直径3センチの樹脂ボールを飲み込み、腸閉塞を起こした結果、開腹手術を受けたケースも(いずれも国民生活センターによる事故事例)。
お祭りのおもちゃも危険だらけ
祭りや縁日に孫を連れていき、ねだられるままに出店のおもちゃを買い与える、一見、微笑ましい風景だ。だが、その行為が、後々可愛い孫を危険にさらすとしたら……?
消費者庁と国民生活センターが連携して実施する事故情報データバンクには、縁日のおもちゃについて数多くの危険な事例が寄せられている。
「お祭りでもらった棒状の発光玩具を曲げて遊んでいるときに液漏れ。中の液体が顔にはねた」(3歳)
「電球の形をした光る容器に入った炭酸飲料を購入。子どもが飲んだ後、容器底部のライトに使用されているものと同じボタン電池が容器内に混入していたことに気づき、心配になった」(4歳)
「お祭りで購入したピカピカ光るカチューシャのボタン電池を誤飲した」(1歳)
棒状の発光玩具(ケミカルライト)の中の液体、フタル酸エステルは刺激性が強く、皮膚につくと炎症を起こす。目に入るとかゆみと涙が止まらなくなり、角膜炎を起こすことも。飲み込んだ場合には、呼吸困難を起こすおそれもある。付着したらすぐに洗い流すなどの対処が必要だ。
ボタン電池は粘膜に化学やけどを起こし、食道や胃の壁を傷つける危険がある。誤飲に気づいたら、ただちに病院に連れていくなど、あわてず行動したい。
「娘に怒られた後、おもちゃを買う前に、注意書きなどをよく読むようになりました。欲しがるからって安易にあげちゃ駄目なんですね」
冒頭の60代の女性はそう語る。
可愛い孫を守れるのは、玩具の安全を見極めるしっかりした目だ。
<取材・文/ガンガーラ田津美>