2020年4月に改正健康増進法が全面施行されてから2年が経とうとしている。この2年で喫煙を取り巻く環境は大きく変化。望まない受動喫煙の防止を図るため、学校や病院などに加えて飲食店やオフィスといった場でも受動喫煙対策が義務付けられ、屋内では原則として、喫煙専用室または加熱式たばこ専用喫煙室でのみ喫煙が可能となった。
改正健康増進法の全面施行以降に多く見かけるようになったのは、「街中の喫煙所」だろう。屋内で喫煙できなくなった“喫煙難民”による歩きたばこや路上喫煙の増加を防ぎ、屋外での分煙を推進するため、公衆喫煙所を設ける自治体が増加。東京・台東区は'21年9月、24時間利用可能な公衆喫煙所を上野公園にほど近い池之端に設置している。(同じコンテナ内に日中と夜間で使用可能な喫煙所が設置されている)
このように、屋外ではスモーカーとノンスモーカーの“共存”を図る動きが広がりを見せているが、さらに一歩進んだ取り組みとして、オフィス空間での分煙という新たな共存の形を提案する施設が登場した。
それは22年3月18日、東急田園都市線・大井町線の二子玉川駅から徒歩6分の場所にオープンした個室型サテライトオフィス『REALab powered by point 0 二子玉川』。3階建てのビルの2~3階に構える同施設は、なんと3階がまるごと「喫煙可能エリア」となっているのだ。
安心・快適に働ける空間を追求した施設づくり
『REALab』は、三菱地所リアルエステートサービス、そして様々な企業とタッグを組んで新しいオフィス空間づくりに取り組むpoint 0との共同開発プロジェクト。
会社や自宅の代わりに、身近な場所でリモートワークができるこれからの時代の新しいオフィス形態を提供している。'21年10月にオープンした東京・立川に続き、二子玉川が2つめの施設となる。
『REALab powered by point 0 二子玉川』は、2フロアの構成で、1フロア当たり13の個室を完備。『REALab』では「安心・快適に集中できる個室空間」をテーマとして掲げており、施設と各個室への入り口、さらにはプリンターまで顔認証を採用。
カードキーの利用や暗証番号を打ち込む必要がないので、接触の機会が減り感染対策にもつながる。また同じく感染対策として、コロナウイルスを99.9%不活性化するシステムを導入して、常にきれいな空気を提供しているという。
快適に仕事ができる空間の開発に取り組んでおり、例えば、フロアの中心に配置された個室は「坪庭」をコンセプトに、向かいのブースとの仕切り部分をガラス張りとし、その間に植栽を配置。
「完全に遮断された空間にすると、圧迫感からストレスを感じる傾向にあります。ガラスにすることで植物を見渡せ、ストレス軽減を図っています」(株式会社point 0 豊澄幸太郎副社長)
さらに、フロアには鳥のさえずりなどの環境音が流れている。
「今、ウェブ会議が主流になっています。REALabは完全個室になっていますが、さらに隣のブースからの音漏れを防止するマスキングの効果も狙って環境音を流しています」(豊澄氏)
最新技術を投入した喫煙室を設置
「喫煙可能エリア」の3階も、基本的な仕様は2階と同じ。違う点は、たばこが吸えるかどうかという点のみで、加熱式たばこは各個室にて、紙巻たばこは同じフロア内に設けられた「喫煙専用室」で喫煙が可能。
外に出る、フロアを移動するなどの必要なく喫煙ができるようにした。三菱地所リアルエステートサービスとしても、point 0としても、分煙環境を整備したサテライトオフィスの出店は初だという。
「オフィスビルでも全面禁煙としたり、喫煙所が高層ビルで共有部に1か所のみの例が増え、肩身が狭い喫煙者の方が増えていると聞きます。施設内でたばこを吸えるという例は非常にまれです。
3階は喫煙者の方も快適にご利用いただけるフロアとしました。また、完全にフロアが分かれていますので、2階を利用される非喫煙者の方もたばこを感じることなく仕事をしていただけると思います」(三菱地所リアルエステートサービス 賃貸事業グループ ビル運営部 四課 石坂真潮氏)
喫煙専用室の排気や衛生管理には、ダイキンと大建工業の最新技術を活用。まず、喫煙室前室にはストリーマ空気清浄機が備えられており、もし喫煙者がたばこのニオイを喫煙所外に持ち出しても、ストリーマと深紫外線UVでスピード除菌されるようになっている。
喫煙専用室内は、通常、室内の奥側に排気口を1か所設置するところ、灰皿を設けた各喫煙者の想定位置の真上に計3か所の排気口を備える個別排気を行う。なお、1時間当たり80回以上空気が排気されるようになっているという。
室内の壁材には、熱・水・汚れに強い不燃壁材「グラビオ」を喫煙所へ導入。たばこの煙の着色や清掃性に関する実証実験の実施し、入手したデータを今後に活用していく予定だ。
「point 0はもともと様々な企業のみなさまと共同で実証実験を行い、オフィス空間の開発に取り組んできました。今回の二子玉川での喫煙可能フロアの利用状況も、三菱地所リアルエステートサービス様とともに検証し、今後に生かしていきたいと考えています」(株式会社point 0 取締役 宇野大介氏)
オフィスビルにおける喫煙所の効能
日本総合研究所によると、企業オフィスでの喫煙所の効能として、
(1)コミュニケーションができる
(2)情報収集ができる
(3)知識・情報の共有化につながる
(4)上下・水平関係の構築につながる
(5)相互理解・信頼性につながる
(6)リフレッシュ・リラックス、気分転換になる
ということが挙げられている。
現在は、オフィスビル内の喫煙所が狭いため待ち時間が発生する、もしくは施設内に喫煙所がないため、外に出るという喫煙者も少なくない。
『REALab powered by point 0 二子玉川』はフロアが分かれた、完全個室型のサテライトオフィスだが、同一フロアでの分煙、さらにはオフィスビルにおける分煙も検討される可能性もある。
街中での分煙に続いて、働く場での分煙へ。今後も受動喫煙を防止しながら、分煙を目指していくことで生産性に寄与する「共存2.0」の進展が期待される。