山之内すず(公式インスタグラムより)

 司会の島田紳助が優しく出演者に言葉をかける。

「我々スタッフが一生懸命、一生懸命捜しました。お母さん……見つかりましたよ」

 '94年から'01年にかけて放送された番組『嗚呼!バラ色の珍生!!』(日本テレビ系)のハイライトといえる場面だ。生き別れや行方不明になった家族、または大切な人の“捜索”を一般視聴者が番組に依頼。番組スタッフが探し、見つかった場合、感動の対面……というかつてテレビ業界で流行した“人探し・公開捜査バラエティー”。

 テレビ史を振り返れば、'68年から'87年まで放送された『お昼のワイドショー』の“テレビ公開捜査”(日本テレビ系)、『バラ色の珍生!!』と同時期に放送スタートの『目撃!ドキュン』の“ご対面”(テレビ朝日系)や『完全特捜宣言!あなたに逢いたい!』(同)など、古くは昭和そして平成と、このような“人探し”系の番組が流行った時代があった。それと似たようなスタイルの番組が令和に復活するようなのだが……。

芸能人のSNSで「この人知りませんか?」

《テレビ朝日さんの特番です(手を合わせた謝罪の絵文字) SNSを使って、名前と写真しか知らない人を探し出せるかというものです(手を合わせた謝罪の絵文字)》

 そうツイートしたのは山之内すず。

「そのツイートの前に、40代から50代くらいの一般人と思われる女性の写真とともに、その人の名前を記し、“この人知りませんか?”と呼びかけるツイートをしていました。このツイートにはさまざまなリプライが付いていましたが、中には“誰々ではないか”というようなリプライもありました」(ウェブライター)

 当該ツイートはしばらくして削除された。

《リプ欄に書いた通り、テレビ朝日さんの特番での企画でした(手を合わせた謝罪の絵文字) 情報集まりましたので、消させていただきます(頭を下げた謝罪の絵文字) オンエアの情報公開をお待ちください(手を合わせた謝罪の絵文字)》(山之内すずのツイッターより)

 コンプライアンス、人を傷つけない笑い……現代のテレビ界、芸能界は強く“モラル”が求められている。

「“SNSを使って、名前と写真だけで知らない人を探し出せるか”という番組の企画ですが、ただでさえ拡散力の強いSNSという媒体を使って、しかもそのアカウントはより不特定多数の人が目にする“芸能人アカウント”を使って企画を行うのは、少し現代的な個人情報保護、プライバシー保護の感覚が希薄すぎるのではないかと思います」(ITジャーナリスト)

山之内すずのツイート。謝罪を示す絵文字が多用されていた(ツイッターより)

  “番組の企画”、であればなんでも良いのか。

《情報を拡散することで知らず知らずのうちに犯罪に加担してしまう場合もあるので自分自身も普段から注意していますが、今回は企画として本人の許可を得て拡散させて頂いています》

 山之内はこのようにもツイートしている。この件に関する彼女のツイートの文面には謝罪を示す絵文字が多用されていた。しかし、本来それを示すべきなのは……。

「写真と名前を投稿された人はあらかじめ番組が許可を取った人物でしょうが、SNS上で本当に特定されることで、さらには個人情報が不当に拡散されてしまったら、番組側はどうするつもりだったのか……。

 コンプライアンスを遵守するために面白い番組が作りづらくなっているなどとも言われますが、配慮がなさ過ぎるのではないでしょうか。過去の“捜索番組”でも、視聴者に情報を呼びかけるものもありましたが、それは“番組宛て”に送られるもので、SNSのような誰でも閲覧できる場所で公開されるようなシステムではなかったはずです」(前出・ITジャーナリスト)

テレビ朝日に問い合わせると…

 事実、山之内のツイートについてはSNS上で以下のような声が一部で上がった。

《芸能人とテレビ局の名を使って、名前と写真しか知らない方の個人情報を集めることにどういう意味があるのでしょうか》

《すずさんは番組側に言われるがままにツイートしただけだと思いますので、こういう企画を番組にしようとするテレビ局の浮世離れというか、無知さにより、フォロワーに誤解を生んだって感じですね》

《思わずRTしてしまいましたが善にも悪にもなり得るものですから そこら辺は強調して伝えてもらいたいです》

 雑誌に芸能人の自宅住所が掲載されるなど、昭和や平成初期のような、“個人情報”や“プライバシー”というような言葉もなかった時代は今では考えられないようなこともあった。しかし時代は令和である。

「“想定外が重なって出演者が怪我をしてしまった”というようなケースは、少なからずテレビ業界では起こってきたことです。当然ながら起こってはいけないことではありますが、それらはあくまで“事故”です。

 今回のケースはSNSを利用すること、またその拡散力を想定できなかったのであれば、それは番組作りの上で考えが浅はかであるし、想定したうえで行っていたのなら個人情報やプライバシーへの配慮の気持ちが希薄すぎるのではないでしょうか」(芸能ジャーナリスト)

 テレビ朝日広報部に今回の件を問い合わせると、ひと言のみ回答があった。

「複数のご指摘を受けており、内容を精査いたします」

 番組名及び放送予定日、番組のために投稿した山之内自身にも批判の声が上がっていること、また番組制作スタッフらの本企画におけるプライバシー意識についても問い合わせたが、回答はなかった。

 しかし問い合わせたその後、この企画については再検討されているようだ。

「各所の指摘を受け、企画の放送自体をイチから見直しているようです」(テレビ局関係者)

 バラエティー番組を生んだ昭和、最大のメディアとして高視聴率争いとなった平成、そして時代は令和。テレビ制作陣の“意識”は果たしてどこにあるのだろうか。