西川成次容疑者(フェイスブックより)

「ちょうど犯行時刻のころ、あの家からケンカする声が聞こえてきたんです。興奮している男の声でした」

 と近所の住民は振り返る。

 3月20日午後5時4分ごろのこと。岡山県倉敷市の宗教施設で祖母・西川かずゑさん(90)に対し、孫の自称大学生・西川成次容疑者(31)が手のひらで頭部を複数回殴打する暴行を加えたという。

 容疑者の母親は約1分後、「息子が暴れている」と110番通報。

 県警児島署の警察官が駆けつけると、かずゑさんはうつぶせで倒れており、呼びかけに反応がない状態だった。

90歳祖母を意識がなくなるほど殴打

 パトカー4台、救急車1台が集結する物々しい雰囲気の中、救急搬送を目撃した男性はため息交じりに話す。

「おばあちゃんは意識がなくて、救急隊員が懸命に心肺蘇生措置をとっていました」

 警察官は母親を事情聴取するとともに、その場にいた成次容疑者を傷害の疑いで現行犯逮捕。意識障害を負ったかずゑさんは市内の病院に搬送されたが、同6時23分ごろ、死亡が確認された。

「県警は容疑を傷害致死に切り替え、犯行の経緯や動機などを詳しく調べている。成次容疑者は“おばあちゃんを平手で何発か殴ったことに間違いありません”と容疑を認めており、おばあちゃんを嫌っていたとする話もしているようだ」(社会部記者)

 現場は小高い丘の中腹にある古い建物。地元関係者などによると、西川家の敷地内には容疑者の父親が信仰する宗教の施設があり、事件はそこで起こった。

「一家が引っ越してきたのは十数年前。両親と子ども4人の6人家族だった。あとから父方のおばあちゃん、すなわち事件で亡くなった祖母が同居するように」(地元関係者)

 容疑者は次男にあたり、地元の小・中学校を経て県立高校に進学。父親が運営する月謝3000円の学習塾を手伝うこともあったといい、現役で関西圏の私立大に進んだ。

愛用パンツを自慢げに答える場面も(西川成次容疑者のフェイスブックより)

身体を壊すほどの勉強好きだった

「4人きょうだいは揃って優秀。成次くんも例外ではなく、勉強も運動もできる秀才タイプだ。努力家で頭が良すぎたため、身体を壊すことを心配した両親は“もう勉強せんでええ”と勉強禁止令を出すほどだった」(近所の男性)

 近隣住民の多くは、成次容疑者が実家に戻っていると知らなかった。とっくに大学を卒業してバリバリ働いている年齢であり、周辺で姿も見かけなかったという。

 実家周辺と積極的にかかわった様子のない生活で、成次容疑者が目を向けたのはインターネットだった。

 会員制交流サイトのフェイスブック(FB)で『アーティスト』を名乗り、女性とのLINEのやりとりをスクリーンショットして貼り付ける投稿を繰り返した。

 例えば、《どうしてそんなにカッコいいの?》とメッセージが来ると、いちいちそれを貼り付けて、《…光栄の至り》とか、《…至上の喜び》とFB上でコメントする。

 求人や審査合格を通知するメッセージについても同様に掲載しており、《二度目》《高額請求》などとする容疑者のコメント内容から、身に覚えのないスパム(迷惑メール)と推測される。女性のメッセージもその類のものだろう。

こんなものが来ましたよ、と晒して小馬鹿にすることに、容疑者はのめり込んでいった。

 昨年6月には、《彼女に立候補していいですか》とのメッセージに対し、《…ヨロシク》とハートマーク付きで了承。

 おだてられ続けるうち、LINE上で直接《ありがと。ずっと言われてると好きになっちゃうかもね》などとやりとりするようになった。

 知人男性によると容疑者は独身。少なくとも8人の女性からのメッセージを公開し、《…FBの友達(女の子)10000人》と豪語する。

 なかには英語のやりとりもあり、容疑者から求婚し、『OK』を掲げたコアラのスタンプをもらっている。その日付でプロフィールを『既婚者』にするなど次第に奇異な対応が目につくように。

 今年1月には女性から、《パンツ見せて(笑)》と頼まれ、《グッチのブラック》とハイブランドを自慢した。

 ほかにも、グッチのネックレスとみられる画像を載せて《欲しいならあげるよ》とする投稿も。

 動画投稿サイト・ユーチューブでも計31本を配信しており、ボサボサの頭髪と無精ヒゲで宗教儀式めいた手ぶりをしたり、ボソボソと「苦労が幸せの種として実って……」などと言語不明瞭な説教をしている。

横笛や宗教的儀式のような動画を配信していた西川成次容疑者
西川成次容疑者(フェイスブックより)

180センチの孫が90歳祖母を平手打ち

 眉毛を剃って金髪にしたこともあり、どこを目指しているのか見当がつかない。近隣住民によると、ここ1〜2年のあいだに容疑者宅周辺にパトカーが駆けつけたことが複数回あったといい、何らかの家庭内トラブルがあったのではないかという。

 孫の近況をみかねて、かずゑさんが小言をいう場面があったのだろうか――。

 近所の女性は、

「いつもニコニコしているやさしいおばあちゃんで、孫を叱る姿は想像できません」

と首を振る。

 かずゑさんは少しふくよかな小柄の女性で、デイサービスを受けていた。ひとりで杖をついて「しんどいわ〜」と言いながらも、険しい坂道を登り降りするなど健康そうにみえたという。

 一方、成次容疑者は身長180センチ前後のがっちり体型で、「成績優秀で憧れの存在。運動神経もよくバレーボール経験があった」(同級生の女性)という。

 事件を悲しむ多くの知人が「平手打ちで人は死ぬものだろうか」と素朴な疑問を口にするが、かずゑさんとの身長差で平手を打ちおろせば、力次第で頭にバレーボールのスパイクを受けたに等しいダメージがあってもおかしくない。因果関係の解明に捜査の進展が待たれるところだ。

 成次容疑者が秀才少年だったころを知る女性はこう話す。

「家族が気の毒。ご両親はゴミを拾って歩くなど地域貢献に熱心で、人の悪口も言わないし、生活に困った人に住居や食事を提供するほど。成次くんも才能をハナにかけたところがなく、どうしてこんなことになったのか……」

 自宅を訪ねて取材を申し込むと、容疑者の父親は玄関越しに「結構です。もう来ないでください」と言った。