「事実を書いただけなのに口コミが削除されてしまうのは、正直納得がいかない。飲食店に有利な口コミだけが残るとしたら、今後はもうグルメサイトを信用できません」
強い口調で憤りを漏らすのは、都内在住の田崎洋子さん(30代・仮名)。昨年のクリスマスに起こった悲しい出来事を口コミとしてグルメサイトに投稿したところ、投稿が一方的に消されてしまったのだという。彼女が投稿したのは、次のような内容だ。
『数週間前からクリスマスディナーのコースを予約していました。当日、彼氏とふたりで楽しみにしながらお店に向かいましたが、席に案内されて10分待っても20分待ってもドリンクの注文を聞きに来てくれませんでした。そのまま1時間が経過しても、結局何も出てこないまま……さすがにそれ以上は待てず、何も口にしないままお店を出ることにしました。年に1回の特別な日のディナーをこのお店に任せたのは失敗でした』
そのお店はグルメサイトでは評価が高く、田崎さんもそれを鵜呑みにして予約をしたという。しかし、この日の店内ではほかの席の客からもクレームが飛び交っているような状況で、ピリピリとした雰囲気だったという。お店へクレームを伝えたいという気持ちもあったが、ほかの人が同様の悲しい思いをしないですむように、情報のひとつとして上記の口コミを投稿したと田崎さんは語る。
「最初に投稿したのは『食べログ』でした。すると投稿から2日ほどたったあとに“口コミガイドラインに該当する内容となっており、勝手ながら下書き状態へ変更させていただきました。現状でのご投稿はお控えいただけますでしょうか”というメールが届き、口コミは非掲載の状態になりました。具体的には“実際にお食事された内容を具体的に記述してください”というガイドラインに触れるらしく、たしかに食事を口にしていない私の口コミは不適切だったのだなと納得しました」
各サイトの“ガイドライン”にばらつき
各グルメサイトの対応はどうなのか。そのお店を予約した『一休.comレストラン』と普段使っている『Retty』、そしてグーグルマップの店舗口コミ欄にそれぞれ食べログと同じ内容を投稿したところ、Rettyでは『ガイドラインに反する』という理由で削除された一方、ほかのふたつは問題なく掲載されたままだった。
「お店にとってマイナスの情報でも、利用者がお店を選ぶうえでは重要です。サイト上で評価がいいお店を予約しても、その情報が偏ったものだとしたら……今後そういうグルメサイトは使いにくいなと思いますね」(田崎さん)
ネット上では田崎さんと似たような体験が散見される。そこで、メディア内での口コミの削除について、大手グルメサイトである『食べログ』『ホットペッパーグルメ』『一休.comレストラン』『Retty』『ぐるなび』を運営する5社にアンケート取材を行った。
ぐるなびは「トリップアドバイザー社との連携により、一部の店舗ページで口コミ情報が掲載されていますが、独自の口コミ投稿サービスとしては扱っていないため、いただいたご質問にはお答えしかねます」と回答。
Rettyからは期日までに回答はなかった。そのほかの3社についてはいずれも、「口コミの掲載についてはガイドラインや利用規約に沿って運用しており、ガイドインに抵触する内容については必要に応じて対策をする可能性がある」という回答だった。一方、その審査の具体的な内容やプロセスについては、各社非公表だ。
「グルメサイトができた当時から“サイトが掲載店からお金を受け取っている場合、そのお店の悪い口コミは削除される”といったウワサは後を絶ちません。ただし、実際にそういった事実があるわけではなく、各社のガイドラインに沿った内容かどうかというのが、口コミの掲載可否につながる主な理由でしょうね」
そう語るのは、グルメジャーナリストの東龍さん。「おいしくない」「サービスが悪い」「高すぎる」といった客観的な判断がしにくいマイナスな内容は、特にガイドラインに抵触しやすいという。
評価基準が公表されない“ブラックボックス”
「こういうウワサが出てしまうのは、大きく2つの原因があると考えられます。ひとつは、誰の目にもはっきりとわかる形で点数が現れること。もうひとつは、その評価のロジックが公表されず、ブラックボックスであることです。評価基準が不透明なので、その点で不審に思う人が出てしまうのは仕方ないのかもしれませんね」(東龍さん)
例えば、食べログにつく星はユーザーの各評価を単純平均したものではなく、 レビューする人の影響度の高さを加味して全体の評価を決定するといった“加重平均”が行われていると公表している。ただし具体的なプロセスが公表されているわけではない。
「評価プロセスの非公表はユーザー側が悪用してお店の評価をいたずらに操作できないようにするための予防策でもあります。店側だけでなくユーザーメリットも第一に考えた結果が、いまの形なのだと思いますよ」(東龍さん)
特に口コミについては各社その扱いに神経を尖らせているようだ。
食べログの広報によると、「たとえ食事に対する不満や批判的な内容でも自由に投稿することが可能となっています。ただし、どのような内容・表現の口コミでも投稿できるということではなく、事実関係の確認が困難な事象についての口コミがお店に悪影響を及ぼしたり、ユーザー様とのトラブルのもととなったりするのは本意ではありません。そのため、口コミガイドラインや利用規約で投稿をご遠慮いただきたい内容を定めております」という。
グルメサイトを「信頼していない」が3割
「グルメサイトの利用が高まるにつれて、お店側に与える影響も非常に大きなものになっています。消費者側が自由に参加してコンテンツが成り立つ口コミサイトの場合、その主観的な内容をどう扱うかは永遠の課題でもあります。ユーザー側もその利点や問題点を正しく理解して使用していくことが重要だと思いますね」(東龍さん)
2021年のテーブルチェック社の調べでは「グルメサイトの信頼度」について、信頼していないという回答が3割近くにも上るという結果に。最近では、SNSやグーグルマップを見て、飲食店を探す人も多い。先述の田崎さんもいまはSNSが最も信頼できるメディアだと語っている。
「ツイッターで“渋谷 居酒屋”と調べれば、情報はどんどん出てきます。マイナスの情報も、このメニューがおいしいというプラスの情報もあるので、その情報をもとに店名をGoogleで検索し、さらにはグルメサイトでの評価も見て、最終的な判断材料にしていますね」(田崎さん)
自分に合ったお店の探し方という点については、東龍さんも同様の意見だという。
「あらゆる情報が氾濫している一方、お店選びの選択肢も多様化しています。圧倒的な情報量と掲載店舗数を誇る食べログ、厳選したお店のみを掲載してサイト経由で予約した人のみが口コミ評価もできる一休、実名での口コミにより成り立つRettyなど、グルメサイトだけを見てもその個性はさまざま。複数の意見を比較して、なるべく客観的な情報を参考にしていくということが重要ですね」
メディアを横断して情報を比較するのはネット社会での基本リテラシー。店選びにおいても決して例外ではない。
取材・文/吉信 武